【Volvo XC60】The Beauty in Broken Lines 車の傷の美学

VOLVO XC60 2014モデルは、私にとって九代目の愛車。初めての中古車であり、初めてのSUVでもある。ブログを始めた頃に乗っていたV40よりも古く、しかもずっと傷だらけだ。ステアリングはカタカタ震え、フロントガラスには時の流れが刻んだ筋が走る。そんな姿を見れば「壊れやすくて維持費の高い車に、わざわざ乗り換えるなんて」と笑う人もいるだろう。

 

──けれど、今の私は驚くほど幸せだ。

 

なぜなら、この車には現代の車が失くしてしまった“重み”や“匂い”や“音”がある。ハンドル越しに伝わる路面の息遣い、油の焼ける香り、直列6気筒の軽やかな唸り。そこにはまだ、腕と耳と目で運転する、車と密に対話する世界が生きている。

 

VOLVO XC60のエンブレム

 

勇気を出してスロットルを踏み込めば、金属と油が混じる熱い匂いが鼻をかすめる。トランスミッションが荒々しくエンジンとタイヤを繋ぎ、地面を蹴り飛ばすように加速する。その瞬間、何とも言えない感情が押し寄せる──揺れやショック、扱いにくさを消し去るために自動車メーカーが重ねてきた努力を、私は長年称賛してきた。最新を見つめていた。けれど、その「不器用さ」を持つ世界に戻ってみれば──その感情は、「後悔」。私はまだまだ、全てを知り尽くしていないのだ。

 

VOLVO XC60(P3)のコックピットとThe Real Groupのアルバム

 

改めて、自らの幼さに後悔しつつ見る、ボディに散らばる無数の傷。ところがそれは、不思議とこの車に迫力と風格を与えていた。新品の時なら絶対に許せなかったはずの傷も、中古車なら「そういうものだ」と笑える。それは、失意から立ち直ろうとする友に、そっと手を差し伸べるような感覚だ。人も車も、愛も裏切りも失敗も、必ず心や体に傷を刻む。だからこそ、生まれながらに傷を背負った中古車に、私は共感してしまったようなのだ。

 

VOLVO XC60(P3)をフロント左サイドから撮影

 

年齢を重ねるうちに、私は“傷”に強くなった。愛車の傷も、仕事での傷も、笑って受け止められるようになった。現実は、中間管理職の渦中。上司の理不尽、部下の不満、顧客の要求。精神は日々削られ、小さな傷を刻まれていく。いい加減にしろと叫びたくなる、そんな日々を癒やすのは、家族であり、愛車であり、そしてほんの一瞬向けられる感謝や敬意だ。──要するに、時には誰かに認められたいのだ。

 

車は、その願いを叶える道具になる。新車や高級車、特別仕様の輝きは確かに人を惹きつける。車を手にする事実は、やはりステータスだ。けれど、その輝きはいつか薄れ、傷がつけばまた心も傷つく。そして、せっかく手に入れた車を見下ろし、違う選択肢があったのかと自問する。心にまた少しづつ、傷をつけながら。

 

VOLVO XC60(P3)のコックピットをリアシートから眺める

 

でも、私はそれを否定できない。傷を負い、癒やし、また傷つく。その繰り返しの中で、傷はいつしか愛おしくなる。自分もまた、少しは“味”のある人間になったと感じられる。それが人間としての深みか、ただの自己満足かは分からない。けれど、幸せである。幸せと思えるならそれでいいじゃないか。

 

VOLVO XC60 カフェでの佇まい

 

結局、人は傷と共に生きる生き物だ。ならば、傷つくことを前提にして生きればいい。目新しいもばかりが、良いものではない。そう思い始めた頃、私はこのXC60と出会った。

 

電動駆動からエンジンとトランスミッションの世界に戻ると、動力には“カタチ”があったことを思い出す。不器用で、手がかかるが、そのカタチを自分の技術で整えていく感覚が、たまらなく愛おしい。シフトダウンと同時にブレーキ量を合わせ、エンジントルクとギアの特性を体に刻む。耳にも身体にも心地よい再加速の瞬間を突き詰める。

 

変人と言われても構わない。

 

この達成感はやめられないし、忘れてはいけない。それはきっと、私の人生に刻まれた、大切な“傷”のひとつだから。

 

VOLVO XC60(P3)を右斜め前から撮影した全身ショット

 

 

という事で、ボルボXC60を題材にした、少し新しい書き方を取り入れた記事の投稿でした。需要の少ない車への乗り換えの理由は、需要の少ない記事を書きたかったから、というのは、私の勝手な自己満足。でも、できれば沢山の車好きと知り合って、個々の愛車レポートを書きたいなあ。

 

以前お伝えしたとおり、今回をもちましてブログの更新を、一度休止します。プジョー、ホンダを主に扱った5年間は、書きたかった事を書き続けた5年間ではありませんでした。本当に書きたかったのは、きっと車に関わる人間のストーリー。そして、今その気持ちは、田舎暮らしと、車と、さまざまな道具へと、スポットが広がっています。

 

道具に宿る人間臭さをを書きたい。洗練が進む世の中で、本当に大事なのは何か。そんな事を書く為の体制を作る事。それが更新を休む理由です。

 

5年間のmonogress、aboutVOLVOも入れれば8年間のブログ生活。本当に長い間お付き合い頂き、ありがとうございました。少しの間だけ、お休みを頂きます。それではまた、monogress と、その他の事を書こうとしている新しいブログメディアでお会いしましょう。