私はハイブリッドカーには懐疑的だった。クルマの楽しさはラバーバンドフィールでは実現できず、トルクの太いディーゼルか、割り切ってEVかと考えていた。そこへ現れた HONDA e:HEV の疑似ステップアップフィーリングは、まさにハイブリッドの助け舟。欧州ディーゼルへ逃げ込んでいた車好きを引っ張り戻す立役者になったことは確かだろう。
日本初のカー・オブ・ザ・イヤー パフォーマンスカー部門を得た HONDA CIVIC e:HEV は素晴らしい。将来、水素エンジンや代替燃料の可能性を秘めた内燃機関を諦めず、電動技術も進んでゆくバッテリー・モーターも搭載、さらに耳から入る走りの楽しさも得たとなっては、将来を期待せずにはいられないのだ。
その スポーツ e:HEV を搭載したSUV HONDA ZR-V 、このクルマにも期待せずにはいられない。当初 ZR-V 目的で CIVIC の試乗にでかけた私としても、黙ってやり過ごすわけにはいかない。今回、両車両の試乗も済んだので、「ZR-V e:HEV vs CIVIC e:HEV」お互いファーストコンタクト状態での比較をしてみたいと思います。
ZR-V vs CIVIC デザインの印象対決
HONDA CIVIC は見た目でわかるスポーティ路線。6ライトのスポーツセダンのようにも見えるのだが、特徴的なテールゲートでハッチバックだと主張する。ロングホイールベースもあって、誰がどう見ても走る車だ。対して HONDA ZR-V は、都会的で洗練された新しいグリルが特徴的だが、ボンネットのボリューム感とは裏腹にテールにかけてのイージーな処理で、ドッシリ感はあるものの全体的には不可思議な印象が残っている。
もし、この印象を意識して作り上げたのだったら、ホンダのデザインは新世界に入りそうだ。CIVIC はドアを開けたときに「なるほど!」という納得感あるスポーティ・インテリアが迎えてくれるが、ZR-V は「まさか!?」という驚きを受ける。マルーン色のシート、各部にステッチの入る高級感が、エクステリアの印象とは全く違うのだ。
ZR-V がインテリアに力を入れたのはすぐにわかる。ソフトパッドの量はマツダのインテリアを意識しているだろうし、Cセグメントの標準としてホンダが受け入れ、真似をした結果だろう。特にシートのデザインは、同じセグメントの欧州車と比べても負けない色合いだと私は感じた。
とは言え、CIVIC のインテリアは NG なのかと言えばそんな事はない(正直言えば、CIVIC にもこれくらいしろよと言いたくなる可能性がありましたが・・・)実際には CIVIC のほうがほんの少し繊細な印象。両車に共通と見ていたベントグリルのパンチングメタルは、 CIVIC はピアノブラックで加飾、ZR-V は横に金属質のラインが入る。縦方向に引き締まって見える CIVIC は、やはりスポーティなイメージとぴったりマッチして好印象。
強いて言えば、CIVIC、ZR-Vともにエクステリアデザインは、サイドの抑揚をもう少しこだわってほしかった。クリーンなデザインを目指しすぎ(笑)この勝負、引き分けだ。
ZR-V vs CIVIC 装備の良さ対決
ほとんどの人が ZR-V 優位と感じる
ほとんどの人が、ZR-V が上回っていると言うだろう。私もそう思います。
CIVIC を選んだ人間が一番に文句を言いたい(笑)ところは、パワーシートのメモリー機構「ドライビング・ポジションシステム」が ZR-V にだけあることだ。これにはビックリした。そもそも、電動パワーシート=シートメモリー機構でセットだろうと思っていたからだ。シートポジションの微調整だって、走るクルマ CIVIC にこそ付ける装備。夫婦で使うことを ZR-V で考えて、CIVIC で考えなかったというのだろうか?休憩でシートを倒した後に、正確にもとに戻したいじゃないか!
一方、CIVIC にあって ZR-V に無い装備もある。アクティブノイズコントロールは、試乗したときに明らかに CIVIC e:HEV のほうが静かなので機能していることが改めてわかる。アクティブサウンドコントロールもそう。ZR-V を試しに SPORT モードにしてみたが、エンジンサウンドが聞こえてこない・・・まあ、街中で全開加速なんて出来ないから、エンジン音が聞こえるところまでアクセルを踏めなかっただけかもしれないのだが。
ZR-V e:HEV Z / CIVIC e:HEV 装備対比表
CIVIC e:HEV | ZR-V e:HEV Z | |
---|---|---|
マルチビューカメラシステム | ● | |
LEDフォグライト | ● | |
ヒルディセントコントロール | ● | |
ドライブモードスイッチ(各車の専用モード) | INDIVIDUAL | SNOW |
アクティブノイズコントロール | ● | |
アクティブサウンドコントロール | ● | |
リアシートヒーター | 4WD | |
ステアリングヒーター | ● | |
パワーテールゲート | ● | |
シート | プライムスムースxウルトラスウェード | 本革 |
リア用LEDスポットランプ | ● |
ドライビング・ポジションシステム以外で ZR-V にあって CIVIC に無いものは、リアベンチレーションの下に付くUSB充電ソケット(米国CIVICには付いている!)と、テールゲートの電動仕様。360度ビューカメラも羨ましいし、4WD モデルにはリアシートのヒーターが付く、ステアリングヒーターも付く・・・ZR-V は快適装備が満載。まあ、CIVIC は少しでも軽量化したほうが喜ぶユーザーも多いかもしれない。そう考えて乗り切ろう(笑)
この勝負は、ZR-V の勝ちですかねぇ。
ZR-V vs CIVIC 走りの良さ対決
どちらも優秀な動的性能
先に、この2車の共通項を伝えておこう。
スポーツ e:HEV の性能はかなり高い。ガソリンエンジンで発電し電気モーターで走行するハイブリッドは、ほとんど EV と同じ加速感。いつまでも伸びやかに、強力なモーターが背中をグイグイ押してくれる。時代は EV だなんて言うけれども、エンジン付きの EV だと考えればかえって贅沢な仕様なのではなかろうか?
まだ、アクセルやブレーキのタッチも素晴らしい。軽めの操作感は足の疲れを軽減しそうだ。最近、オルガン式ペダルだなんだと言われているが、あれは一種のファッションじゃない?と言いたくなる、素直な操作感を評価したい。さらにブレーキの強弱調節のしやすいのなんの。止字直前にブレーキ緩める人も納得。ジェントルに停止ができますよ!
代替え燃料による内燃機関継続を推す私としても、自動車の電動化は避けられない事だと最近は感じる。ハイブリッド化のアドオンは確実に燃費を向上させる。バッテリーやモーターが安価に、平和に手に入るなら、ダウンサイジングターボと同じく燃費向上に役立て[…]
さて、CIVIC e:HEV と ZR-V e:HEV は、私が試乗する前の環境がかなり違う。CIVIC は Peugeot 308SW 、ZR-V は HONDA N-BOX で試乗にでかけた。サスペンションは、N-BOXもまずまず良いがリアサスペンションの動きが渋い。Peugeot 308SW は大入力は大きくストロークしクルマも大きく揺らしてくるけど、フラットで快適というおフランス仕様。これを加味すると ZR-V の印象が良くなりそうだが、実際には違っていた。
ZR-V は足回りが少し固い 官能的なエンジン音はいつ聞ける?
歩道から車道に落ちる「車道落ちチェック」時にすぐにわかった。試乗車の ZR-V はサスペンションがうっすら渋い。CIVIC e:HEV の車重は 1,460 kg 、ZR-V e:HEV(FF)の車重は 1,580 kg。120kg 差のチューニングはされているはずであるが、セールスさんいわく「ワインディングでもスポーティに走れるように」としてサスペンションは、少し引き締め気味な印象だ。
街中を走ってみると、その固さはしっかり感じる。アスファルトの凹みを踏むと、上体がクラリと揺れる。グラリではなく、クラリ。揺れないわけではない事はしっかりと伝えておきたいが、「不快というほどではない」という言葉がピタリと合う。おかげで速度を上げれば気持ちよくなるセッティング。幹線道路では見晴らしの適度な良さもあって、ストレスフリーで駆け抜けた・・・SUVでこのセッティング、ありなんだなぁ。
もうひとつ、CIVIC と比べた時、これは「アクティブサウンドコントロール」の有無によるものなのだろう、ステップアップギミックがあるはずのエンジンサウンドが、低速度域で聞こえてこない。モーターによるトルクが大きく、私が思い切り踏み込めていないだけかもしれない。しかし、CIVIC e:HEV と同じ試乗コースだから同じギミックなら聞こえてもおかしくないはず・・・
もしかすると CIVIC よりもエンジンサウンドを積極的に聞かせない仕様になっている?
欧州車的乗り味を実現した CIVIC e:HEV
ZR-V と比べると、CIVIC e:HEV は速度が遅くても走っている楽しさを実感できる。CIVIC はスポーツ、ZR-V はコンフォート、そういう明確な性格分けあるのかもしれない。だが、走っていて感じる揺れの少なさは CIVIC の勝ちだった。スポーツカーとして CIVIC を見てしまうと、乗り心地の良いのは ZR-V だろうと考えてしまうが、CIVIC はスポーツカーよりも大人のセダンな躾である。だとしたら、空間的な広さ以外は CIVIC が快適なのは当然だ。
足回りはストロークを上手く使って路面のデコボコを軽やかに乗り越えるし、強い入力があった場合でもギュギュっと圧縮して我慢しているような、フランス車とドイツ車の間のような乗り心地。静かに走る街中走行でも、嬉しくなるサスペンションセッティングだ。
ここに、澄み切ったエンジンサウンドだけを聞かせるハイテク装備が混ざり合う。アクセルに軽く足を乗せるだけで、ハイブリッドでは諦めていたエンジンのメカニカルサウンドをアレンジ付きで聴かせてくれるというのだ。これはある意味、エコロジーなのではないだろうか?
なお、走行性能の数々は CIVIC 優位と考えられるが、ハンドリングはドローだと感じた。CIVIC e:HEV はフロントヘビー感があって、ZR-V e:HEV は CIVIC よりも素直な印象をうけた。前後重量比の関係だろうか?
流石に走行性能勝負は CIVIC の勝ちだ。もし CIVIC の走りの楽しさが ZR-V にもあると考えているようなら、それは間違い。しかし、他メーカーの SUV に無い走りが欲しいのなら、ZR-V は期待して良い性能だ。
ZR-V vs CIVIC 選ぶのならどちらか
では、結果はなんとなくドローなのか?と言われると、実際には「やっぱり ZR-V がお買い得だよねぇ」となる。人気のSUVカテゴリーなら、3年後の買取価格では大きな差が生まれるだろう。CIVIC だってスポーツセダン的なクルマだから、それなりのリセールは維持するはず。しかし、ZR-V は走りの楽しいSUVとしてトップに君臨するだろうから、高いリセールが期待できる。
しかも、定価は実質 10 万円ほど ZR-V が安いのである。さらに装備が充実するから、さらに 15 万円くらいは ZR-V がお買い得だ。CIVIC は登場した当時から高い高いと各方面から言われていた。走行性能とノイズやサウンドなどのギミック装備に価値を見出すことができなければ、どう考えたって ZR-V のほうがお得である。
だが、価格なんて関係ないぜ!と息を巻く諸君は、そんな答えは望んでいませんよね!
ZR-V e:HEV よりも CIVIC e:HEV を選ぶべき人
HONDA CIVIC e:HEV を選ぶべき人は、ピッチングの嫌いな人だ。私も明確にコレ。クルマの重心を支点とした前後方向の素早い動きは、酔ってしまう人もいる。背の高いクルマが苦手なら、CIVIC が良いと言えるだろう。また、ボンネットが見えるのが嫌だという人もそう。ZR-V は普通の着座位置でボンネットがよく見える。(インテリアの造形で抑え気味には作られている。)人によってはボンネットで車幅がわかりやすいという人もいるが、そうでない人もいるのである。私はべつにボンネットが見える必要はないので、CIVIC が魅力的に映ったのだ。
それに、やっぱりエンジン音は命。ZR-V にエンジン音が鳴るギミックをオプション追加できると聞いたら、私は付けちゃう人。クルマは走行時に楽しいと思える性能が、どれだけあるかでしょう。それが「背の低いクルマしか選ばねーぜ協会」の会員の証です(笑)
また、クルマらしさを感じたい古き良き車好き(?)には、やはり CIVIC がオススメ。クルマの重心移動、サスペンションのストロークを感じられるのは CIVIC の魅力。インテリアのスイッチ類、特にダッシュボードまわりのセンスは、ミリメートル単位で CIVIC のほうが整っている、そう私は感じている。
CIVIC e:HEV よりも ZR-V e:HEV を選ぶべき人
HONDA ZR-V e:HEV を選ぶべき人は、CIVIC のようなスポーティ要素が要らない人だ。CIVIC と同じ e:HEV を積みながらも、それを余すことなく楽しみ尽くすのではなく、広さ・便利さに重点を置きたい人だろう。実際、ZR-Vのトランクは丁度いい高さで荷物が起きやすいとか、本革シートでインテリアの質感が高いとか、長所を探せば ZR-V のほうが沢山でてくる。だって、CIVIC e:HEV より後に発表されたんだもんね。
それに、街中でまでスポーツドライブしたくないって人も居るでしょう。CIVIC はスポーツ走行していなくてもスポーティなのが良いのだけれど、街中でまでエンジン音聞きたくないよ、EVっぽくスマートに走りたいよって人は ZR-V でしょうね。まあ、ならば足回りはもう少し柔らかくても良いんじゃないかって思うのは、私だけではないんじゃないかな・・・。
ケチを付けるような言い方で申し訳ないが、そのあらゆる方向でチグハグ感があって、それでも乗ると納得しちゃうのが ZR-V の良いところだと思う。胸を張って選んでください!
結びの瞬景
ようやく、ZR-Vの呪縛から逃れられた感じがする。インプレッションも書きたいけれど、できれば2、3回乗った後の方が良いなあ。車の性格は正しく伝えたいじゃない。
クルマのデザインでは相変わらず欧州車を追いかける日本車達。でも、よく言われる「動的質感」は追いついたのではなかろうか。金銭的な余裕があればデザイン料や雰囲気料として輸入車に乗るのは良いと思うが、私は輸入車に乗っていたら日本車が輸入車のように思えてきてしまった。あちらの世界はどうなっているのだと。
そう、輸入車かぶれなんじゃない、単純にクルマが好きだった。それを思い出させてくれた CIVICとZR-Vには感謝です。