プジョー308SW 1.5Lディーゼルと、ボルボV40 ディーゼルの思い出バトルに割って入る、1.6L PureTechガソリンエンジン。
開発コード「Prince」は、気取った名前に呆れてしまいそうになる。だが、しっかり実力を伴っていた。
ガソリンエンジンの良さの塊 PureTech
軽いディーゼルに心惹かれる(あらすじ)
ボルボV40 D4 2Lディーゼルエンジンと、プジョーBlueHDi 1.5Lディーゼルエンジンは、頭の中で冷静に考えると甲乙つけがたいエンジンで。回頭性とフィーリングの308SW(BlueHDi)に対して、直進性とパワーのV40(D4)は、もしかしたら時と場合によって優位さは逆転するかもしれない。
それだけ実力が拮抗している、というよりは、若干性格の違う2つのエンジンだ。
特に今回308SWを選んだ理由は、ディーゼルの重さに疲れを感じ、軽快さを感じることができるディーゼルエンジンに巡り会えたから。この1.5リッターディーゼルエンジンを、逃すものかと飛びついた。
納車されてみれば、選択に間違いはなかったと感じる出来の良さ。回転の上がり方はガソリン並で、カラカラ音は皆無どころか、2,000 rpm 前後では独特のスポーティさを感じる気持ちのいい音を奏でてくれる。
回転数が上がるからといって、排気量が小さいからといって、ローギヤーでないのも良い。高めの回転数で加速する感覚も、低めのシフトからトルクで加速する感覚も、どちらも味わうことができる美味しさは格別だ。
ディーゼルエンジンの良いところを抑えつつ、ガソリンエンジンの良いところを取り入れている、そんなエンジンだからこそ、選んだかいがあったというもの。
その良い気分を打ち壊すのが、プジョー1.6リッターPureTechエンジンだった。
1.6リッター PureTech
その出で立ちは、軽やかに舞う1.6リッター直列4気筒ツインスクロールターボエンジン。低回転域から高回転域まで、過給を自由にコントロール。
出足の良さは一級品。ターボラグを誰にも感じさせることはなく、アクセルにリニアに反応する。
キレは抜群、美声の持ち主。誰もを魅了せしめる歌声は、3オクターブはあるのではないかと疑ってしまう爽快感。オーディオ要らずで、ずっとエンジンサウンドだけを聞いていたくなる。
BMWとの共同開発で生まれた4気筒ガソリンエンジンは、設計は少し古いものの、リファインされてユーロ6に対応する。伸びの良さが元々良いのか、排ガス規制による弊害を感じさせることが無いのが嬉しい。
走る楽しさを思い起こさせる
口で言うと「フゥァァァン」というエンジンサウンドは、ディーゼル一辺倒になっていた私の目を覚まさせる。洗練された精密機器を思わせるそれは、直列6気筒?V型8気筒?ひとつ上の気筒数を思わせた。低音を抑え、気持ちのいい音だけをドライバーの耳に伝える。進む道にバラが咲くような気分になってくる。
あぁ、走る楽しさってこういうのだった。
よどみなく吹き上がるエンジンが付いていると、クルマの重さは感じなくなるもののようだ。どのタイミングでアクセルを踏み込んでも、声を荒げることもなく、クルマをスッと前に押し出す。飽きること無く、何度でも繰り返せる楽しさを持っていた。
トルク250Nmは、絶対的な加速力を保証するものではない。でも、これでいいじゃないか?気持ちのいいエンジンを積むと、速さなんて気にならなくなるようだ。クルマ全体が若々しい。
エンジン音を抑え込み、淡々と重い体を推し進めていたボルボD4ディーゼルエンジンを記憶から追い出し、次はガソリンにするんだぞと心に強く刻ませる。カリスマ性をも感じさせる「Prince」は、剣(つるぎ)と共に舞いまわる細身の王子を思い起こさせる。プジョーのフラッグシップ508SWに相性ピタリ、だ。
1.5リッター BlueHDi
そんな高揚感を味わったあとに、1.5リッターBlueHDiエンジンに乗り換える。うん、少し遠くで鳴り響く深い音。やはりこれも良い。気丈な女性を思わせる、か弱さを感じつつも安心感が頼もしい、独特の細いディーゼルサウンド。唸らず、叫ばず、淡々と。時々鼻歌が交じるけれど、愛想があって可愛いじゃない。
このディーゼルエンジン、先程のガソリンエンジンと、ほぼ同じ重量に抑えられている。恐らく、この軽さがあるからこその軽快ディーゼル。捨てがたい。
低速トルクが強いのか、若干ギクシャクする不器用感はくすぐったいが、ほぼ同じ加速感。流石に歌声はプリンスには敵わないが、十分すぎる気持ちよさを味あわせてくれる。
選ぶ楽しみは悩ましさに
プジョーの中でも、この2つのエンジンは悩ましい存在なのだろう。1.5リッターBlueHDiを搭載するクルマには、1.6リッターPureTechは搭載されない。2.0リッターBlueHDiは搭載されているのに、である。
思えば、300Nmと250Nmという同じようなトルクがあり、エンジン重量もほぼ同じ。燃料・燃費と・クルマの性格との兼ね合いで、ベストなグレード展開を構築する。選ぶのはなかなか、大変だぞ。
清々しい少年王子と奥ゆかしい日本の女性、エンジンでクルマを選ぶなら、貴方はどちらを選ぶだろうか?
車種は変わってしまうだろうが、どちらを選んでも満足するだろう。自分の性格と好みとを、じっくり検討することをオススメしたい。
データシート
Peugeot 508SW 1.6 Litter “PureTech” Engine
Peugeot 508SW GT-Line
ENGINE 1.6 Litter Inline 4
Power 180 ps
Torque 250Nm
RevLimitter 6,000 rpm