自動車にはトランスミッションはつきものだ・・・という常識は、いつまで続くことだろう。
日本に限った話かもしれないが、マニュアル・トランスミッションは既に過去のものになってしまった。あるにはあるが、愛好者のものと言えるだろう。かくいう私も、すでに20年はクラッチペダルを踏んでいない。10年一昔の二倍ではあるのだが、そんなに長くないスパンでも、常識は変わるものだ。
電気自動車が主流になり、クルマの動力のメインが電動モーターになったとき、現代の常識である8ATや10ATなどの多段ATは、消えてしまうことだろう。そんな貴重な体験を今味わっていると思えば、悪い気分はしないのかな?であれば、骨の髄までトランスミッションを楽しもうじゃないか。
プジョー車のトランスミッション(8AT)の特性
Peugeot 308SW に乗って、もうすぐ 1万km を走行する。新車で購入して1年ちょっと。自分としてはペースはあまり悪くないが、上には上がいるからビックリだ。5万km を走行するという方もいて、私の見えないプジョーを味わっているのだなと羨ましくもなったりする。
というのは、Peugeot 308SW では、どうやらトランスミッションに「熟成」というものがありそうだからだ。私の乗る2020年モデルは、アイシンAWの8速トランスミッションの搭載車。今や Peugeot 208 から Peugeot 5008 まで、すべてのプジョーに乗っているメイン・トランスミッションであるが、そして、同じATを搭載するボルボでは感じなかったことが、プジョーでは起きている。
トランスミッションに不安を抱えるプジョー購入希望者には、ぜひ知っておいて欲しいことも多い。私が1年で知った事実を、良い面、悪い面どちらとも、皆さんへ披露しようと思います。
プジョーの8速トランスミッション= 日本製(アイシン製)
「プジョーはアイシン製トランスミッションを搭載。なめらかな変速制御と燃費の向上を期待できる直結制御の領域を拡大した。」などという文言は、どの自動車紹介記事にも書かれることだろう。一時期、アイシン製トランスミッションは世界の輸入車の標準になった。
信頼性の高い日本製トランスミッションは、輸入車の「故障するかも」という懸念を払拭することに一役買ったことは間違いない。私も、細かいトラブルがあると言われる輸入車を買うときに、トランスミッションの銘柄は調べたことを思い出す。
その期待にしっかりと応えた VOLVO V40 と Peugeot 308SW。トランスミッションの故障は今の所起きていない。スムーズな変速は間違いないし、ブレーキング時のシフトダウン協調制御もしっかりと行われている。ギア比が狭いので、ブリッピングがされているかは正直判らないのも本音であるが・・・・それほど滑らかな制御なのだろう、フランス車乗りは、そんな細かいところは気にしないのだ(笑)
時速 100km/h 巡航でわかるプジョー車の適正ギア比
最近(2021年)のプジョー車は、ダウンサイジングターボの搭載も相まって、2,000 rpm 以下での分厚いトルクを発生するエンジンばかりだ。おかげで、Peugeot 208 に乗っても、Peugeot 508 に乗っても、基本的な変速制御は変わらないと感じている。
車種によっては、時速 100km/h 走行時に 7速に入っている場合と 8速に入っている場合とがあるらしい。私の所有する Peugeot 308SW ( 1.5L ディーゼルエンジン )は、時速 100km/h では 8速に入っている。
Peugeot 308SW 1.5L ディーゼルエンジン搭載車の時速 100km/h でのエンジン回転数は、 およそ 1600 rpmだ。
- タイヤサイズ 205/55R16
- 最終減速比 2.86
- 8速ギア比 0.672
この条件で計算すると。
- 時速 100 km/h ≒ 分速 1667 m/min
- タイヤ外形 = (( 16 インチ × 25.4 mm / インチ = 406.4 mm ) + ( 205 ÷ 100 × 55 × 2 = 225.5 ))× 3.14 ≒ 1984 mm
- 1分あたりのタイヤ回転数 = 分速 1667 m/min ÷ 1.984 m ≒ 840 rpm
- ギア比 = 8速ギア比 0.672 × 最終減速比 2.86 ≒ 1.922
- 時速 100 km/h のエンジン回転数 = タイヤの回転数 840 rpm × ギア比 1.922 ≒ 1600 rpm
最大トルク 300 Nm を発揮するのは、1750 rpm 付近だが、1600 rpm でも十分巡航することができる。一方、ハイオクエンジン仕様では、ギア比が少しかわるので、100 km/h 巡航時のエンジン回転数は、1750 rpm。トルクは 230 Nm と少し低いが、最大トルク発生点も 1750 rpm。時速 100 km/h を気楽に、効率よく走れる調整が、プジョー車ではされている。
いや、どんなクルマだって時速 100 km/h くらい出るだろう?と言いたいことはわからなくはない。けれど、程よいトルクがあるからこそ、エンジンの回転数に頼らない走りができる。回転数が上がらないから、振動も少ない。この差はカタログからは見えづらいが、確実に存在する車格の差なのだ。
プジョー車は、日本の高速道路の見事にマッチした設定になっていることがわかる。実際、高速道路を走っているとストレスが無く気持ちいい。フランスの高速道路は、時速 130 km/h が最高速度と聞く。日本では余裕の走りを見せてくれるはずだ。
徐行走行のコントロールは割り切りが必要
Peugeot 308SW では顕著なのだが、ブレーキを踏んでいる最中に 5km/h を下回ると、クルマは停止しようとエンジンの出力を駆動系から切り離す。ブレーキを離せば復帰するのだが、この制御のおかげで 0km/h 〜 5 km/h の間での徐行速度の調整ができない。
これは仕様とのこと。普通に停止するときに、素直にアイドリングストップへ移行する為に入っている制御だそうだ。スッと停止してアイドリングストップ → ブレーキを離せばフワッとトルクを復帰させる、というジェントルな動きを取り入れているのが理由だろう。5 km/h 以下でのクリープを使えないわけだが、これもフランス流の割り切りだ。
中途半端な徐行なんて、MTの国のパリジェンヌはしないんだよ・・・と言っているのかも・・・知らないでいると、故障したと勘違いしそうだ。パリジャンに叱られる!かな?
どうしても 0 km/h 〜 5 km/h の間での動きが必要であれば、「M」ボタンを押そう。これで、昔のトルコンATのように 0 km/h でも絶えずトルクがかかっている制御へ移行できる。詳しくは、マニュアルモードの動作詳細で詳しく説明している。
今回はトランスミッションのマニュアルモードを取り上げます。 Peugeot 308SW のマニュアルモードは、シフトチェンジのタイミングをパドルシフトで好きなタイミングで行うことのできるモードです。(確認車種はPe[…]
直結切り離し付近に若干の違和感
先の微速走行の件もそうなのだが、チンタラブレーキを踏むのを嫌がる傾向にある気がする、我が Peugeot 308SW 。ブレーキを踏んで停止する前の 20 km/h 付近で、トランスミッションによるエンジンの直結状態から切り離す感触を、ブレーキペダルを通じて感じることがある。
この違和感を嫌って、当初私はブレーキペダルを緩め、違和感をかき消していた。昔から車のカックン停止が嫌いなので、ブレーキを緩めることで前後のピッチングを抑える癖がついているのだが、違和感の領域とブレーキを緩めるタイミングが合っていたことも災いした。違和感は日に日に強くなってしまった。
大変複合的な要素が絡み合ってしまったが、この違和感の解決は、「トランスミッションの学習機能のリセット」により解決した。違和感を感じてもそのままブレーキペダルを踏んでいると、クルマは勝手に、キレイに停止してくれた。
この解決策は、同乗までして症状を確認してくれた、プジョーディーラーの協力があってこそだ。その時のやりとりは、下記記事で詳細に記してある。興味のある方は読んでみて欲しい。
Peugeot 308の乗り味を定期的に発進するシリーズ。 今回は、プジョーディーラーによるメンテナンスの結果を含めてお届けします。簡単に言えば、4,000 km のときから乗り味は変わらず。ようやく落ち着いてきた[…]
坂道での積極的なエンジンブレーキ
下り坂に差し掛かった時、Peugeot 308SW は積極的にエンジンブレーキをかけようと試みる。
重力により速度が上がっていっても簡単にはシフトアップをしない・・・シフトアップしてしまうと、エンジンブレーキがゆるくなってしまうし、エンジン・トランスミッションへの負担も大きいからだろう。この制御のおかげで、下り坂でも安心してコントロールができるのだ。どうしてもシフトアップしたいのなら、ステアリングについたパドルシフトを使えば良い。
これは「スロープコントロール」というらしい。アクセル開度に比べて速度が増すとき、下り坂と判断して無闇にシフトアップさせない仕組みだ。クルマとの以心伝心ができていると感じてしまう素晴らしい制御なのだが、実際には人間が考え抜いてつくられたものである、というのも面白い。
高温に弱い?真夏のサンシェードで抑えられる不穏な動き
直結制御の違和感や、クルマが思ってもみないところでシフトアップ・ダウンをする様を体験すること。プジョーに乗っていると、(私の308だけなのかもしれないが)これらの違和感が強く出ていると感じることがある。
統計的に調べていった結果、真夏にサンシェードをつけ忘れると出る、と結論づけた。勝手なことではあるのだが、マイ・カーはそうなのである。
もしもプジョーに乗った時、人のように調子のいい日と悪い日があると感じるならば、サンシェードでダッシュボードへの加熱を抑制しよう。いつもどおりの素直なプジョーに戻ってくれる可能性がある。
サンシェードなんて、常識だろ・・・!と叱らないで(笑)立体駐車場に停めていた時は、真夏の管理なんて考えなくてもよかったんだ。横幅 1805 mm の悪夢で、屋外駐車場に止めることになってしまった。このポイントだけは、恨みますぞプジョーさん!
クルマを知ればトラブルは消える クルマが好きになる
以上が、私が1年間で知ることができた Peugeot 308SW のトランスミッションの特性である。
プジョー車、もとい、フランス車を初めて購入するという人は、ある程度の覚悟が必要だろうと私も思う。輸入車歴があればそうでもないが、初めての輸入車、それがフランス車ともなれば、大きな不安の中でサインすることになる。例えインスピレーションがこのクルマにしたいと言ったとて、不安なものは不安なのだ。
だから、できるだけ事前にトラブル情報を調べたい、という気持ちにもなる。私の感じた良い面、悪い面は網羅したので、これからプジョーを買おうという方は、クルマの動きの要であるトランスミッションについては、試乗してよく感じて欲しい。
ところで、色々プジョーを試乗するうち、とくに Peugeot 208 ではこれらの違和感は最小限にまで抑えられているし、運転の楽しさは良い良い方向へ向かっていると感じる。新型 Peugeot 308 は、さらに良いクルマになることだろう。
そして私の Peugeot 308SW も、違和感があると感じた面は徐々に落ち着いてきているようで、最近は快適だとしか言いようのない、素晴らしい走りを堪能させてくれる。今の私の心の内は、プジョーバンザイ!なのである。