中古車に開眼!?ハイブリッドvsエンジン車 本気で環境に優しい選択は

車選びにおいて、私はひとつ嫌いな言葉がある。それは、ハイブリッド車とガソリン車を選ぶときに使われる、「その差額はガソリン代に換算すると〇〇km分」というものだ。ハイブリッド車にはハイブリッド車なりの良さがあり、エンジン車(非ハイブリッド車)には製造コストの少なさというメリットがあるというのに、その違いをただ懐具合で表現しようとするのは、あまりにも貧相で寂しい言葉ではないか。

 

確かに、ライフサイクルアセスメント(LCA)で考えれば、最近の車はハイブリッド車を選ぶほうが環境には良いとされている。たとえ初期コストが多少高くても、車が廃車になるまでの事を考えれば、環境に優しい選択と言える。だからこそ、メーカーや販売店が、(販売価格が高いという思惑はあるものの)ハイブリッド車を選ばせた気持ちも、理解できないわけではない。

 

しかし、「差額は・・・」の文章には、「そうであるなら、あまり距離を走らずに手放すつもり。」な人にとっては、積極的にエンジン車を選ぶ後押しになってしまう。環境というキーワードに焦点をあてるなら、エンジン車を単なる「パワーソースのダウングレード」として扱うのは、自動車メーカーとしての責任を欠いているのではないか、と私は思うのである。

 

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中古車の選び方 – エンジン車はまだ選択肢になり得るのか?

Peugeot 508 BlueHDi ディーゼルエンジン
プジョーのディーゼルエンジンは、場合によってはハイブリッドを超える燃費を叩き出す。

 

この議論は、新車を選ぶときの話だ。では、中古車を視野に入れた場合、ライフサイクルアセスメントを踏まえると、どう捉えるべきなのか。

 

中古車サイトを眺めると、新車と比べても魅力的なクルマが多いことに気付かされる。(別に、気になる中古車があるわけではない…。)流線型の連発で見飽きた現代のクルマに一石を投じるような、個性的で素晴らしいデザイン。各メーカーがしのぎを削り合っていた時代の、オリジナリティがあり個性の際立つプロダクト。憧れだったマルチシリンダーエンジンだって、濃厚なインテリアだって、選択肢に入るのが中古車の醍醐味だ。

 

古いクルマの魅力は、単にノスタルジーではない。個性豊かなデザインやエンジンサウンドは、最新のEVやハイブリッドでは味わえない。「このクルマは、こういう音で回るのが良いんだよ。」と語るオーナーの気持ちは、数値では測れない価値なんだよね。ああ、どんどん昔の車が欲しくなるね…

 

移住先の景色(信州古民家)と HONDA CIVIC

 

実は、ホンダのシビック e:HEV や フィットクロスター e:HEV、日産サクラを所有してみて、私は妙な気分に陥ってしまったのだ。今の私の選択肢は、環境負荷としては正しいと胸を張って言うことができるし、仮に100,000 kmを走行しても、200,000kmを走行しても、エンジン車に比べれば絶対に環境には良い、はず…だよな?と。

 

なにせ、(持ち出す例がストイックで申し訳ないが)古民家に住んでみると、様々なものを無駄にせずに使い切る良さということに気付かされる。20,000 km 程度で毎回クルマを入れ替えている自分は、本当に正しい選択をしてきたのだろうか?

 

LCAの視点で見る – 走行距離とCO2排出のバランス

CIVIC と mazda3 と PRIUS
車は燃費だけでは語れないのも悩ましい。本気で二酸化炭素排出量を考えれば、世界は皆、軽自動車なになってしまう。

 

そこで、中古車に多いエンジン車とハイブリッド車をライフサイクルアセスメントを加味して、どちらが環境に良いのかを考えてみた。まず、現代のハイブリッド車と、エンジン車とのLCAにおける環境負荷の境界ポイントが、80,000 km であると仮定する。

 

エンジン車が 60,000 km までしか走行していないのなら、残り20,000 km を走行し廃車にすると決めてしまえば、ハイブリッド車とエンジン車の環境負荷はドローである。購入した中古のエンジン車を「あまり距離を走らず手放す」のではなく、「あまり距離を走らずに廃車にする」のなら、エンジン車を選ぶメリットが確かにある。しかし、これはあまりにも「もったいない」。

 

80,000 km を超えて走る場合は、どうだろうか。これには様々な意見が出てくるだろう。無駄にCO2を排出するのなら、新車のハイブリッドに入れ替えたほうが良いという意見もあるだろうし、せっかく世に生み出された車であれば、最後まで使用したほうが環境負荷も少ないはず、という意見もある。

 

この答えを出すために、80,000 km で環境負荷のポイントが切り替わる、ハイブリッド車とエンジン車の 160,000 km 走行時の環境負荷を考えてみると、面白い結果が出る。それはこれからお話しするが、ハイブリッド車は、製造と廃車時のCO2排出量:走行時のCO2排出量の比率を、4:6に、エンジン車では 2:8 と仮定し、80,000 km 走行時の環境負荷を、指数的に 10 として表してみた。

 

CO2排出量 合計
ハイブリッド車 16万km 製造廃棄 4 + 走行 6 + 走行 6 16
エンジン車 16万km 製造廃棄 2 + 走行 8 + 走行 8 18

 

ハイブリッド車の、走行 6 + 走行 6 とは、80,000 km 走行のときに指数として 6 のCO2を排出し、それが 2 回繰り返された、という意味。もちろん走行時のCO2排出量には、オイル交換などの消耗品の分も含まれている、と考える。しかし流石に、上の比較ではハイブリッド車が優勢だ。もっとも、中古車のエンジン車の場合は、自分で出したCO2は走行距離 60,000 km から乗り出せば、製造廃棄と、それまでの走行のCO2(指数的言えば、およそ6くらい)は免除されると考えなくもないが、今回は割愛する。

 

さて、そもそも自動車は、走行距離 100,000 km 以内で廃車になるクルマも多いという。消耗品や部品も、走行距離 100,000 km は一つの目安なのだろう。ということで、エンジン車から最新のハイブリッド車に乗り換えたと仮定すると、どうなるか。

 

CO2排出量 合計
エンジン車 8万km + ハイブリッド車 8万km 製造廃棄 2 + 走行 8

+ 製造廃棄 4 + 走行 6

20

 

いつかはクルマは入れ替えなければならないのだが、同じ車を長く乗るほうが環境には良いということが、これでわかる。それでは、走行距離を 240,000 km であると、どうだろう。ハイブリッド車を乗り続けた場合、エンジン車を乗り続けた場合、エンジン車を80,000 km で乗り換え、ハイブリッド車で 160,000 km 維持した場合として考えてみた。

 

CO2排出量 合計
ハイブリッド車 24万km 製造廃棄 4 + 走行 6 + 走行 6 + 走行 6 22
エンジン車 24万km 製造廃棄 2 + 走行 8 + 走行 8 + 走行 8 26
エンジン車 8万km + ハイブリッド車 16万km 製造廃棄 2 + 走行 8

+ 製造廃棄 4 + 走行 6 + 走行 6

26

 

これは、環境負荷の削減という視点で見た場合、新車を製造するのであればハイブリッド車が良いのは間違いないが、エンジン車を維持することにも、燃費やランニング以上にメリットがあるということを表している。ガソリン代が少なく済む、燃費の良い現代のハイブリッドカーはお財布にも優しいし、将来的な環境負荷の削減にはテキメンではあるのだが、世の中に生み出されてしまったエンジン車も、大事に維持することには CO2 削減のメリットがしっかりある、と言いたいのである。

 

エンジン車の耐久性とメンテナンス – どこまで長く乗れる?

VOLVO 850 コックピット
VOLVO 850 のインテリア。昔のデザイナーが一所懸命に考えた、ウッドをつかったアートを堪能するのも、幸せな愛車ライフではないだろうか。

 

それに、ハイブリッド車はバッテリー交換という大きな環境負荷が待っている。エンジン車は、エンジンの耐久性を気にかければ良い。

 

ボルボ240のような名車が好例だ。最新のデジタルテクノロジーが投入されていないおかげで、どの自動車工場でも容易にメンテナンスができる。結果、20万キロ以上を走行する車も珍しくない。電子制御が増えた近年のクルマとは違い、機械的な構造がシンプルだからこそ、修理しながら長く乗れる。こうした「直せば乗れる」クルマが、中古車市場ではまだまだ元気に走っているのだ。

 

それに、実際に私もボルボV50を8年8万キロ所有したが、結果的に維持費は安く済んだと思っている。購入費は360万円。維持費は年間1万キロ走行で、保険を除けば車検費用を慣らして年間15万円程度。これを高いと見るか安いと見るかは人それぞれだが、少なくとも「長く乗れるクルマ」を前提にすれば、決して悪い選択ではなかった。

 

高価な最新技術が搭載されたクルマよりも、シンプルな構造の車の方が維持費を抑えやすいというのは、案外知られていない事実かもしれない。(もちろん、10万キロを超えると維持費も上がっていくのですが、ね。)

カーボンフリー燃料とエンジン車の未来 – 10年後に逆転する可能性?

最新のEV
代替燃料が実現すると、二酸化炭素排出量で優位性を失うEV。とはいっても、効率が良いことには変わりない。エネルギー事情の複雑化に対応するためにも、一家に一台EVがあると安心である。

 

我が家にはEVがあり、ガソリンスタンドに行かなくて良いという恩恵があるのだが、実はカーボンフリーな代替燃料が生まれたとき、環境に良いパワーソースは再評価され、「中古のエンジン車」が優位になる可能性がある。

 

欧州であれば、Audiが代替燃料の開発に力を入れているし、日本でも航空機燃料として製造が始まっている。合成燃料や水素燃料が普及すれば、エンジン車はCO2を排出しないクルマになる。世の中にすでにあるエンジン車を維持し、それを新しいクリーンエネルギーで動かせるようになれば、「新車のハイブリッド車が環境に優しい」という常識は崩れるかもしれない。

 

なんとなく、その未来は今後10年でハッキリする気がする。仮に代替燃料の道筋が見えた時には、熱効率が最大化されたエンジン車が大きくもてはやされることになるだろう。それに、レアアースは戦争の火種になることは、残念な大国たちが教えてくれた。中古のエンジン車は、意味のある選択肢になってくるのだ。

 

結局どっちを選ぶ? これからの車選びのポイント

信州カーディーラー中古車フェア2024会場のやまびこドーム

 

上記より、環境負荷の削減という視点で見た場合の、新車・中古車を交えた車選びのポイントは、次のとおりだ。

 

  • 燃費の良いハイブリッド車を長く乗り続けるのが、現時点では環境負荷が低い。
  • 中古車を選ぶ場合でも、可能ならハイブリッド車を選ぶのがベター。
  • クルマを2台製造するより、1台を長く乗り続けるほうが環境に優しい。
  • 中古のエンジン車を大切に維持することも、環境負荷削減に寄与する。
  • カーボンフリーな燃料が実用化されれば、エンジン車の価値は再評価される。

 

決して私が、中古のサンバー軽トラが欲しいなとか、マルチシリンダーのクルマはいいなとか、その為の理論武装をしようとか考えているわけではない(本当ですよ…)のだが、改めて中古車を見たとき、そして日本人の得意な「モノを大事にする精神」を踏まえたとき、ちまちま自分のお財布のことばかり気にしないで、幅広い選択肢から最良なものを選ぶべきなのだーーー という風にmonogress の立ち上げ時の思想を思い出した。

 

この数値遊び、皆さんはどのように感じただろうか?