【first impression】TOYOTA PRIUS (Z/FF) 感情を揺るがす車になった

私は、雑誌の試乗記事が嫌になることがある。新車で発売されたばかりの時は、お祝いとばかりに様々褒めるが、数年経つと「実は発売されたばかりの頃は・・・」などと、さも私は知っていましたよとばかりに感想を補正する。知っていたのなら早く言えよと。間違って買う人もいるじゃないかと。だから、あまり試乗記事は信じない、天邪鬼を貫いている。

 

その「てのひら返し」を強く感じていたのは、トヨタプリウス。前より良くなった、燃費も伸びたと褒められては、後からちょこちょこ非難された。ブレーキのタッチ、ボディ剛性、高々と響くエンジン音。最先端であるからこそ、苦労が報われないこともあるーーーそれもプリウスの存在意義だと、遠くから応援もしたものだ。

 

ところが、新型プリウスは自ら先進性を手放した。普通の、格好良い愛車を目指して現れたのだ。それは果たして前進なのか後退なのか。将来のトヨタ選びの候補として、興味津々にディーラーで試乗に挑んだのだが。

 

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評価のお断り

TOYOTA PRIUS アタログ表紙(カラー)
今回はディーラー様からの要望により、店舗がわからないように配慮しております。コンテンツは主にカタログを主体に写真を掲載しています。

 

まず最初に断りを入れておきます。

 

今回は完全に街中試乗で、正直全てを理解したとは言い難いです。できれば、ワインディングや高速道路も走りたいところで、プリウスの実力の数%しか覗けていないと感じています。街中走行の印象としては辛口すぎるきらいも感じられるかもしれませんが、一個人の感想とお受け止めください。

 

また、ブログ仲間でもプリウスを購入された方がいらっしゃいます。知り合いの車だから、できるだけ褒めてあげたいのは山々ですが、正直な感想を述べることといたします。それが私の正義ですし、何かに媚びてしまっては、正しい感想を言えませんから。

 

一言でいえば、甘口と辛口が混ざり合ったヤンニョムチキンのようなクルマとでも言っておきましょう。全体評価は辛口ですが、最後まで読んでいただければ幸いです。

 

これは「プリウス・リボーン」である

傷だらけの英雄を再生しよう

ハイブリッド・リボーン。トヨタの出した、新型PRIUS のキャッチコピー。「リボーン」とは「再生」の意である。いきなりだが、私はこのキーワードには違和感しかない。ハイブリッドの再生なんて、トヨタ自身が既に実行している。小型車用から大型SUVまで、ハイブリッドカーのデパートこそがトヨタなのだ。

 

今回のフルモデルチェンジのキャッチコピーは、きっと「プリウス・リボーン」。先進技術のテストカーだったプリウスが、別のベクトルを目指したことを顧客に許しを請うため、そしてハイブリッドの源流を意識させる為に、挑戦的にハイブリッド・リボーンとしたと感じる。

 

ハイブリッド・システムがTHSⅡより大きく進化せず、最高低燃費自動車の称号もすでに持たない TOYOTA PRIUS。先代は酷い事故のおかげで、「またプリウスかよ」と汚名を着せられてしまったわけだが、傷だらけの英雄の再生は、さすがトヨタの底力を感じさせた。

 

買おうと即決したくなる PRIUS の造形美

TOYOTA PRIUS ボディライン
この膨らみが堪りませんね・・・TOYOTA PRIUS ホイールアーチ上の膨らみとドアパネルにかけての絞り込みの結果完成したカーブ

 

プリウス・リボーン=プリウスというブランドの復活だ。妥協なく仕上がったエクステリア・デザインは、一瞬で心に刻むエッセンスを持っている。かつて失敗した「セダン・イノベーション」を超える、保守的変化から脱却した新しいセダン像の提案だ。

 

目の前に現れたブラックのプリウス。ハンマーヘッド・デザインを伴うフロントマスクこそ見慣れた感があるものの、サイドからリアに回るほど情熱的な造形だ。なるほど、コイツは素直に格好良い。私の HONDA CIVIC もコンサバな中にフレッシュな格好良さを上手く入れたと思っていたが、TOYOTA PRIUS は異次元。桁違いのデザイン力は、顔をボディに近づけたくなるほど。流石である。

 

特に、フロント側のホイールアーチのあるあたり、膨らみをボンネットから見た時の、Aピラーにかけて作り出すセクシーなカーブがたまらない。パッと見ただけで「買おう」と即決したくなる造形美だ。

 

天才タマゴのパッケージングを垣間見る PRIUS

フロント・ドアを開ける。変わった形の開口部。しかし、窮屈な印象は無い。試乗する TOYOTA PRIUS のグレードは「Z」。ドアを開けた時は、ドライバーズシートは最後端まで自動で移動がされていた。閉めれば、やはり自動で元の位置に戻る。珍しい機能ではないのだが、あるとないとでは雲泥。小さな「オ・モ・テ・ナ・シ」の積み重ね、満足度を練り上げていく日本の美学に抜かり無い。プリウスは新時代のセダン像として、着々とワクワクを積み上げていく。

 

ナナメさを際立たせたフロントウィンドウに私は少し戸惑ってしまう。視界は悪いということは無いのだが、Aピラーは思ったよりも太く、邪魔の一歩手前である。左を向けばいつも見えないところが見えるし、斬新なことには間違いないが、なんだか無理を感じるというか、テレビ画面を見ているかのような不思議な切り取り感があって、外の世界がリアルではないような気分になる。

 

TOYOTA PRIUS ステアリング

 

チャレンジしすぎなコックピット・ディスプレイも、どうだろうか。文字が小さい、ステアリングに被ってしまうはプジョー乗りなら回避する術を知っているし(ステアリングをお腹のあたりまで下ろす)、見えづらいという事も無いのだが、合理性が全く無い。TOYOTA PRIUS のエクステリアは、ドライバーズカーを意識させる。であるなら、やはり目の前には無駄でも良いから沢山の情報が欲しいのだ。

 

とはいえ、ドライバーへの変化の要求は多いけれど、非礼というよりは親身と言えなくもない。考えてみよう、振り向きたくなる素晴らしいエクステリアだ。ペラペラなシルエットならば、普通なら寝そべる姿勢だとか脚を前に投げ出すとか、もっと要求をしそうなものだが、PRIUSはそこまで要求しない。TOYOTA PRIUS には久しぶりに「天才たまご」の片鱗が見えた・・・少なくとも、パッケージングは、そうだった。

 

TOYOTA PRIUS 合理性は何処へ言った?

走りは、期待外れ。エクステリアから連想するようなエモーショナルな走りは、何も無い。少なくとも街中での試乗では感じることができなかった。良いところは当然あるが、少し煮詰め不足だろう。少なくとも、有名ジャーナリストが絶賛するものを私は見ることが出来なかった。

 

一言で表すと、キャラクターが薄い、である。

 

PRIUS の足回り 慣らし運転が終わっていなく判断つかず

TOYOTA PRIUS タイヤ

 

ロードノイズは多少あれど、路面のザラザラはあまり気にならない。195幅の19インチタイヤであり、転がり抵抗を減らした低燃費タイヤを予想したから、期待以上のデキ。こいつにはニンマリだ。

 

乗り心地はちょっと不思議。上体のユサユサは上手く抑え込まれていて、頭が揺すられない快適さはスポーティな外観からは良い意味で裏切られる、セダンライク。でも、路面のちょっとした凹凸は硬めに身体に伝わってきて、ここはなんだかスポーティ?。慣らしが終わっても、ある程度は凹凸を感じるだろう。好みの分かれる味かもしれない。

 

気になるのは、マンホールなどの段差のショックが入力されたときの小さな震え。ショックの後0.3秒くらい、ブルっと震える。個体差なのかタイヤ圧なのか、フロント・サスペンションあたりが怪しいのだけど、私には原因はつかめず、なんだか少し気持ちが悪い。

 

ふとオドメーターを見る。500 km。なるほど、この試乗車は慣らし運転が終わっていない。タイヤもサスペンションも角が取れていないようだ。もう少しマイルドになることを期待しよう。

 

PRIUS 2Lハイブリッド 狙い所がわからない

TOYOTA PRIUS ヘッドライト

 

期待を込めて、アクセルを踏み込んだ。トヨタ車らしい、感動を呼ばないエンジンビート。むぅ、エクステリアに負けている。走るクルマと思って乗ると、拍子抜けに普通のエンジン音なのが残念・・・しかし燃費という正義がある。ここはマイナスポイントとしないでおこう。

 

速度を敢えて乗せないようにしているのか、試乗車だから私が踏み込みを躊躇うのか判らないが、アクセルワークにもったりと反応するのは、プリウス独特の美学だろうか。「飛ばしてくれるなよ」とクルマが言っているように感じる。確か、0 – 100 km/h をかなりの速さで駆け抜けると聞いたのだが・・・

 

安全性を考えればそれでいいと思う反面、アクセルを雑に踏み込む人も出てきそう。パワーの出るモードがあるなら、次回はぜひ試してみたい。いつも過敏な HONDA CIVIC e:HEV に乗り慣れてしまったからかもしれないが、スポーティなのか低燃費車なのか、狙い所がイマイチ私に伝わってこないのが残念だった。

 

溝を掘れば良いというわけではない

TOYOTA PRIUS カタログ インテリア

 

足回りやパワーソースが気になりだすと、別のところにも不満がでてくる。ダッシュボードは素材感もデザインも期待はずれ。液晶パネルは大型で頼もしいが、それ以外がアウト。浮いて見える視覚効果を狙ったであろう、ウインドウ手前の溝はあまりにも目立ちすぎ。

 

本来ならばもっと緻密にデザインされた、線は細くとも大胆なダッシュボードであるべきだろう。厳しすぎる?いやいや、この車は400万円するのである。セグメントを越えようとしたエクステリアに比べれば、このインテリアは・・・・初代プリウスの、独特のシンプルと緻密感の表す高級を、トヨタは忘れてしまったのか。

 

奥行きがあるから、この形状にせざるを得ないのは仕方がない。視覚的に広すぎ感は解消されるが、喜びを感じるエクステリア、フロントシートも気持ち良く触れるだけに、なんだか悔しくてしかたがない。

 

PDAの介入にうんざり

最後に、極めつけ。「プロアクティブドライビングアシスト」だ。信号までをもカメラで読み取り、信号の色の判断や、カーブでの操作性を上げてくれるジャーナリスト絶賛の装備。しかしこれ、街中での判断に間違いがあるのではないだろうか。

 

私が右折レーンに入り、その際ちょうど目の前の信号が赤になった。その後右折信号が青くなるのだが、ここで勝手にエンジンブレーキ(のような回生ブレーキ)がかかったのだ。

 

私はこのような信号パターンでは、惰性で交差点に侵入し、フットブレーキで車速をコントロールして曲がり切る。ところが、エンジンブレーキがかけられてしまったらアクセルワークに移行しなくてはならなくなる。

 

TOYOTA PRIUS カタログ セーフティ
業界標準以上のセーフティ機能を備える、TOYOTA PRIUS。だが、プロアクティブドライビングアシストは、まだまだ熟成が必要だ。

 

何を言いたいのか。車側がドライバーへ、アクセルとブレーキを替えるように突然運転中に要求したのだ。あれほど踏み間違いで叩かれた車であるのにも関わらず、無神経としか言いようがない。

 

様々なドライバーサポート機能を、私は否定しない。むしろ普及して欲しいのだが、そこには必ず単一デバイスのオーバーライドで人がサポートするように作るべき。ブレーキ操作からアクセル操作へのオーバーライドなんて、信じられない機能である。

 

TOYOTA PRIUS 新たなセダン像を見せてくれ

よくデキた車だからこそ もっと先を進むべき

しかし、不思議である。ジャーナリストの皆様は、プリウス大絶賛ではなかろうか? 私は太鼓判までは押せない・・・市街地でしか体験していないというのも理由であるが、それともやはり祝電みたいなものなのか。

 

辛口にここまで走ってきたが、良い点もしっかりある。街中での評価なので限界こそ見えないが、走る、曲がる、止まるのリズムは上手い。目を見張るというところまではいかないものの、大形タイヤと低車高という新しいパッケージのなか、普通の運転ができるのだから一定の評価はされても良いだろう。

 

ステアリングフィールは、街中では不満なし。雑味のない曲がり心地で、交差点でも違和感を感じない。扁平タイヤのおかげか、ねじれ感も特になし。スポーティと言えるような俊敏さはないし、Peugeot i-Cockpit ほどの一体感も無いのだが、充分満足な仕上がりだろう。

 

TOYOTA PRIUS フロントシートの座面
身長 170 cm ほどの筆者としては、座面は適度なサイズ感で◯。海外を意識しすぎて大柄になりがちな国産車の中で、日本人にしっかり向き合っていると言っても良いだろう。

 

また、ブレーキフィールは特筆もので綺麗。ハイブリッドカーは回生ブレーキと摩擦ブレーキの切り替えポイントがあるせいで、どうしても制動力が変わるところが出てきてしまう。ところがプリウスには、それが無い。大変艶やかなブレーキで、止まる事にストレスを感じないのは◎(ニジュウマル)。

 

エクステリアのエモーショナルには追いつかないし、走りの質感にもう少しこだわって欲しいと思うけれど、めちゃ格好いい普通のセダンだと割り切るならば、これで良いのかもしれない・・・いや、それってハイブリッドリボーンなの?と疑問に思うほうが正解か。もっと、もっと突き詰めてリボーンして欲しい。

 

PRIUS の名で最高の愛車を目指すのなら

そう、この PRIUS が生まれたばかりの新しいセダン像なら、応援する意味はある。私の勝手な解釈ではあるが、新型プリウスは確かにそれを目指し、愛車になろうと尽くした形跡を感じる。PDAには超辛口を突きつけたが、この車はエクステリアが最重要。他は全て後付けだろうし、普通以上ならそれで良い車である。

 

このデザインの車に乗れるだけでも、充分ハッピー。

 

惚れ込みがいのあるエクステリアは、トヨタの底力と言って良い。ボリューミーとスッキリの融合。ハンマーヘッドデザインよりも、タイヤ周りの造形に見応えがある。

 

いや、惚れ込まなくても良いのかもしれない。今までプリウスに乗っていたユーザーが、新型に入れ替える事で「格好良い車にのっているね」と言われるだろう。思い切った車にのっているスペシャル感が、たくさんのプリウスユーザーについてくる。もしかしたら、オーナーは皆元気になるかもしれない。挑戦的なエクステリアが、沢山の人を幸せにする。素晴らしいじゃないか。

 

燃費を正義とした合理的辻褄合わせよりも、デザインを正義とした不合理へ。そこには、タイヤサイズの大胆な変更や、小さなメーター、PDAなどの先進性も加えている。プリウスのとった行動は、パワーソース競争とは別次元の新しい挑戦を目指しているのかもしれない。

 

TOYOTA PRIUS カタログ エクステリア

 

ハイブリッド・リボーン

車は服であり、シューズである。オシャレの道具とも言える。自分が乗っているところを想像する事は、愛車選びには極めて重要な要素である。

 

ハイブリッドが走りを我慢する車ではなくなった今、戦略の変更は悩ましい。人気車であったRAV4やステップワゴンのように、「昔の名前ででています」を続けることもひとつの手法だっただろう。コンセプトを変えなければ、一定のファンはついてきてくれるはずだ。だが、トヨタはそれをしなかった。いや、廃止まで考えたのだ。許さなかったと言うべきか。

 

思えば、最高燃費をPHEVに譲り、ハイブリッド庶民カーをカローラに任せ、事故を起こす車のレッテルを貼られてしまい、車として正しい評価を受けられなかった事はメーカーとしても悔しかった事だろう。その感情は、イライラは開発陣の糧となった。社長を動かすほどのパワーは、間違いなくプリウスから溢れ出している。

 

プリウスが、良くも悪くも感情を揺るがす車になったのだ。燃費から、趣味へ。私が辛口に乗り味を責めようが、エクステリアに舌を巻こうが、それは全てプリウスの思惑のとおり。

 

ハイブリッド・リボーン。プリウスは一つの正解に辿り着いた。愛車になる使命感は受け取った。いつか、ワインディングで正しい評価をしようじゃないか。

 

結びの瞬景色

TOYOTA PRIUSのカタログ表紙

 

という事で、お楽しみいただけたでしょうか。私の気持ちをありのままに伝えさせていただきました。気を悪くされるオーナー様にはゴメンナサイと伝えつつ、マイナーチェンジで改善されればきっと良い車になる事でしょう。

 

さて、ブログ仲間のおふたり、UUさんとオーバークレストさんが、プリウス乗りになりました。お二人には良き友として辛口メッセージを伝える事になりましたが、熟成されたプリウスに(勝手に)オフ会で乗せてもらうつもりです(笑)。

 

その時には改めて、monogressご自慢の車褒めまくりコーナー、偽りなしの自動車選びや、MOTOARTSで気分よくなって頂こうと思います。

 

■ UU さん 実車を見ずに PRIUS を注文した猛者ブロガー。

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