カー・ジャーナル

たまには愉しいクルマ談義を/プジョーのマイルドハイブリッド戦略を解き明かせ

パワーチョイスとして内燃機関とEVを設定したプジョー。プラグインハイブリッドもラインナップに加わる一方、マイルドハイブリッドは遅れた印象。しかしそこには、世界で生き抜くためのしたたかな戦略が隠されていた?プジョーの戦略を読む、想像記事をお届けします。

 

―― ◯ ――

 

先日、パワーソースのお話をしましたが、クルマ社会全体で見れば、ある程度の電動化は避けられないと感じます。

 

そもそもクルマ自体が既に電気だらけだし、エンジンの始動がどうしてもモーターなのだから、セルモーターを大きくしてしまおうという単純な考えだけで、マイルドハイブリッドが完成してしまう世の中なのです。

 

実際には簡単でないことは、各メーカーのラインナップの遅さを見れば明らかですが、別のデバイスを開発するより、使い慣れたモーターを使ってしまおうと発想するのは当然のことでしょう。

ご注意:この記事には、まこまちの独自考察が含まれています。

 

 

スポンサーリンク

大逆転を狙う プジョーのマイルド・ハイブリッド戦略

電動化に遅れたプジョー?

そのマイルドハイブリッドに乗り遅れたと見えるのが、我らがプジョーなのであります。ボルボはいち早くマイルド・ハイブリッド化を完了し、電動化最先端の面目を保ちました。フォルクス・ワーゲンもゴルフにマイルド・ハイブリッドを搭載。プジョーで期待するのは、次期 Peugeot 308 と考えるのが正解と思われますが・・・

 

プジョーのマイルド・ハイブリッドは、2022年と考えられます。理由は、グループPSAのプレスリリース。Punch Powertrain社との開発で製造される、「e-DCT」というトランスミッションがキーになりそう。

 

Punch Powertrain 社は、ベルギーの変速機メーカーです。Group PSA は他にも、日本電産(Nidec)とトラクション・モーター事業の合弁会社も作るなど、電動化に必死の様子です。

 

・・・というか、EVを作って内燃機関車も作って、PHEVも使ってとなってくれば、簡単な機構ですみそうなマイルドハイブリッドは、サプライヤーに任せてしまおう、と読み取れなくもないと感じますが・・・

 

Punch Powertrain 社と生み出す「e-DCT」がキーになる

48Vハイブリッドは、単純にオルタネーターの代わりに大きなモーターをつける、というものが多いです。エンジン側の改良は行わず、少し出力の良いモーターをつけて、ベルトで繋いでアシストする。これなら、トランスミッションの改良も不要になる。

 

ところが、日本の変速機メーカーであるアイシン・エイ・ダブリュは、モーター内蔵トランスミッションというものを開発しました。載せるだけでマイルド・ハイブリッドの出来上がり・・・とはいかないのだろうけど、エンジン側の改良は少なくて済む。スペースの問題も解決する。2025年には、どんなクルマにもMHEVが搭載されるのでしょうね。

 

プジョー はどういうマイルド・ハイブリッドを出してくるのか?「e-DCT」がキーになるのは、ここです。

 

プレスリリースによれば、Punch Powertrain 社のトランスミッションを使用して開発するのは、「PHEV」と「MHEV」と書かれています。

 

「PHEV」はわかります。エンジンの動力と、プラグインハイブリッドのモーター動力をふたつのクラッチでつないで使う。内燃機関が奇数、モーターが偶数の、7速あたりが堅い、と思います。

 

マイルド・ハイブリッドは、デュアル・クラッチ・トランスミッションとどのように使うのでしょう?

 

プジョー 308 シフトレバー

 

新開発デュアルクラッチトランスミッションでゴルフを追い越す

真っ先に思いつくのは、8代目ゴルフ。7速DSGと1.5Lマイルドハイブリッドの構成で、誕生しました。ゴルフはこの構成により、10 パーセントの効率化を果たしたといいました。プジョーは少なくとも、ゴルフを超えようと企んでくる。

 

まったく同じ構成で想像するなら、プジョーの場合は 7速 e-DCT と 1.2L PureTech ガソリンエンジン。排気量が小さいから、ゴルフに比べても燃費の面では勝てるでしょう。

 

ゴルフは対抗馬として、1.0 L + マイルド・ハイブリッドも企むが・・・すぐには出しては来れないはず。フランス仕込みの 1.2 L エンジンは、きっといつも、ゴルフに勝る事を考えていたに違いありません。マイルド・ハイブリッド化することで、排気量の小ささは今までになく武器になる、と言えるのです。

 

それと、これは夢のような話ですが、フォルクスワーゲン・ゴルフには設定していない「ディーゼル・エンジン」+「マイルド・ハイブリッド」もあるかもしれない。

 

ドイツはアウトバーンに主眼を置くが、フランス勢は街中での扱いやすさを重んじます。Group PSAの 1.5 L BlueHDi ディーゼル・エンジンは、ガソリン・エンジンのように軽やかなフィーリングが愉しい「クリーンディーゼル」ではあるものの、廃ガスにおける世間の目は全世界でも厳しいことでしょう。

 

フォルクスワーゲンは、ディーゼル・エンジンへのMHEVの搭載は「すでに高価なエンジンだから不要」と割り切っている様子。GroupPSAがつけ込みとすれば、ここはアリな領域です。

 

出典:フォルクスワーゲン

ディーゼルとマイルドハイブリッドの組み合わせはつくらないと名言している、フォルクスワーゲン。プジョーの動きによっては将来変更してくるかも?

 

夢のような「ディーゼル」と「e-DCT」の組み合わせ

もう少し、夢の話を続けていきましょう。

 

今のところ、「e-DCT」がどのような製品かはわからない。

 

名前に “e” がつくあたり、普通のデュアル・クラッチ・トランスミッションではない事は想像できるが・・・もしも、アイシン・エイ・ダブリュのようにモーター内蔵のDCTなら、燃費のすこぶる良いクルマが、手頃な価格で手に入るのではなかろうか。

 

トランスミッション自体は7段、8段はついていて、動力は全てのギアでエンジンから供給される。トランスミッション内にはモーターと電磁クラッチがついていて、エンジンの苦手なエリアをカバーする。

 

1.5L のディーゼルエンジンは、何だかんだで定速走行が得意だし、燃費も伸びる。加速のアシストがモーターで得る事ができるのならば、評価の高い気持ちのいいエンジン音もガンガン楽しむ事ができるわけです。

 

ブレーキを踏んで減速すれば、エンジンは回生ブレーキの効率を高めるためにトランスミッションから切り離すこともできるでしょう。ブレーキングのフィーリングは、今よりずっと良くなるに違いない。

 

Peugeot308SW in 山梨勝沼

 

プレスリリースは夢を後押しする!

混雑激しい川崎で、15km/L をコンスタントに発揮する Peugeot 308SW の 1.5L BlueHDi ディーゼルエンジン。MHEV化で17km/Lまで走れたら、これはもう化け物ワゴンになってしまう・・・

 

そんな夢が実現するのか、どうなのか? GroupPSAのプレスリリースに、気になる文言が載っています。

 

Starting in 2019, all new petrol and diesel models will also systematically come in a hybrid or all-electric version.

出典:Group PSA PressRelease

翻訳:2019年以降、すべての新しいガソリンおよびディーゼルモデルも、ハイブリッドバージョンまたは全電気バージョンで体系的に提供されます。

 

Known as the DT2, this cost-efficient dual clutch transmission is the first in the industry to integrate an electric motor in a mild hybrid electric vehicle.

出典:Group PSA PressRelease

翻訳:DT2として知られる、コスト効率の高いデュアルクラッチ・トランスミッションは、マイルドハイブリッド自動車の為に電気モーターを統合する業界初の製品です。

 

どのような展開を見せるのか・・・ディーゼル・マイルドハイブリッドは存在するのか?気になりますね!

 

したたかなGroupPSAの戦略だった!?

日本では、ハイブリッドカーはパラレル方式が主流です。流石のトヨタ、世界の追従をまだまだ許さない実力は大したものです。

 

欧州勢は、トヨタのハイブリッドには敵わないと思ってか、パラレルハイブリッドを諦めて、一気にEVに行こうと息を巻いてきた。けれども、補助金が無ければまだまだ購入の難しいEVは、数年で買いやすくなるものではない、というのが事実です。

 

プジョー にしても、パワーチョイスというコンセプトは素晴らしい。フランスは原子力発電が盛んだから、EVを優先で作ってしまえばCO2排出量は劇的に下げることができる。Peugeot 208 で見事にEVをラインナップに組み込む事ができたわけだが、それにしても内燃機関がそのままで良いとは思っていなかったはずです。

 

そこに、マイルド・ハイブリッドが生きてくる。

 

庶民の手にする、マイルド・ハイブリッド。トヨタ方式ほど緻密にしなくても、バッテリー容量を多くすればモーターアシストも多くできる。燃費も良くなる。単なるオルタネーターの代替でなく、その一歩先のマイルド・ハイブリッドを狙いにゆく。遅れたMHEV化は実は、良いプロダクトを作るための計画的な行動だった。

 

そのように読み解くこともできそうです。

 

ガソリン・エンジンもディーゼル・エンジンも、少量のモーターアシストを加えるだけで、10%〜15%の燃費改善が見込められれば、将来的には燃焼技術のアップに伴い、合計では随分燃費を良くすることができるでしょう。

 

THS、e-Power で独自の電動化作戦に走る日本勢、MHEVで内燃機関を伸ばす欧州勢。将来のパワー・ソース競争のキーは、クルマをつくるすべてのメーカーの手の中にある。

 

この戦いを、楽しんで見守りましょう。

 

308SWで熱海ドライブ

 

あとがき

ということで、好き勝手なことを書く「たまには愉しいクルマ談義を」コーナー、久しぶりの投稿でした(^^)

 

マイルド・ハイブリッドは地味なプロダクトに見えますが、モーターとバッテリーを大型のものにすれば、EV走行も可能になります。トヨタTHSシステムは素晴らしいものですが、エンジン音とクルマの走行速度のフェーズが合わないこともあって、違和感を感じる人も少なからずいると思います。

 

トランスミッションとつないだ時にエンジンと直結されるMHEVは、この違和感は無くなるはず。技術としては劣るけれど、最新の技術はEV開発へ向けていきたい。その技術をフィードバックし、マイルド・ハイブリッドの進化を促すーーーそういう意気込みを感じますね。

 

5年後、次のクルマに乗り換えるときは、電動化されたクルマを選ぶことになるのだろうな・・・そう感じずにはいられません。

コメントで応援してください!

  1. Aguru より:

    確かに、なぜディーゼルのHVが出ないのか?
    出ても良いと思うんですけどねぇ~
    ガソリンとは違う点火方式の為、必然とエンジン自体は堅牢な構造、
    軽油の質の問題だってすでに解決ずみ・・・
    モーターからエンジンへ切り替える時にガソリンよりショックが大きくなる傾向があるのかも??
    なんて考えていますが、そこはバツンと切り替えなきゃ何とか成りそうだし・・・
    ボルボもVシリーズを60からじゃなくてせめて50位から出してくれれば・・・なんて思ったり・・・
    このままだと、プジョーが庶民の砦に成りそうなんですよねぇ~
    ただ、問題はアドブルーの給油いや補充か・・・住まいが川崎(内陸ですけど)なんですが、
    意外と無いんですよね、アドブルー・・・
    もう少し増えてくれると候補車両として選択し易いんだけど・・・
    頑張って欲しいですよねぇ~各メーカーには・・・日本メーカーだとマツダ一択だしなぁ~~
    寂しすぎる・・・

  2. がー より:

    まこまち様

    1.5LディーゼルHVに一票!
    508SWの2Lですが慣れてくるとやはり少し触るんですよね~、振動や音が。
    それに比べて308SW1.5Dを試乗した時の記憶が忘れられません。停車中も軽い音で、走り出すとディーゼル感皆無!
    いまどきはみんなこうなのかと思っていましたが、PEUGEOT1.5Dが優秀なだけだったんですね(笑)。
    EVでも800㎞くらい走ってくれたら良いなと思いますが、うちの電源確保が(汗)w

  3. hiro3008 より:

    「2030年には・・・」と言う話が聞こえてきて、いよいよ純粋なガソリン車を楽しめる時間も限られてきたなぁ、と寂しく思う反面、これからのカーライフを考えると、ハイブリッドやEVに期待するところもあり、楽しみでもありますね。
    ガソリン車以外は所有したことがないこともあって、先日、e-208に試乗してきました。もちろん良い面はたくさんありますが、改善を期待する面もたくさんありました。気になったのは車重ですね。あのサイズで1.5㌧はやっぱり重い。コンパクトハッチの軽快さ、と言う面ではガソリン車の方が楽しめそうでした。とはいえ、一定の規制があって技術が発展するのは世の常ですから、これからに期待ですね。

  4. まこまち より:

    Aguru 様

    本当にCO2の事を考えるのなら、ディーゼルHVは出てもいい気がするのですけどね。
    日本は軽油が安いから、積極的に海外メーカーがクリーンディーゼルを入れてくれるのは嬉しいですが、結局は本国で売れないから作らない・・・
    ということなのかな、なんて思っていたり。

    ボルボはサイズが大きくて立派になりましたね。
    私もV50があるのなら、積極的に選びたいなあ。横幅 1800 mm を超えるクルマは、途端に大きく感じてしまいますし。
    相変わらずV40の後継が聞こえてこない・・・出し惜しみが激しいです(^^)

    先日 308 に初のアドブルー充填をしてきました。
    ディーラーでやってもらいましたが、新車購入時に 20L のアドブルー追加権みたいなものがついていて、今回の10Lは無料でした。
    次の 10L も無料だとして、その先はとうとう有料。おいくらになるのか、まだまだ調べていませんが。
    そんな煩わしさも飛んでいくくらい、ディーゼルは愉しいし燃費もいい。もっと普及するモデルを作って欲しいですね。

  5. まこまち より:

    がー様

    おぉぉ、一票ありがとうございます(o^^o)
    2L ディーゼルにも良いところはあります!400Nmの大トルクは、ディーゼル初乗りの方には是非選んで欲しいですよ。
    そして音や振動、鼻の重さが辛くなったとき、PSA 1.5D の出番です(笑)
    いいエンジンなのだから、3008や508にも載せて欲しいんですけどねー

    ディーゼルの長距離運転に慣れていると、EVは400kmでも不安です。
    近隣だけを運転する?2台持ちじゃないと難しい。立派な自転車としては割高だし!
    もう少し見守るフェーズですね。楽しそうではあるのですけどね〜

  6. まこまち より:

    hiro3008 様

    お、e-208に乗りましたか!私も早く乗りたいなあ・・・
    1.5トンは重いですね。e-2008のほうが似合っている?それでも、あのコンパクトさで出したという事も評価するべきでしょうね。
    インポート・カー・オブ・ザ・イヤーもとったことだし、プジョーに勢いがいよいよついてきて・・・・
    その先が308と思いきや、先にステランティスがやってきます。EVもエンジンも、激動と淘汰の時代が始まりそうです(^^)

タイトルとURLをコピーしました