王者というものは、そのポジションを維持するために様々な努力をする。世間から褒め称えられ、陰口を言われ、負けることへのプレッシャーを感じ続ける。
少しでも手を抜けば、果てなく転落し続ける。トップはトップのまま、同じ実力のまま負けない限り、運命は一瞬で終わることを肝に銘じなくてはなりません。
例えば、それは王者とは真っ向勝負に挑まないという戦略で崩されることもある。多様化の時代の自動車開発は、なかなかに大変なようです。
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今回は、2回にわたってお話しするシリーズ記事。Cセグメントの王者へ挑む、ボルボとプジョーの戦略を予想します。
自動車界の王者は、ジャンルや見方によって様々です。ハイブリッド車の王者といえばトヨタだし、Cセグメントの王者はフォルクスワーゲンゴルフと言っていいでしょう。
数多の性格の人間がいるのであれば、売れることは王者の証。沢山の人が認めることは、素晴らしい性能とコストとのバランスが求められたものに近いと言えます。
その王者の座は、沢山のライバルが狙います。王者の冠があることで、得られるモノは多いから。車の実力が2倍違うわけではなくとも、販売台数は2倍を超える、そんな事は日常茶飯事だからです。
ボルボのCセグメント戦略を占う
VOLVO C40 は本当のCセグメント対策モデルではない
ボルボというメーカーは、色々な方面から世界一を伺ってきたメーカーです。自動車の衝突安全性、環境対応、デザインセンス。小さなメーカーが生き残るためとはいうものの、その存在感は世間の認めるところでしょう。
そんなボルボが、唯一のCセグメントカーであったV40を葬ったのは、2019年の暮れでした。
当時から、SUVクーペの話は上がっていました。ボルボはV40の後継車を開発していたものの、それでは将来売れなくなると考えて、大切なCセグメントを白紙に戻すことにしたのです。
XC40の大量のバックオーダーがあったからこそできた話で、本来ならば数の見込めるCセグカーをラインナップから外すなどとは考えられないことでした。でも、ボルボはそれを行った。
だから、SUVクーペだとしても相当力のこもったモデルが発表される、だろうと期待をしていた人は多かったことでしょう。
ところがどうでしょう、月販目標は8000台、そして「C」のモデル名。これは明らかにニッチ狙い。若者に受けるような、クリーンなボディを纏ったって、今やボルボ=若者の買う車ではないのだから、やはりそれはニッチなのです。
そして、これは明らかにCセグメントの王者に対して挑む勝負の構図ではない。ボルボは自ら、ゴルフの土俵で勝負するのを避けたように思えました。
C40発表資料に見えるリトル・ボルボの影
でも、どうやらボルボはこれで諦めたわけではないようです。
C40の発表資料。ここには、将来現れるボルボの新型車の情報が、僅かに見てとれるのです。
注目したいのは、あきらかにC40よりも小さなシルエット。
ボルボは今のところ、XC40と同じEVプラットフォームしか持っていない。航続距離や出力は、C40もXC40も、ポールスター2のそれと同じです。これを、ボルボ以外の力で跳ね返す。キーパーソンは、やはり吉利汽車。ボルボをここまで立て直した実力を、世界に示す時が来る。
使うのは、吉利汽車が開発したとされる、新EVアーキテクチャ「SEA」。吉利汽車は「SEA」をオープンソースなEVプラットフォームとし、世界の自動車会社(老舗も振興も含む)に展開しようとしています。
当然、子会社であるボルボにも使わせます。ボルボが頑なにXC40以下のEVシステムを語らなかったのは、同じグループ内に使えるモノがあったからです。
ボルボはV40後継車を作らない
ゴルフはゴルフであるから売れている
ボルボはなぜ、V40の後継車を白紙にもどしたのか・・・理由は2つで、ひとつはピュアEV用プラットフォームの採用が難しかったから。内燃機関を辞めるという方針は、新型車をEVやPHEVに対応したものにしたいというのが理由と思われます。
もうひとつは、ハッチバックの衰退。ボルボ自信のマーケティングは、ハッチバックの終焉を予測します。フォルクスワーゲン・ゴルフ がそこに居るからと言って、一番売れる畑ではないという判断を下しました。実際、XC40はCセグメントよりも少し上の車格をもったSUVで、とても良く売れています。
ゴルフは、ゴルフであるから売れている。他社が真似をしたところで、市場が振り向いてくれるとは思えない・・・そう考えるのは妥当でしょう。
では、どこで商売するのが美味しいのか。
Cセグメントの少し下を狙う
ボルボはプレミアム・メーカーを目指しています。XC40はゴルフよりも少し高いところで販売していて、直接のライバルには成り得ない・・・わけではなく、ゴルフユーザーからティグアンなどのSUV(これもゴルフより少し高価)に行きたいユーザーを狙います。
上はこれでオーケー。なら、下はどうだろう? ゴルフと同じか、少し安いくらいの価格帯。いま、ダウンサイジングはとってもインテリジェントなことです。燃費が良く(とうぜん、EVも視野に入って)多少コンパクトになったとしても、ユーティリティでは負けない、SUV。
これが、ボルボの新車の噂のなかで囁かれている、C40とは別のもう一台。VOLVO XC20だと思うのです。
ボルボにはXC20が必要だ
EV化宣言は会社の存続に関わる大問題
実は、ボルボの悩みのタネは「車両重量」。他のメーカーのクルマと比較をしてみても、50kg以上は重い場合が多いのです。ということは、内燃機関を積んでいては、いつ排ガス規制の罰金を食らうかわからない。
そこで、小型車を中心にEV化に積極的に走っています。EVは今の所どのクルマも車重が重く、けれども走行時のCO2排出はゼロ。ボルボに有利に働きます。
2030年には、すべてのモデルをEVに。これは夢を語っているのではなく、そうしないと企業として存続できない、だから仕方がなくやるのです。
EV化の王者になる、テスラを超えるEVメーカーになる、電気自動車へ大きくシフトをするのは、メーカーとしての燃費の底上げが大きく関わっていることでしょう。
エンジンを手放しても大丈夫
Drive-E の追加開発は凍結したって、問題ない。基本はEVで行けば良い。もしも何かの理由でEVでなく内燃機関に主流が戻ろうとするときは、吉利汽車とメルセデスとでつくるエンジンを供給してもらえばよし。
それよりも、プレミアム・スモール・EVを大量に販売して、Cセグメントを違う方向から挑戦する。その重責を担うのが、VOLVO X20。Cセグメントの王者ではなくとも、Cセグメントの王者を脅かすほどに大量に販売する。
ボルボの親会社は、ボルボを活かすことに全力です。全世界で沢山の内燃機関車を売る必要はなく、どんどんEV化に進ませて、技術開発を後押しして、良い性能のスモールEVを送り出す。Cセグメントの王者を脅かせばそれでいい。
そして、VOLVO XC40 と VOLVO XC20 の2サイズのEVで、ボルボの世界戦略ラインナップは強固なものになる。あえてCセグメント直球の VOLVO V40 後継車を出す必要は無い。これが吉利汽車・ボルボの狙いだと思うのですが、いかがでしょうか。
自動車メディアでも同じことを言及している記事もあり、すでにXC20に期待している人も居ることでしょう。今回は monogress として、その意見を後押しする記事を書いてみました。
VOLVO V40 の後継車が出ないことは寂しいですが、日本国内を見たってCセグメントカー、とくにハッチバックは珍しいものになっています。軽自動車から大きなクルマまで、SUVやワゴン車が多く走っています。
今、ブームではないハッチバックやセダンに力を注ぐよりは、SUVのラインナップを拡充することのほうが意義がある・・・販売規模の小さな自動車メーカーは、最小限の力で最大限の効果を狙うのは、仕方がないことですね。
ただ、あまりに隔たりのあるラインナップでいると、将来ブームが切り替わる時に対応できなくなるのも事実です。そのあたりも、フォルクスワーゲンの強さを感じます。
とりあえず、ボルボの次のリトル・ボルボは、ボルボの舵取りを明確に判断できるクルマになることは間違いないでしょう。どんなクルマが出るのか、楽しみですね(^^)