mazda CX-60 直6は期待以上?まこまちの車選び 2025 地獄沼編 第2話

これは、シビックe:HEVを心から愛するがゆえに、もっとたくさん走らせるユーザーへのバトンタッチをと、涙をこらえながら手放す決断をした男の物語である。まあ、いつものことなんですがね。

 

車検までに幾つか試乗しておきたいと思う中、私が一番気になっていたのは、マツダ。神奈川県ではマツダディーラーの塩対応で、試乗さえ叶わなかった魂動デザイン。ぜひ触れておきたかった。

 

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甲信マツダのビッグイベントに優しく案内されるホンダユーザー

それは 顧客向けの販売会だった

mazda CX-60のタン色内装運転席正面
イベントに展示されたCX-60のタン色コックピット。お祝いの花飾りが目を…引かない。やっぱり車を見ちゃいますよね。

 

ちょうど長野市で、甲信マツダが催し物をするらしい。家族を善光寺に置き去りにして、楽しみに当日を迎えた。若里多目的スポーツアリーナに展示車一挙100台の他、試乗もできるというのだから、仕方がない。

 

そんなウキウキ気分で到着し、入り口に着くと、スーツ姿のセールスさんがいっぱいだった。あれ、思っていたのと違うなあ。

 

案内係さん ダイレクトメールはお持ちですか?

まこまち  いえ、ウェブで知って来ました。

案内係さん お取引はどちらのお店で?

まこまち  いえ…今はホンダ車で…

案内係さん 承知しました。お住まいはどちらですか?

まこまち  松本平のほうから来ました…

案内係さん …それは遠くから…ありがとうございます

 

どうやら、顧客向けの販売会だったようだが…信州のマツダさんは、どうやら応対してくれるようで、嬉しいぞ!

 

気持ちの良いセールスさん 長野はマツダが多く走っているわけだ

mazda CX-60 セールスさんが丁寧にリアシートを倒してくれた
セールスさんが丁寧に、色々教えてくれる。荷物を沢山積みたい私にとって、ラゲッジルームの広さは重要です。

 

長野本店のセールスさんは、とても丁寧に車の説明をしてくれた。私がCX-60に興味があると伝えると、すぐに展示車のもとへ案内してくれる。そればかりか、ディーラーでなければ聞けないような詳細な情報まで教えてくれるのだから、有り難い。それに、シビックもカッコいいですよね、ロータリーEVオススメですよと私の今の愛車にまで気を配りつつ商品に目を向けさせるあたり、基本をしっかり押さえた誠実な方だった。

 

もちろん、それが仕事だと言ってしまえばそれまでなのだが、やはり車選びも人と人との関わりだ。どこかで「この人から買いたい」と思う瞬間がある。それは、車とお金のやりとり以上に、気持ちの良い取引を重視したくなるものだ。

 

試乗の受付が終わると、待ち時間のあいだにもCX-60の魅力を余すことなく語ってくれる。ふと視線を横に向けると、そこにはCX-80が。気がつけば三列目シートに腰を下ろし、座り心地談義をしていた。なるほど、信州はマツダ車をよく見かけるわけである。

 

マツダCX-60 XD SP インプレッション

割り切りを感じるすっぴんモデル

mazda CX-60 SPのプラスチッキーなセンターコンソール
CX-60 XD SPのシフトレバー周りは、正直言って質感は良くない。Lパケとの価格差はあまりないので、上位グレードにしたほうが幸せだと思います。

 

マツダCX-60は、かつてシビックやZR-Vを選ぶかどうか悩んでいたときの、真っ向勝負のライバルだった。最大の魅力は、やはり直列6気筒ディーゼルエンジン。「車選びは心臓選び」なんて言葉をどこかで聞いた気がするが、本当にそうだと思う…その心臓に、デザインや使い勝手をどのように肉付けするかが、車の醍醐味なのだ。

 

燃費が良くて、ゆったりと家族で乗れる車。CX-60は理想的だった。けれども、ホンダのスポーツe:HEVという楽しそうなハイブリッド・システムが、当時の私の心を見事にかっさらっていった。理性が囁く前に、感情が踊っていた。

 

今回試乗したのは、ハイブリッドのつかない“すっぴん”直6ディーゼルモデル。ソウルレッドのボディが陽射しに映えるCX-60 XD SP。どうやら最近追加された新グレードらしい。足まわりはブラックで引き締められていて、大柄なボディにメリハリがついている。お、けっこう好きかもしれない。

 

mazda CX-60 SP サイドから見る
エクステリアの質感は、やはり高い。寸止め感あるボンネットもカッコいい。CX-60の中でも、一番良いんじゃないですかね?

 

ドアを開けて、シートに腰を下ろす——あれ?なるほど、これは“割り切り”モデルだ。シフトレバー周りの質感も、シートの触感も、やはりLパッケージ以上が恋しくなる。特に反発力の強いシートは、短時間の試乗では良し悪しが判断しにくい。いや、むしろ姿勢良く座ることを諦めるタイプかもしれない。

 

試乗には、私の住む地域のディーラーから来たという若いセールスさんが同乗してくれた。「最近、車好きの気持ちが少しずつわかってきたんですよ!」と、爽やかに語る24歳。なんだか頼もしい。そんな彼に導かれながら、いよいよ試乗コースへと躍り出た。

 

直6ディーゼル…CX-60ユーザーは贅沢もの

mazda CX-60 の直列6気筒エンブレム
誇らしげに着飾られた、直列6気筒を表すエンブレム。今回のマイナスチェンジに合わせて、すべてのグレードでつけられたらしい。

 

まず驚かされたのは、駐車場の移動だけでも感じられる、ディーゼルエンジンの軽やかなサウンドだった。ガラガラでもなく、ズシリでもない、なんともリズミカルな響き。そして期待していた、いや、むしろ覚悟していた“シフトチェンジのショックの少なさ”に、思わず「おおっ」と声が出た。テラテラテララと奏でるようなビートには、「爆発」という言葉はまったく似合わない。むしろ、毎回このサウンドが聴けるなんて、CX-60のユーザーは贅沢だなぁと思ってしまう。

 

さらに、久々に体感する右足と加速の間の“タイムラグ”——これが実に懐かしい。電動モデルに慣れた今では、右足の動きに対して即座に反応する“ツキの良さ”が当たり前になっていたけれど、あの感覚にはどこか神経質さも伴っていた。我が家にはシビックe:HEVと日産サクラがあるから、なおさらエンジンのトルクでググッと車体を押し出すこの感覚はクセになる。……まあ、無い物ねだりではあるのだけれど(笑)

 

少し力を込めてアクセルを踏み込むと、ディーゼルらしい熱気を帯びた、湿り気のある低音が車内に広がった。思っていたよりトルクは薄め?……と思いきや、それは“制御された扱いやすさ”と感じることができた。初めて乗る人でも、きっと手懐けやすいタイプだ。

 

mazda CX-60 SP ドアグリップのステッチ
SUVらしく、しっかりとしたグリップがつくのは◎。運転に集中しすぎて、触り忘れたのはバツ(笑)

 

セールス氏 マツダはアクセルの重さを最適化してるんです。あまり加速しないようにしてあるんですよ。

 

なるほど、確かに。私としてはアクセルが特別重いとは感じなかったけれど、むしろ嬉しかったのは、シビックe:HEVのような電動モデルと比べても引けを取らない、アクセルを踏んだときの“微振動のなさ”。スッと気持ちよく踏めるのだ。

 

もちろん、ディーゼルに迫力を求める人にはやや物足りないかもしれない。けれど、街中でスマートに乗るには、この優しさと扱いやすさこそがCX-60の持ち味だろう。このボディサイズでこの素直さ、さすがマツダ、わかってるなあと思わずにはいられなかった。

 

アラは無いが少し気になるキビキビ感

mazda CX-60 グラマスなボディライン
面の形が意識されているマツダのデザインは、世界を見ても少ない部類。このボディでアグレッシブな走りを…と考えてしまうのも、無理はないですね。

 

私が気になるポイントが、もう一つある。そう、足回りだ。

 

試乗車のオドメーターは500km。まだまだアタリもついていない、走行初期の個体。トゲがあっても不思議じゃないし、思い返せばCX-60が登場した当時は「リアサスペンションの熟成不足」があちこちの雑誌を賑わせていたものだ。

 

けれど、セールスさん曰く「そこはかなり改良されてます」とのこと。

 

走り出してみると……ふむ、悪くない。トゲもアラも感じない。もちろん、試乗コースの路面が比較的良かったというのもあるが、少なくとも“妙な違和感”はなかった。再調整の成果か、低速域だからか、あるいはリアシートに座っていないから確証は持てないけれど、それでも「ちゃんと乗用車してる」と思える感触がある。

 

mazda CX-60 きらめく全身
大きな車に乗っている実感のある、CX-60。この見た目と走りのデザインがマッチしているか?といえば、若干の疑問符が浮かびます。

 

ただ、ちょっと不思議なのは——この大柄なボディにして、妙にキビキビと走る印象があることだ。

 

私の持論では、大きくて重いクルマはそれなりに“重さを感じさせる挙動”が必要だと思っている。キビキビ動かれると、むしろ危ない。ドライバーに「君はいま大型車を転がしてるんだぞ」と身体で教えてくれるくらいが丁度いいのだ。

 

もちろん、SUVはスポーツ・ユーティリティ・ビークル。スポーツと名がついている以上、俊敏さは求められる部分でもある。だけど、それで本当にいいのか?と考えてしまう。これはもう、趣味嗜好の問題だろうか。

 

そしてふと、思った。——あれ、私がCX-60に求めていたものって、なんだっけ?

 

どうやら、マツダがこの車に込めた思想と、私がこの車に期待していた像には、少しズレがあるような気がしてきた。その予感が、確信に変わったのは、次の瞬間。ぐいっとアクセルを踏んで、ハイペースでカーブを駆け抜けたときだった。

 

砲弾慣性走行とコーナーリングの優秀さは納得

mazda CX-60 SPの運転席
CX-60のコックピット。扱いやすく配置され、違和感なく姿勢を整えられる。感動しないが、大きな美点です。

 

アクセルを深く踏み込み、法定速度ギリギリまで車速を乗せる。耳に届くのは、あの図太く湿り気を帯びた低音。ディーゼルならではの響きが、力強さと重厚感をもって、運転する者の胸を揺さぶる。アクセルから足を離し、惰性で流れるボディの軌跡に意識を集中させる。大きく、重たいはずのCX-60が、砲丸のように路面を滑っていく。

 

前方に急なカーブが迫る。ブレーキを適度に効かせながら、慎重にステアリングを切り込んでいく。

 

すると、CX-60はその大きな車体をしなやかに傾け、一定の姿勢を保ちながら、ひとつの軌道を描くように向きを変えた。その挙動は、過去にPeugeotを走らせた時のような、あの独特の斜めのスタンスを思い起こさせる。

 

mazda CX-60 SP かっこいいポーズ

 

思わず、息を呑む。

 

これほどの大柄な車体が、ここまで正確に、そして穏やかにカーブを描くとは思わなかった。過剰な演出も、唐突な切れ味もない。ただ、車が「そうあるべき姿」で、自然に曲がっていく。

 

あぁ、ドライバーに対して強く語りかけてくる挙動だ。マツダがこのCX-60という車に込めた、「運転そのものへの敬意」が、確かにここにある。

 

SUVであるにも関わらず、この走り。ホンダのZR-Vにも共通していた、峠道に調和する感覚。ここには、単なる「使いやすさ」や「経済性」とは異なる、確かな“意志”が存在していた。

 

CX-60 完成度が高いからこそ及第点

mazda CX-60 フロントシート下に足が入る
足の置き場には困らない、CX-60。ただし、リアシートの高さは足りていない感覚がある。思っているよりも、車内高さは少ないのかもしれない。

 

私が抱いていた「大きな車を操る感覚」への危惧は、払拭された。CX-60の重量感は、弾丸のような慣性としてドライバーの身体に伝わってくる。その質量を感じ取ることで、クルマとの一体感が生まれ、安心して操作することができる。ステアリングはややスローな印象もあるが、入力に対して素直に応答し、無理なくコーナーをクリアしていく。その挙動からは、クルマが危険な兆候を的確に知らせてくれるという信頼感を感じた。

 

また、“キビキビ”という形容に反して、ピッチングやバタつきといった不快な動きはほとんど見当たらなかった。低速域から高速域まで挙動は終始フラット。路面の荒れ具合が車内に響くが、シビックからの乗り換えでも、違和感なく受け入れられるだろう。

 

一方で、乗り心地そのものは“普通”という評価に留まる。CX-60は見た目にラグジュアリー感を備えているが、ステアリングの舵角が大きめなこともあり、その印象に見合った上質な脚の動き──たとえば、路面に応じてじんわりと沈み込みながら姿勢を整えるような動き──がやや不足していると感じた。もしかすると、Lパッケージ以上で採用される上級シートとの組み合わせでは、その質感が引き出されるのかもしれない。

 

mazda CX-60 タン色内装のシート
エレガントな雰囲気が嬉しい、タン色のシート。マツダのアイデンティティを感じる、こだわりのシートデザインです。

 

私個人の感想としては、「もうひとつ何か、突き抜けた要素が欲しい」と感じるクルマだった。直列6気筒ディーゼルエンジンという、このクラスでは国内唯一とも言える武器を持ちながら、その存在感は意外なほど控えめである。もちろん、疲れているときに叫ぶようなエンジン音で迫られても困るわけで、この静けさは美点でもある。だが、感動という観点では、Peugeotの1.5Lディーゼルエンジンのような官能性や、ホンダe:HEVに搭載されたエンジンのような爽快さには及ばない印象も残った。

 

総じて言えば、「非常によくまとまっている」。その一言に尽きる。ただし、400万円というプライスであることを考えれば、多少の贅沢を口にしたくもなる。完成度の高さは認めるが、もう一歩、心に残る何かが欲しかった——そんな思いが、試乗を終えた今、静かに胸に残っていた。

 

CX-60はYES or No?

mazda CX-60 タン色内装の運転席を横から見る
所有感は満たされるだろう、マツダCX-60。あとは、飽きるかどうか。今ひとつピンとこない理由は、もう少し考えてみる必要がありそうです。

 

試乗を終えて、会場を後にする。オススメ度で言えば、間違いなく星4以上。足回りは、10000km走ってみなければ本当のところはわからない。初心者が乗っても走りやすそうと感じる安定感は、良い車だよねって伝えたくなる車だった。

 

私は何を求めているのか?

 

日本の車好きを虜にしているマツダ車は、決定打が不足していた。マルチシリンダーが意識できる、低速域でのカン高いエンジン音も、タン色インテリアも中々にそそるのだが、それを持ってしてもCX-60が欲しいかと言われれば、今はちょっとNoである。

 

そもそも、車両価格を下げなくてはならない正義があることを忘れていた(笑)とは言いつつ、軽トラ代わりに荷物が乗せられる車であるなら、シビックの代替になるかもしれない。

 

CX-60は一旦脇に置きつつ、複雑に絡み合った家族の理由を紐解きながら、私は次の試乗車を探し始める。

 

次は、どんな一台に出会えるだろうか。