【偽りなしの日本車選び】LEXUS UX200 色気と気品の羽織を纏うコンパクトSUV

車というのは不思議なもので、移動するツール以上に、趣向性の極みのような側面がある。目的地までの移動、その速度だけでなく、心の踊るスポーツ性やゆったりと寛ぐ高級感、場面を変えればスポーツやタフギアなど、人の趣味に密接に関わってくる。

 

これは、自動車が開発されて100年と幾年月、長らく愛され、熟成されてきたクルマ文化があってこそのもの。私達はその先端に居て、沢山のクルマから選ぶという幸せを享受している。喜びを持って、自分に合うクルマを見つけたい。

 

LEXUS。トヨタのクルマの最先端かつ、贅のつくされた車たち。今回はクルマ文化の中でも、尖っていて、王道でもあるレクサスブランドのクルマに乗る機会を得た。その実力、じっくりと吟味します。

 

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LEXUS UX カーシェアで借りて吟味する

LEXUS UX コックピットを格好良く撮影

 

乗ったのは、LEXUS UX200 ガソリン版。なにせ、2018年に発売され、ガソリンモデルは2022年12月に販売が終了。今更かもしれない。LEXUS UX は、試乗記事は出され尽くされ、あとはモデルチェンジを待つばかりの5年目選手なのである。ともあれ、街中で一番見かける、レクサス最小、エントリークラスということで、気になるクルマの一つでもあった。

 

かくいう私は、LEXUSは初体験。懐かしきアルテッツァの後継、LEXUS ISは今でも良いなって思う車のひとつであるが、輸入車と比べても敷居の高そうなLEXUSディーラー。門を叩くこともできず、であったのだが・・・

 

しかし、LEXUS に乗らずにクルマ・エッセイは書けまい!私もクルマブロガーの端くれだ、ディーラーに行かずに乗る方法は無いかと探してみたら、なんとカーシェアで見つかった。これはチャンスと、会社帰りに1時間の LEXUS ドライブを楽しんだのだが、見えたものは、トヨタとは似ても似つかぬ不思議な世界。LEXUS UX、単純に言って面白い。

 

LEXUS UX ドライブ・フィール

LEXUS UX エクステリア斜め前
夜の街中で斜め前より撮影。スピンドルグリルは確かにレクサスである証拠。適度にエッジが効いていて格好良いじゃないか。

 

満足感をいっそう高める、LEXUS UX の高揚感たかぶるトータルデザインのお話は後ろに回そう。まずは運転した印象を並べたい。走りはちょっと、体験したことのない不思議な感覚だ。気になるポイントが幾つか出るのだが、最後には腑に落ちる結果となった。

 

走行距離は 30,000 kmで、マイナーチェンジ前の個体である。

 

強い衝撃を軽々いなすサスペンション・セッティング

LEXUS UX コックピット

 

サスペンションは強い衝撃にあわせて調整されているのか、ドンと大きく入っても気持ちよくクッションする。なかなか興味深いなと、ハイペースで何度か衝撃の起きる路面を通過してみたが、強い入力は本当に気持ちよく足が動いて、滑らかにもとのタイヤ位置に、速やかに戻すのだ。

 

ところが、路面の細かいノイズは拾ってしまう。サスペンションには初期微動は仕事をさせたくないようで、ならばタイヤで衝撃を吸収するのかと言えば、結果的にはできていない。履いていたのはブリヂストン。カーシェアだから、オリジナルなのかは定かではないが・・・

 

なんとなく高速道路向きの、ハイペースでのしっかり感を意識したセッティングを思わせるのだが、時より柔らかいサスペンションのような、大きくバウンドするような挙動を見せる事もある。路面は平坦なのだが、上下運動が2秒周期でバウンバウンと上下を繰り返す。この動きはいったいなんだろう?

 

アクセルワークは踏み込み量多し

LEXUS UX センターコンソールとシフトノブ
やはりブーツを履いたシフトレバーは格好良い。ドライブに動かすのに大きな力は不要で、コココンと心地いい引っかかりを感じながらDへ移動できる。

 

LEXUS UX200 はガソリンエンジン車で、M20A-FKS エンジンは174ps / 209Nm と控えめだ。乗り始めた当初、力強く発進させるには、ある程度アクセルの踏み込みが必要だと感じていた。

 

なにせ、1名乗車の割に初速のトルク感が伴わない。ゆったりとしたスタートを意識し、徐々にアクセルを開けていくのだが、何故か速度上昇が感覚的にシンクロしない。時速 30km/h 〜 40km/h くらいより上に上げるには、アクセルを通常以上に踏み込まないといけないような感覚だ。これは、低速域での扱いやすさを狙ったものなのか、エンジンとCVTとのマッチングなのか、私との感覚はズレているようで、速度の調整が難しい。

 

それでは、と、アクセルをグゥゥと踏み込んでみる。速度が上って、スムーズに 60km/h までたどり着いた。そして、このあたりの速度域だと調整もし易い。ちょっと思い切り踏み込み気味のほうが、このクルマには良いのか?それは、後々正解がわかってくる。

 

モアパワーが欲しくなる その理由は「美味しいポイント」が存在するから

LEXUS UX メーター

 

エンジン音は味付けがされているようで、なんだか少しマツダのディーゼルを思い出す。それよりも曇っている、というか遮音するから、どうしても脳天突き抜ける感動はないのだが、LEXUS に求めるのは静寂だろうから、コンフォート側にふるコレが正解。

 

ところが、運転している気分では「もう少し気持ち良いほうが」とモアパワーを欲してしまう。その理由は、一般道をハイペースで流した時に楽しいスイートスポットがあるからだ。

 

急カーブをぐいっと曲がると、なんだか気持ち良い。品川周辺の都心ワインディングを、ブレーキをかけずに曲がる時の素直な挙動に「おおっ」と声がでる。意外性を感じるほどに美味しいのだ。そしてこれが、先程のアクセルの踏み込み量ともマッチする。しっかり踏み込んで、グイーンとカーブを曲がるから気持ちいい。

 

CVTが巡航に入るとどうしてもエンジン回転数を落とすので、加速しようとすると一呼吸なのが惜しいのだが、このあたり、レクサスなんだしやはりハイブリッドが主役なのだろう。モアパワーは上位グレードで、は、当然といえば当然。もっと楽しい走りが、UX250h にはあるのかな?と期待してしまった。

 

または、ドライブモードスイッチが何処かにあったのかも?

 

さすが都市型SUV UX 路地裏も走りやすい

LEXUS UX サイドミラー

 

運転に慣れてきたところで、ステアリングを吟味する。可もなく不可もなく。左右に切り込んでみた時、15度くらいで一度かすかに反力が変わる。タイヤの空気圧、ネジリの何かなのかもしれないが、違和感なく曲がるから問題は無いだろう。

 

嬉しいのは、取り回しが良いこと。幅広な車体(横幅 1845mm)は取り回しに不安が出そうだが、見た目よりもずいぶん曲がる。最小回転半径は 5.2m 。都心の狭い路地を走ってみても、十字路を曲がれない心配は不要のようだ。そして、先程のアクセルの踏み込み量が、ここでも優位に。時速 10km/h 〜 20km/h が扱いやすい。

 

さすが、都市型 SUV。乗る人への優しさって、こういうところにも現れるよなあ、と感慨深くなってしまった。うんうん、なかなか良い車じゃないの?

 

少し際どい個性だけど楽しさが先行するドライブ・フィール

LEXUS UX ボンネット

 

アクセルワーク、ボディの四隅の寸法感覚、ステアリングの特性に慣れてくると、だんだんと走りやすくなってきた。全高 1540 mm ながら、視点が程よく高いのも良い。慣れない東京ドライブも、2周目には LEXUS UX の色気を感じるようになる。道路の狙ったラインをトレースするというより、空間をトレースする感じ・・・行きたい方向に向かう感じ・・・が面白い。

 

思い切って、どーんと踏んじゃえ、あとはステアリングの微調整でなんとでもなるぞと、背中を押されているかのよう。正直、そんな走りは嫌だという人もいそうだし、私も丁寧な動きが好きだから、これを良しじゃなく「個性」と評すのだが、基礎性能に裏打ちされた、走りの楽しさを堪能できるのも間違いない。

 

ある一定のシチュエーションで、メチャ楽しい車。愛車になる為には、こういうエグさが必要なんだよね。

 

LEXUS UX カー・デザインの妙

LEXUS UX フロントエリアのインテリア

 

しかし、真の魅力はやはりプレミアム感だろう。

 

LEXUS UX はレクサスのエントリー・カーだ。その存在意義は、ブランドのユーザーの2台目の需要を満たすことと、ようやくブランドに手が届き、すこし支払いがキツイけれども夢を叶えたい、やる気を出したいという憧れ需要を満たすことだ。

 

レクサスくらいの高級レンジに入ってくると、どうしてそんな安いクルマを作るんだ、という人も現れるだろう。高級に価値を見出す人は、そのブランドが裾野を広げるのを嫌がる時もあるからだ。だが、レクサスは門を広げることに拘った。

 

伊達じゃない末っ子 UX

LEXUS UX コックピットをフロントシート後ろから
整然と並ぶボタンが、LEXUS UX コックピットのハイライト。過剰な演出は控えめなのも好印象。Lマークが誇らしげだ。

 

LEXUS UX に乗り込んで、最初に対面したコックピット・インテリア。すげーなレクサス、ここまでやるんだなと素直に感じる。ヒエラルキーをぶち壊すというか、確かに 400 万円を超える高いクルマではあるのだけれど、しっかり高級車していてビックリする。

 

上を見れば、NX、RXと上位版が沢山あるのが、末っ子の宿命。しかし、LEXUS UX にもしっかりとした世界観の作り込みがされていて、気品として身体に流れ込んでくる。手触りよく仕立てられたクオリティを見ていると、なんだかワクワクしてくるじゃないか。

 

ボンネットが大きい感覚は、エクステリアを眺めたときのスピンドルグリルと重なり合い、コックピットに座る自分を想像できる。幅の大きなセンター・コンソール、スウェード生地のような触り心地のシート、ほどよく配置されるステッチが好印象のダッシュボード、折り重なる数々のレクサス・ワールドに、ニンマリだ。

 

惰性で走っていけそうな重さも◯

LEXUS UX からビルを眺める

 

フロントウインドウの視界の有効面積も室内空間もタイトで、SUVの語源らしくスポーティ。乗用車の姿勢からの、少し高い視点は不思議。最近は背の高い車ばかりだが、自転車やバイクを抜く時には有効。その先にある駐車物まで簡単に目が届くから、予防安全を自分でコントロールできる余裕が生まれる。

 

車は多分ずいぶん重くて、動きの色々に緩慢さが組み込まれている。意図的にこうしているのだろう、C-HRベースという印象を払拭するような重い車に乗っている感覚、惰性でどこまでも走っていきそうな雰囲気は、なんとも不思議な高揚感に繋がっている。

 

エントリー・クラスでこれなんだから・・・憧れで手にした人にとって、次のレンジへの期待の階段が見えてくる。

 

LEXUS UX の数値では見えない雰囲気が◯

LEXUS UX ステッチ
ステッチもさることながら、和風素材を使用したダッシュボードの質感もお見事。飲み物を溢すことだけが心配。

 

もちろん、全てが完全ではないと感じる。LEXUS UX のドライバビリティは、よく出来ているが世界のレクサス像には届いていないかもしれない。しっかりと走る、曲がる、止まるは実現しているし、楽しいシチュエーションも存在する。だが、当然ながら LEXUS UX の上は存在するのだ。

 

それでも雰囲気は大事。クルマを道具として捉えるときと、文化として捉えるときがあるとすれば、LEXUS は文化だろう。数値に現れない、気持ちのいい空間と走りを鍛えることが、LEXUS の求めることだろう。曖昧とも言えるのだが、日本車が欧州車に比べて弱かったのがコレであり、職人気質から感性へ果敢に挑戦しつづけたことを評価したい。購入することに躊躇う必要は、まったくない。

 

思えば、コンパクト・プレミアムは日本ではレクサスと一部の輸入車だけのニッチ・エリアだった。だから、各々のメーカーの考えるキャラクターを色濃く反映させることができる。LEXUS UX を見ていると、無駄にスポーティにふらず、センスよく落ち着いたインテリア・カラーの品も良くて、ライバル不在。

 

惜しむべくは、背中の真ん中に支点があるようなシートの形状と、スイッチ類のチープさだが、それくらいは末っ子ならではの愛嬌として許してしまえる。ラグジュアリーなのに肩ひじ貼らずに済むのは、適度に力が抜けているからと前向きになれる力を持っているのは、間違いないのだ。

 

LEXUS UX ワールドは面白いんじゃないか

LEXUS UX エクステリア右斜め後ろ
小ぶりながら堂々とした出で立ち。といいつつ、横幅は 1800 mm を超えるから、取り回しには当初は慣れがいる。

 

今まで輸入車・日本車・軽自動車といろいろなクルマに乗ってきたが、LEXUS UX もなかなかに個性的で、面白い。雰囲気というか、ムードというものをしっかりと持っている。文章に書き記すには私の文章力では足りなくて、例えようもないのだけれど・・・

 

感覚的には良い意味で軽自動車に近い。使い勝手をトコトン追求しボタンやらフックやらが盛りだくさんな軽自動車のように、LEXUS UX は高級感を小さなクルマに凝縮した感覚で、ひょっとしたらこれって物凄く日本的な美的センスなんじゃないかと感じる。これでもかと詰め込みすぎてゴテゴテになりそうなのだけど、そこは上手にかわしているから、尚更良い。命名するなら、「東京SUV」なんてどうだろう?

 

LEXUS UX フロントシート

LEXUS UX リアシート

 

走りに関してだけ言えば、完璧じゃない。個性と評したシチュエーションも限定的。でも、そこが面白い。クルマって、ドキッとしたり苦笑いするような個性があったほうが良くて、愛着もしっかり湧くし色気も出てくる。子供は甘いが好きだけど、大人は苦味も辛味もイケるじゃない?LEXUS UX はうまい具合に味を調理していると感じるのだ。

 

走りの色気と、エクステリアやインテリアの質の高さから醸し出される気品とを、羽織のように折りかさなった LEXUS UX。なるほど、売れるわけである。

 

ドーンと大きなボンネット越しに見る世界と、自分を境にして備わる小さなキャビンのチグハグ感は、美術館で違和感を感じながらも何度も見てしまうような美術品のキテレツがそこにある。自分にしか理解できない、万人受けではないだろうと思いながらホクホクしてしまう、選んだ自分を褒めたくなるような美術的な車であると評価して、今回の結びと致します。

 

結びの瞬景

LEXUS UX エクステリア正面

 

おっと、まこまちさん辛口じゃないの?と言われそうですが、まったく辛口で書く必要の無いクルマです。面白い体験だったんだもの。いつか高速道路も体験してみたいなあ。

 

トヨタにはクラウンがあり、いつかはクラウンが合言葉だったわけですが、自らそのキーワードをぶち壊して高級部門を作ったトヨタの強さを感じます。ハイ・クオリティはセダンだけ、という文化は旧態依然。LEXUS を作ったおかげか、クラウンがブランド化されたのも歓迎。クルマの世界が、さらに面白くなりそうです。

 

あぁ、インフィニティとかアキュラとか、どうしているのかな。王者トヨタに負けないぞと切磋琢磨し、ポイントで超えてくるその他の日本車メーカー、別の視点で勝負をかける輸入車メーカー。中国企業の猛追のある中、トヨタには底力で世界王者に君臨し続けてほしいですね。