月末の忙しさを凌いで、ようやく筆を?とれる時間が生まれました。とうとう12月になって、寒い時期はあったかい欧州車に乗りたい、と思ってしまいます。
という事で、ここのところプジョーネタが多かった事ですし、ボルボネタも出しましょう。大したことはない、雑談ではありますが。
これは朗報か悲報か、難しいところですが、ボルボのクルマ作りに共感する人は少し気になるのが、ボルボという会社の資本関係。ボルボはいつまで存在するかというお話です。
吉利汽車との合併協議で感じるボルボの将来
ボルボを復活させた吉利汽車
ご存知のとおり、ボルボの資本は吉利汽車(ジーリー)が握っている。中国は香港に拠点を置く吉利汽車は、2020年はボルボを購入して10年が経つわけである。
中国資本は嫌だ!という人がいるのはわかっているけど、ボルボに言えることは”吉利汽車に買ってもらって良かったね”、という事だ。少なくとも、買ってくれなかったら潰れていた。これは間違いない事実、と思う。
例えば多元宇宙があるとして、違う宇宙ではボルボが別の会社に買われていたら、どうなっている事だろう。日本車メーカーなら買うとなればトヨタの規模がいるだろう。トヨタが買ったらどうなっていた?2020年のトヨタ車は、安全性で先を行くクルマになっていただろうか?
私はそれはないと想像する。トヨタは意外と自分の技術は他社に負けないと思っている。スバルのアイサイトが良い例で、トヨタ車にアイサイトが採用されたという話は聞かない。むしろ、コストダウンを突きつけられて、スバルのアイサイト開発陣が辞めていったと聞くくらいだ。(マガジンXで読みましたw)
「86」とか、競合しないものは生かす力は持っているが、あれは企業イメージを上げたいという願望もあるのだから、CM費用のようなもの。子会社への利益誘導でもあるし、いやあ、商売上手いなあ。
脱線気味になったけれど、ボルボがここまで回復したのは吉利汽車とのタッグがうまくいったからだ。資本受け入れの条件は、「クルマの開発には口を出さない」。経営が立ち行かなくなりフォード傘下に入った会社が何をいうか・・・と言いたくもなるのだが、幸い吉利汽車は口を出す技術がなかった。だから見返りは利益でなくて技術になった。
他の会社なら、ボルボを立て直して利益のでる会社にして、親会社に吸い上げることを考えるだろうけど、吉利汽車は違った。この関係こそが、WinWinを生み出したと言えるだろうね。
そして、いつの間にやら全モデル電動化を達成した。マイルドハイブリッドであるから、完全な電動化とは言いがたいけど、メルセデスもBMWもワーゲンさえも出来ていないことを、小さなメーカーという利点をうまく使って成し遂げた。これこそ、ボルボ復活といっても良いだろう。
そんな折に表れたのが、吉利汽車とボルボの合併だ。少し前になるのだが、両社は合併することが最善として協議に入ったと発表したのだ。
前向きな合併交渉
この発表は、正直私は驚いた。
合併は両社が目指し、両社の株主に向けて発表する準備をすると報じられたからだ。つまり、ボルボ自身も前向きに合併を検討している言っているのだ。
ボルボは吉利汽車資本下に入った当初、いずれはスウェーデン株で買い戻せると企んでいたらしい。中国企業を信頼するような国家自体が少ない中で、スウェーデンも中国はまずいと思っていたのだろう。(そもそも技術を売る時点でアウトなのだが)
ところが潤沢な資本はクルマ作りを豊かにして、製品の品質を底上げした。安全性で世界一、DriveEでライバルに肉薄、電動化で未来が見え、カーボンフリーで水をあけた。ボルボで働く人にとっては、資本関係なんて関係なく、企業が良くて給料をしっかり貰える方が良い。
年 | 主な出来事 |
---|---|
1999年 | ボルボより乗用車部門を「ボルボ・カーズ」として分離しフォードへ売却 |
2010年 | フォードが経営危機によりボルボを浙江吉利控股集団へ売却 |
2014年 | 新エンジン「Drive-E」を発表 |
2018年 | 日本で二年連続カーオブザイヤー受賞 |
2020年 | 中国成都工場で再生可能エネルギー使用率100%達成 |
2020年 | 全ラインナップ電動化 |
自分がボルボで働くのならどうだろう。もしも中国が大嫌いなのであれば、吉利汽車資本になった時点で辞めたい人は辞めただろう。結局ボルボに残ったのは、吉利汽車と協業してもいいと考える人たちだったのかもしれない。
オーナーはどうだろう。私もボルボオーナーではあったのだが、吉利汽車の手助けのおかげで、今のボルボがあるんだって考えた。その売り上げの大部分はスウェーデンやベルギーの社員の給料に行くのだろう。ボルボは苦しい舵取りをしながらも、独自で生き続けるている、そんなふうに考えた。人はみんな、自分都合の生き物なのだ。仕方のないことだろう。
しかし、吉利汽車なってしまうとなると、少し話が違ってくる。合併となれば残るのはブランドだけだし、多分消滅会社はボルボだろう。日本にとっては仮想敵国になり得る中国へ、技術もマネーも流れてしまうのである。
これは、けしからん!
気を使うジーリー
吉利汽車はこの辺り、少なくとも日本以外の国に対しては、したたかな戦略を手がけてきた。
2016年、ボルボは資本金の増資を決定。優先買い付けをスウェーデン政府の息のかかった会社とした。吉利汽車への依存を減らし、独自に株式上場企業になろうと模索していた。少なくともこの頃までは、将来の独立は視野にあった。
2017年、吉利汽車はABボルボの株を取得。筆頭株主にはなったものの、議決権をスウェーデンの投資会社に残した。吉利汽車傘下でボルボグループは再度元の鞘に戻る。そういう友好的な方向性もかいまみえた。
しかし、今の決断は合併だ。吉利汽車とボルボの合併会社の企業価値は、フォードに匹敵するという。破格の安値で売り叩いたフォードを見返すチャンスでもある。ボルボというブランドだけで考えれば、大きくなる事が良しであるなら仕方がないし、我々がどうこう言おうがどうしようも無い話なのは間違いない。
しかし、やはり寂しいものは寂しいのだ。
私はボルボを選ぶ前はサーブが欲しかったし、けれどもサーブは無くなってしまった。スウェーデンはこのまま行くと、2つの自動車会社を手放してしまうことになる。
北欧デザインの逸品なスタイルも、表の顔は北欧でも、裏の顔は中華になる。国家のオリジナリティまでも、お金の力で根こそぎ取られてしまう。こんな事が、罷り通って良いのだろうか。
今、少しの希望を残すとすれば、吉利汽車の上海A株復帰のために中断された合併交渉だ。これでさえも、単なる時間稼ぎにしかならない。しかし、合併を拒否したいと考えた時の、逆転のチャンスがあるとすれば、ここしかない。株式のうち98.7%が吉利汽車であるボルボにとっては、できることと言えば交渉による拒否だけではあるのだが。
よほどのスキャンダルでも無い限り、ボルボは吉利汽車に吸収され、消滅する。吉利汽車がボルボにも大いに気を遣い、社名にボルボというキーワードが残ったとしても、純粋なる中国企業になることには違いないのだ。
見る人によって異なるボルボというブランド
その時、私たちはボルボを正面からみれるだろうか?
100円ショップに行けば、中国製品はたくさんある。気にならないという人もいるだろう。「スウェーデンのボルボ」というクルマだからこそ、惹かれていたという人もいるはずだ。
きっと、吉利汽車はボルボというブランドを大事に扱うだろう。中国経済に企業間の競争があるのなら、欧州のブランドの価値は大きい。少なくとも合併から10年は、ボルボというブランドは大事につかう。その後は・・・。
「ボルボ」が企業から単なるブランドになってしまったとき、それをどのように捉えるか。一企業のコントロールする複数のブランドは、いわば消費者の好き勝手に順応するためだけにあるものだ。ボルボが嫌なら、ロータスはいかが、なんていう事もできてしまう。世界中の人から少しづつお金をあつめる。ブランドにはそういう側面もある。
社名やブランドを売ってでも、会社として独立して存在して欲しい、という考え方も存在する。コアなファンなら、その新しいスウェーデンメーカーにお金をつぎ込んでくれるかもしれない。それこそ、資本主義の下でのエゴなのかもしれないのだが。
そもそも、中国資本下に入った2010年の時点で、見限った人も多くいる。資本なんて関係なく、ボルボが好きだという人も多くいるだろう。クルマは随分良いものになった。車格もあがった。乗り味も本当に気持ちいい。中国が良い製品をつくれるのなら、それでも良いと考える人がいることも、充分頷けるのだ。
人によって異なる「ボルボ」の意味。ひょっとしたら、ボルボの終焉はすぐそこまで迫っているのかもしれないし、すでに訪れているのかもしれない。まだまだ続くのかもしれない。唯一言えるのは、「スウェーデン資本のボルボ」はかなり昔に消えているという事。あとはオーナーの考え方ひとつなのだ。
あとがき
久しぶりの「ボルボ好き放題」コーナーでした。
クルマづくりは、技術者があつまれば良いわけではなく、生産設備をつくるだとか、販売網を持つだとか、多くの出資が必要になる。だからこそジーリーは自動車会社を買ったわけです。これらを一気に手に入れられるのですから。
そして、たった18億ドルで購入したボルボを、10倍近い価値にまであげた。この経営手法が、ジーリーの真の実力です。フォードができなかったことを、ジーリーはできた。この差が大きいのだと実感しますね。
しかし、「ジーリーボルボ」なんていう会社がつくる「XC20」が出たとして、私はそこに魅力を感じるか・・・?と言われると、正直自信がありません。やっぱり私は、「スウェーデンのボルボ」が好きだから。