上海モーターショー、トヨタのEVラインアップ拡充のアナウンスを見つつ、「トヨタ bZ4X」を(なんだこれは i-Cockpit のパクリじゃないか)なんて思って”クスリ”と微笑んでいたとき、ふとコメント欄に目が行った。
そこには、「EV一辺倒ではなく日本独自の技術を貫いて欲しい、本当に環境に良いのか判らない。」という意見が書かれていた。少し言葉足らずで誤解を招くような書き込みではあるのだが、日本メーカーの現状に危惧している、真面目な書き込みだった。
そこに対しての返信に違和感を覚える。「昔の常識のままモノを言うな、調べてから書き込めよ。」と書いてあったのだ。なんとなく、このやり取りこそ、日本人がクルマ云々よりも危惧しなければならないことなのではないかと、危機感を覚えるのだった。
――― 🚙 ―――
私もブログで発信を繰り返す以上、人にどのように思われているかは気になるところだ。自分の意見は絶対的に正しいとは考えず、相手の意見もできるだけ取り込める懐の深さを目指してはいるが、人間なんだもの、嫌な人がいることは当然だ。
それでも、相手に意見をぶつけた上で建設的に話しを進められればよいのだが、掲示板というのは罵倒の応酬のようなものが目立って、なぜ自分がそれほどにまで正しいと貫けるのか、何故相手をそこまでコケに落とすのかが不思議でならない。海洋進出を企てる某国のようなことが、日本の中で起きている。
そもそも、EVが環境に良いかわからないという人も、調べてから書き込めという人も、実際どれだけの真実を知っているのだろう。WEBで調べたくらいでは、正しいことなんて判りはしない。だから、意見は広く取り入れて、お互いを補完すれば良いのにな、と思うのだが。
そんな「八方美人」な私だが、次のクルマをEVにしようかは相変わらず迷うところだ。
環境の事を考えてのディーゼル乗りだが、EVに興味が無いわけではない。Peugeot e-2008 はビックリするくらい普通のクルマだったから、充電設備さえなんとかなれば買っても良いかも、と思うほどには、EVは身近になってきたなと感じている。
でも、やっぱりEVはブームのような気もしなくもない。最終的には、小型車はEV、中型車はディーゼルや水素エンジンと棲み分けがされていくのだろうけど、今はその過渡期のスタート地点だし、ちょっとしたトラブルで株価が上下してしまうあたり、EVには新しさと不完全が一体になって魅力を発する”新商品ブーム”なんだろうなって思ってしまう。
その理由は、各自動車メーカーの動きからも感じることができる。
このブログの身近なところで言うと、ボルボはEVへ猛ダッシュをしている最中だ。2040年には、製造するクルマを完全に二酸化炭素を出さないクルマ=クライメート・ニュートラル・カーにすると言ってのけた。植林などという生易しい事はNo!製造するときも、走行するときも、完全なカーボンフリーを目指すというのだ。
スウェーデンの自動車メーカー、ボルボ(Volvo)傘下の電気自動車メーカーのポールスター(Polestar)は4月7日、「世界初のクライメート・ニュートラル・カー」を開発していると発表した。この車は「ポールスター0」と呼ばれ、2030年までに製造される予定だ。
同社は、木を植えることで温暖化ガスの排出量をオフセット(相殺)するのではなく、製造方法を変えることで、最初から温暖化ガスを排出しないようにしていくと述べている。
この話、ボルボというよりはポールスターの発信なのだが、後ろで手をひいているのは紛れもなくボルボだ。だから、ボルボとしてはポールスターに先行開発を行わせ、世界でもより素早く”本当のカーボンフリーEV”の製造に着手したいというのが見えてくる。
そして、この発言をするということは、現状ではEV生産や走行時の二酸化炭素排出量は低減させることができていないということだ。とくに生産は自動車メーカーの努力が必要なところであるし、自信をもって「今 50% はカーボンフリーになりました」と言えるようになったのなら、必ずやボルボ(だけでなく、すべてのメーカー)はそのように発表するだろう。
つまり、この夢物語のエピローグは 2040 年までお預けなのだ。そして、EV急進派にとっての心の拠り所は、まさにこの「クライメート・ニュートラル・カー」にしか無いのである。将来はバッテリーに蓄える電気がカーボンフリーになるのだから、車両製造での二酸化炭素をゼロにできれば、完全なカーボンフリーが達成される、と考えているのだろう。
そして、誰もがわかりやすい単純な目標、つまり庶民の理解が得られることや支持をうけることこそが、EV急進派を突き動かす原動力になるのだ。
これに対して、大手メーカーも然るべきタイミングで、当然のようにEVを開発し販売するだろう。トヨタもようやく、2025年までに7車種のEVを発売すると発表した。ハイブリッド・カー・メーカーのトヨタもとうとう、EVに動こうというわけだ。
これは当然のことだろうし、戦略的なところもあるだろう。周りがわんさかEVを出せば、自ずと出さざるを得なくなる。世間の波に乗ったのだと言えれば、第一人者の責務からは外れることがでるのも、今のタイミングだろう。
EVにも、様々な課題がある。例えば、バッテリーをリサイクルするときの電力を、どのように賄うのか。これが達成できる見込みが立たないことには、大手メーカーはEV一辺倒になることはできないだろう。中国・韓国のバッテリー製造会社は、いずれできると言うかもしれないが、自分でスキームを作らないことには、信じられないというのもあるだろう。
このあたりは、トヨタの強かさを感じることができる。目処がたつから、EVを投入するだけ。SDGsに拘りすぎて、CSRを忘れてはいけない。このあたりの考え方は、とても日本的かもしれないが。
そして、この余裕はもうひとつの基礎技術があるからこそ、とも言うことができる。それは、FCV(燃料電池車)である。
トヨタはすでに、小型のFCV「MIRAI」を世に送り出している。EVがコケても大丈夫なFCV技術を持っており、突然水素社会がやってきても怖くない。ガソリン車並の速さでの充填が可能だから、車両の運用効率を考えなければならない中〜大型の商用車への採用は増えていくと思われる。
このパイはあまりにもライバルが少なく、トヨタ・ホンダ・メルセデスの他、ステランティスが2022年に発売するとしているくらいだ。価格はずいぶんと下がってきたから、近い将来はバスは水素に変わると言われている。メーカーが少ないから、パイの奪い合いも大喧嘩にならずに済みそうだ。
ステランティスは、ゼロ・エミッションの小型商用車(LCV)のラインナップを増やし、プラグインの水素燃料電池バンを傘下のシトロエン、プジョー、ヴォグゾールから発売する。2022年初頭の市場投入を目指す。
シトロエン・ディスパッチ、プジョー・エキスパート、ヴォグゾール・ビバロのバッテリー式EV仕様と同じプラットフォームを採用し、荷室の床下に700barの圧力で4.4kgの液体水素を貯蔵する。
出典:AUTOCAR
ここまで書くと、EV急進派とパワーチョイス派は、どちらが良いのかという議論になるが、私はこれは、棲み分けとして進化するだけだと考えている。
内燃機関を早めに諦めるメーカーは、将来のリスクを冒しても、EVに期待をかける。心中するとも言えなくもない。ただ、有望感のある心中だ。
そして、期待するのは充電設備の拡充。2025年、2030年に内燃機関を販売しないと、終結を宣言。徐々にインフラの拡充を促していく。富裕層から順番にEVに切り替える。ターゲットを小さく絞り、メーカーの生きる道と足編みを揃えてくれる相手を選ぶ。
充電設備がだんだんと街中に溢れてくれば、急進派メーカーは第一人者の称号を手に入れ、讃えられる事だろう。
出典:CAR WATCH
パワーチョイス派は、市場を注意深く見ていながら、タイミングを読んでEVを出せばいい。自分達が動くことで、インフラの世界はすぐに整っていくのだから。インフラ整備のイニシアチブを、コントロールしたいのが大手自動車。その役目は、日本ではトヨタ、フランスはプジョー、ドイツはワーゲンといったところだろう。
自国のインフラの拡充を狙う時、EV発売の札を使う。トヨタが7車種のEV投入を宣言したのは、日本のインフラを動かす意図もあるはず。そして、もう少し踏み込んで考えてみれば、EVの存在を認めて追従するかたちをとりつつ、実のところFCV開発を多くの会社にしないでほしい、そのギリギリのタイミングを読んだのではないだろうか。
これにて、ブームなどとは関係のない、FCVや内燃機関を持ち続けた企業と、EVに走り続けた企業とが入り混じる時代が、日本も急速に近づいていく。どれもクリーンなエネルギーで、パワチョイスはカーメーカーを選ぶ事と同意になるのだ。その将来像を世界が感じ取るとき、EVブームは終わりを告げることになる。
・・・いや、本当にクライメート・ニュートラルに作られたのか、エネルギーはクリーンなモノなのか。全てはWEBのように言われただけの情報だし、想像に過ぎない。各企業同士、腹の中など、誰も見せてはくれないのだから。