ほんの5年前。クルマを選んでいるときは、オートマチック・トランスミッションは6速以下が一般的で、8速になれば走るクルマというイメージが強かった。
その頃行われていたデュアルクラッチとトルコンATの勝負は、アイシンのおかげでトルコンATに軍配があがったように見えた。プレミアムメーカーも、こぞってアイシン製ATを搭載しているようだったから。上級のクルマには8速ATが装備される、そう考えてクルマを選んでいた。
ところが、目の前に現れたコンパクトカーは、いくらターボ武装しているとはいえ8段はオーバースペック。どうしてプジョーは、このクルマに8速ATを採用したのだろうか。(今回の記事は、monogress 的考察記事です。)
Peugeot 208はどうして8速ATなのか
ATの性格はメーカーの性格だ
全長 4095 mm 、全幅 1745 mm。Peugeot 208は今や、少し昔のCセグメントと同じ領域にいる。フォルクスワーゲンが昔のCセグを大事に思い、ポロを作ったのと同じように、プジョーは208に昔のCセグを重ねたように見える。
ならば必然的に・・・というような感覚で、トランスミッションは8速AT化してしまった。ここに違和感を感じたのは、上級セグメントと同じ段数だからだ。Peugeot 308とも、Peugeot 508とも同じ段数。
Peugeot 208 のアクセルを踏み込んでみる。予想通り、1.2Lにしては図太いトルクがデリバリーされた。パワーを受け止めてタイヤへおくる8速ATは、小刻みに変速を繰り返して面白い。乗って文句を言う人はいないだろう。
ところが、このあとさらに面白い違和感を感じることになった。
ブレーキを踏んだときの、トランスミッションのシフトダウンの制御、ロックアップの解除のタイミングが、まるで Peugeot 308 と同じじゃないか。イコール、Peugeot 508 とも同じように感じてしまった。
コストダウンと性能アップの両立
フランス車の中でも、少し高級寄りかつスポーティな立場に身を置くプジョー。なるほど、他のモデルと共通のドライブフィールがそこにある。けれども、あまりにも他のモデルと似すぎてはいないかな?
ピンとくる。Peugeot 208 のトランスミッション用プログラムは、もしや Peugeot 308 のものを使っているのではないだろうか。
すると、Peugeot 208 へ 8速ATが搭載されたことの意味がわかる・・・そうか、コストダウンだ。
トランスミッションもシフト制御プログラムも、Peugeot 308と同じものを使ってしまえば、その分安く済むに違いない。そもそも、Peugeot 308 のガソリンエンジンは 1.2L。出力もほぼ同じ。お客様へ良い商品を安く届けるのなら、こういう割り切りも悪くないね。
しかし・・・これだけでは納得できない。
デュアルクラッチの存在
8速ATの採用は、Peugeot 208 には朗報だろう。けれども、Peugeot 508 に乗る人にはどうだろう?いくらトランスミッション自体はハイパワー版を乗せるとしたって、同じ段数は少し悔しいではないか。
クラスの違いを見せつけたいのに、Peugeot 208 は下剋上のように上位車種へ詰め寄る品質を持っている。これは・・・プジョーの車種のヒエラルキーになにかが起こるに違いない?
そこで思い出したことがある。デュアルクラッチのことだ。
新しいトランスミッションを製造するPSA。MHEVやPHEV用に搭載される。
プジョーに搭載されるトランスミッションは、アイシンAWのものである。実は、アイシンAW製のATは、次世代プジョーへの採用が微妙なラインに入ってくる。PSAグループはPunchPowertrain社からデュアルクラッチ(DCT)を得て、マイルドハイブリッドと組み合わせる計画を持っている。e-DCTがこれである。
(実は、アイシンAWとのライバルである日本電産と、PSAは合弁会社を立ち上げている・・・こういう裏事情もあるのかもしれない。)
このトランスミッションは、おそらく新型Peugeot 308とセットで現れる。なぜなら、生産開始が2022年と言われているからだ。つまり、世界での重要な戦略車に、他のメーカーより少し遅れていたマイルドハイブリッドを搭載し、電動化へ加速するのだ。
ヒエラルキーは未来に達成される
少し前、私は Peugeot 308 が大きなマイナーチェンジを受けて、フルモデルチェンジを後ろへずらすと予想した。そろそろイヤーチェンジが行われる予定の308だが、3D i-Cockpitの搭載という少しお金のかかった修正を受ける。新型Peugeot 308は世界市場でゴルフと勝負するクルマ。ライバルも負けない実力をつける為、敢えて延命したと私は考えた。
(関連記事:新型プジョー308は2022年発表か?)
相変わらず評判の高いフォルクスワーゲン・ゴルフは、48Vマイルドハイブリッドが搭載される。プジョーとしては性能的に負けるわけにはいかないから、次期 Peugeot 308を、マイルドハイブリッドとEVの二本立てで出すと考えるのが正解だろう。
これはなかなか、凄い事だ。
ただでさえプジョーのパワーチョイス展開には度肝を抜かれているというのに、次期Peugeot 308では完全電動化も、達成されてしまうのだ。
すると、8速ATは過去のものに変わる。
Peugeot 208 は今回、8速ATを搭載したけれど、将来を見てみれば、そのATはレガシー・デバイスに変わってしまう。しかし、サイズも車重も小さい Peugeot 208 においては、マイルドハイブリッドを搭載するのは効率の面から見ても時期尚早。
そして、市場に沢山まかれた8速ATは、コスト面でも優位に立つ。価格競争に巻き込まれないよう、多少豪華に作られた Peugeot 208 だけれども、製造コストは相変わらずシビアな領域のクルマである。今まで Peugeot 308 で使ってきて、メンテナンスに慣れがあってプログラムも熟成されたものを使う。ある意味、英断といえるかもしれない。
すべてのバランスを鍛え上げる
オーバースペックであるとか、これからの時代は小型車でも多段化の波が来るとか、前向きににも後ろ向きにも捉えられる考え方も、悪くはないだろう。
Peugeot 208 に乗るとわかるけれど、Bセグメントのベンチマークというよりは、あきらかにCセグメントの品質を目指したクルマだ。全長こそコンパクトカーだけれども、全幅は少し前のCセグメントそのものだし。
パワーチョイス戦略も考えて、航続距離や車重とのバランスから、大きくなる必要もあったかもしれない。しかし、今回のフルモデルチェンジでは、長さ方向を除けばサイズダウンを実現している。よくぞこの小さな箱の中に、EVまでをも詰め込んだものだと関心してしまう。
Peugeot 208 の 8速ATは、将来必ず「低いスペック」に変わっていく。しかし、今搭載しておけば、進んだクルマという称号を受けることが出来る。おかげで、欧州カー・オブ・ザ・イヤーを手中に収めることもできた。
巧みに計算された8速AT。この成果は、次世代 Peugeot 308 が更に素晴らしいクルマへ登りゆくためのストーリーのスタートライン。スモールモデルの下剋上は、メーカー全体の実力を引き上げる原動力になる。
さあ、フォルクスワーゲン・ゴルフを、Peugeot 208 と Peugeot 308 で挟み撃ちにしよう。その瞬間を見れるのは、およそ2年後。ワーゲンユーザーもプジョーユーザーも、注目の一戦を見ることになるだろう。
とても楽しみな時代である。だから、クルマ好きは辞められないんだ。
Next…
ところで、私は Peugeot 308 に乗り換えて、さらにクルマが好きになったと自覚しています。特に足回りの素晴らしいプジョーのクルマは、道の継ぎ目やデコボコを見つけるたびに、わざわざそこへ足を向けて段差のショックを噛みしめる。気持ちのいいサスペンションの動きに、思わずニンマリしてしまうから。
しかし、プジョーは本当に楽しいクルマだとはいえ、その実力はどの程度のものなのだろうか。並み居る競合と、どれほど競っているものなのだろうか。これを確かめずには居られなくなってしまった。
ボルボ乗り時代とは、あきらかに違う高揚感。この感情を抑え込むのは、徐々に辛くなってきた。monogress として 200 記事を迎えるにあたって、良い車が何なのかを見つめ直すことにしようと思います。
あとがき
前回がボルボの想像記事でしたので、プジョーのもやってみたい!というところで、調べ物をしたりで少し時間がかかってしまいました。
この記事は、monogress として書きはじめて 198記事目になります。日々の日記とは少し違うブログであるmonogressにとって、記事数というのは1つの称号です。そして、aboutVOLVOから数えてみれば、550記事ほどになるのだから、ずいぶん沢山書いたなあというのが感想です。
そこで 200 記事記念は少し趣向をかえて、198記事目、199記事目、そして200記事目と、3記事連続で 200 記事記念としています。関連性をもたせた記事構成を、楽しんでいただけると幸いです(^^)