自動車の電動化に最初に手を出したのは、我らが日本車メーカーだった。
ハイブリッドカーに出遅れた欧州勢は、クリーンディーゼルやダウンサイジングターボを進化させるも、CO2排出の削減にはやはり電動化が必要と舵を切り直したことは記憶に新しい。ハイブリッドで勝てないのなら、半分電気自動車、半分ガソリン車にしてしまおうと生み出されたのが欧州プラグインハイブリッド車である。
その先鞭をつけて日本に輸入されたのが、MINI CROSSOVER プラグイン・ハイブリッドだ。クラシックな装いが魅力的な MINI に加わる新たな付加価値、BMW版プラグイン・ハイブリッドの性能たるや、どのようなものだろうか。
※この記事は、2019年9月に about VOLVO で公開した記事のフル再編集版です。
日本の自動車社会にベストマッチか MINI CROSSOVER PHEV
MINIには、”世界”がある。
一度乗り込めばわかる、MINIならではの世界観。往年のローバー・ミニファンに届くかどうかは置いておくとしても、特別なインテリア、時代に逆らい続けるサイズ感、メーカーが変わった今でも、崩すことのない価値観がある。
その戦略が正しいかは、説明する必要もないだろう。今や MINI は日本でもっとも売れている輸入自動車として君臨し、今日もどこかで新しいファンを創造し、オーナーへ幸せを届けているのだから。
MINI CROSSOVER PHEV ギャラリー
大きいMINIは実力も大きい
愛嬌のあるエクステリアを見て、すぐに思い出す。MINI というのは「小さいから」MINI なのだ。
それは正解であり、間違いでもある。ハッチバックのMINI 3door、5ドアのMINI 5doorまでならまだしも、ホイールベースが長いMINI CLUBMAN、そしてクロスオーバーSUV車であるMINI CROSSOVERと多彩なサイズが用意される。それでも、いちばん大きな MINI CROSSOVER のサイズは全幅は 1,820 mm に留まり、時代の大型化の波に逆らっているようにも見えてくる。
サイズ感では不利にも関わらず、プラグイン・ハイブリッドを搭載してきた実力やいかに、である。軽自動車を欧州版にしたようなパッケージング、そして意匠を凝らしたインテリアは唯一無二の世界観だ。
広さを強調するインテリアは「思わず欲しい」と言いたくなる
ドアを開き気がつくのは独特がすぎるインテリア。世の中のすべてが丸で出来てムンムンする。むかし、某子供番組で「まる・さんかく・しかく」を繰り返す歌があったが、MINIの世界はまさに「まんまる星人」。
ところが、やりすぎなんじゃない?と評価したい「まんまるマテリアル」の数々には、ほのかな高級感が漂っていた。単純に丸に仕上げるのではなく、あきらかにオーナーが不満を持たないように最善を尽くした細工である。気づけば、興味がないはずなのに思わず欲しいと言ってしまいそうになっていた。MINI の魔力、恐るべし。
リアシートの広さには子供から大絶賛
だが、私はホッとした。シートの座り心地は至って標準的なものだった。ボルボとかプジョーとか、シートに定評のあるクルマに乗っていると少しさびしく感じられ、欲しいの気持ちも薄らいでいく・・・ふう。もっとも、セダンタイプにはない広めの空間設計は気持ちよく、それを助けるためにシートサイズは適切に切り詰めた、と考えてもおかしくない。
実際、リアシートの広さには同乗している子供から大絶賛。後日、MINI はいつ買うのかと催促されるほどであり、私の低車高スタイルに傷がつかないかとビクビクした。疲れを知らない子供にとってリアシートの居住性はシートの造りより広さなのだ。適切なチャイルドシートやジュニアシートをつけてしまえば、子供たちにとってシート形状など二の次だ。
もちろんこれは、シートが悪いという話ではなく、乗り心地が標準なのであれば広いほうが気持ちいい、と言いたいだけ。私なりの褒め言葉なのである。
付け加えると、シートの高さが丁度よいのか、乗り降りが大変楽ちん。街なかを俊敏に買い物して回るようなら、プラグイン・ハイブリッドの特性も相まって、MINI CROSSOBER PHEV は世界一のシティカーに成り得るかも。
MINI CROSSOVER PHEV ドライビングインプレッション
高速走行で気になるピッチング
それでは、走行インプレッションに移ろう。今回の試乗は32時間。高速道路の充電設備やエンジンに負荷のかかる山道が体験できる、箱根ドライブと洒落込んだ。観光地には充電設備のひとつくらいはあるだろう、なんていう甘い考えを携えて、満充電からのスタートだ。
高速道路を西へと進み、小田原厚木道路に入る。流石に欧州車、どっしり感や安定感はなかなかだ。MINIといえばキビキビ動く小型車、という印象が強いが、「MINI CROSSOVER PHEV」はスポーティというよりは高級乗用車と言っていい。
加速・減速はうまく調整されていて、アクセルを離したからといって急な回生ブレーキがかかることも特に無い。プラグインハイブリッドだからといって、運転する上では普通のガソリン車と大差がなく、特別感があまりないのは良い意味で拍子抜け。
高速道路も順風満帆。すこし高いアイポイントのおかげで、先が見えて疲れにくい・・・と思いきや、ピッチング(頭が前後に揺れる挙動)は多少は感じるのは残念だった。車高の低いMINIオーナーが入れ替えるにあたって快適性がスポイルされるのはどうかと感じる。
ちなみにこのピッチングは、一般道では感じない。私が敏感すぎるのかもしれないが、MINI CROSSOVER PHEV にMINI最上級を期待すると辛いかもしれないね。
ハイブリッドカーとしての詳細動作は改善の余地あり
プラグインハイブリッド車がバッテリー0%の時、どのような動きになるのだろう?多くの自動車会社は、ハイブリッドカーとして運用できますよ、と答えるだろう。その言葉には偽りはない。
下り坂では充電され、次の加速や上り坂ではアシストとして使われる。最初はそう思っていた。なぜかといえば、和製ハイブリッドカーがそうだったから。
MINIはというと・・・
下り坂は確かに充電さる。しかし上り坂は1.5リッター3気筒エンジンでのみ走行だった。起伏の激しい小田原厚木道路は、急な上り坂や下り坂が相次ぐが、下り坂で充電した電気はエアコンに優先的に使われているようで、ナビ画面を切り替えて表示できる「eDriveチャレンジ」表示でも、リアモーターからのアシストが少ないことが確認できる。
トヨタやホンダのハイブリッドカーは、エンジンを効率の良い回転数まで上げて充電をする。実はそれが煩わしいと感じていたが、省エネ走行には必要な事だったようである。最低限の加速用電力をエンジンから供給する日本のハイブリッドカーは、たいへんよく出来ているのだ。
欧州プラグインハイブリッドは、車によっては「チャージモード」が存在する。和製ハイブリッドカーのように、エンジンを使って電気エネルギーを蓄えるモードだが、これはあくまで排ガス規制の街を走行する為に充電しておくモードである。が、残念ながら MINI PHEV にはこのモードさえ搭載していなかった。アイドリングを5分、10分と続けても、バッテリー残量が増えていかない。結局、外部電源での充電ありきのハイブリッドカーというわけだ。
「ハイブリッドカーとして使えます」自体は正解。だが、日本のハイブリッドカーほどの効率は出ない。プラグイン・ハイブリッドという名前だけで買ってしまうと、後悔するかもしれないから気をつけたい。
箱根ターンパイクでテスト走行 1.5Lエンジンとは感じない力強さ
さて、箱根ターンパイクである。神奈川県の小田原市から箱根の湯河原峠までの標高差1,000mを、15kmの道のりで登りきる。
MINI CROSSOVER PHEV のガソリンエンジンの実力は、おおよそ2.5リッターNAエンジンほどのもの。136ps/220Nmという控えめにも見える性能でも、箱根ターンパイクをグイグイ登る。登坂車線での追い越しも、大人4人(子供もすでに大人サイズ)が乗っていてもスイスイだ。バッテリーが無くてもイケるじゃないか!
なら、バッテリーは何のために付いているのだか(笑)と、笑みを浮かべながらツッコミを入れてしまいそうな実力だ。
トランスミッションの制御も素晴らしい。シフトショックは無く、エンジンのトルクバンドとの相性は抜群で6ATでも問題ナシ。窓を開けてエンジン音を聴いてみれば、滑っている印象がまったくない。走りの実力に妥協しないのがよく分かる。
プラグインハイブリッド車?重いから動きわるいでしょ、という噂話は跳ね除けてしまう。さすがのBMWである。
ドイツ車らしくも 山道は苦手感が否めない
カーブでの身のこなしは、基本的にフラット志向。Gをかけても足回りはあまりストロークしていない印象だ。
大型タイヤを履くMINIは、路面のデコボコを比較的大きな音を立てて越えて行くが、車内は大きく揺れない。細かいデコボコを車両に伝えない、ドイツ車的な乗り心地。だが、サスペンションが大きくストロークする前の細かい揺れを、収束させることに気を使いすぎている印象で余裕を感じない。キビキビ感があると言えばあるのだが。これがMINIの足回り?登りだけの評価なので、参考程度にしておいていただきたい。
山道に来て残念さが目立ったのはシート形状。デザイン優先の丸型ヘッドレストは頭のサポートが一切ない。腰回りの形状がイマイチで、身体で踏ん張ってカーブを乗り切らなくてはならないのは「×」。やはりシティカーなのかもしれないが、500万円前後の車ならもう少し気合を入れてほしくなる。
せっかく楽しい登り坂走行ができたのだ。もうちょいと詰めて欲しいぞ、MINIさんよ。
ところで、元気に走れた代償として、湯河原峠に到着した時には燃費は15km/Lまで落ち込んでいた・・・それでも15km/Lというべきか、たった15km/Lと捉えるべきか。実は、ここから「MINI CROSSOVER PHEV」の巻き返しが始まるのだ。
無計画な充電計画に「ギャフン」と言う
芦ノ湖の湖畔へ向かう。道路はすべて下り坂。ブレーキをかけて道の先を注意しながらゆっくり、ゆっくり下っていくと、芦ノ湖畔に到着したときにはバッテリーは11%にまで回復した。
家族に配慮してお茶屋さんでお団子をいただくが、私の気分は「充電したい」だ。プラグインハイブリッド車は、当然ながら充電しなくともガソリンエンジンで走ることができる車。どこまでも余裕で走れる・・・と思いたいのに、充電したい欲求が現れて煩わしい(笑)。エコロジーな走行に意識が行くのは環境には良いのだが、燃費が落ちると、なんだかストレス。意外に心に響くクルマなのが面白い。
だから、MINIに装備されているナビに表示された「電源コンセントマーク」を頼りに箱根プリンスホテルを目指したのだが、途中は観光客も多く大渋滞。残りのバッテリーを大事に使い・・・窓を開けて・・・エアコンを切って・・・(笑)。ところが、プリンスホテルに到着するも、充電スポットらしきものは見つからない。
このとき、わたしは確かに、「ギャフン!」と言った記憶がある。
先に調べればよかったのだが、箱根プリンスホテルのホームページを見てみれば、「充電スポットは宿泊客でなくても使用はできますが、フロントに声をかけてください。」との記載。時は15時過ぎ。チェックインのお客様でごった返しているところに、宿泊もしない人間が「充電させて」とはとても言いづらいじゃないか・・・
結局箱根での充電は諦めて、バッテリー残量0状態で帰路にたつことに。この後、自分の無計画さへの苛立ちを掻き消すために、ついつい箱根路を全開走行してしまったのは、秘密である。
下り坂で余すことなく充電できる PHEVの実力を見出した
ところが、事は好転する。東名高速道路は東京方面へ下り坂。バッテリーは少しづつ充電され、復路の下りはほとんどがEV走行。充電容量が大きいプラグインハイブリッドの実力を、とうとう感じることが出来たのだ。
下り坂でアクセルを踏んでも、エンジンがかかる様子は無い。ロードノイズとオーディオだけの走行は、エコ運転の達成感を満たしてくれる。
地元へ到着し、ショッピングセンターで充電スポットを発見。バッテリー残量が4%のところから充電をはじめて、1時間後には44%に。そのバッテリーを使って、7.5km離れた我が家まで帰る。
ガソリンは一切使わず電動モーターのみで走る「MAX eDrive」モードは、どこまでもスムーズ。シフトショックやアイドリングストップ、燃費が下がる精神的ダメージという、ショックというショック全てが無くなった世界だった。EV走行は素晴らしい!
総評:エコ意識の向上が見込める MINI PHEV を称賛したい
次の車はプラグインハイブリッド車がいいか?ピュアEVがいいか?色々考えているうちにバッテリー残量を14%残して、家に到着。7.5kmを30%の電気で走って帰ってきた。
計算すると、100%充電状態で 25kmのEV走行・・・どうやら、ショッピングセンターの往復ならば電気のみで行き来できそう。公称値の42km(2019年当時。2022年7月時点は48km走行可能。)走れば実用だが、都心エリアでももう少しは走ってほしい。
とは言っても、山岳地帯箱根往復 210 km の実用燃費は、18.8 km/L 。ディーゼル・エンジンには及ばないが、プラグイン・ハイブリッドに将来はあるのだなと感じられるドライブだったし、MINI が積極的に取り組んでいることを評価したい。
MINI CROSSOVER PHEV は、居住地近隣の買い物需要には高い実力を発揮する、シティコミューターであることが良く分かる。高速道路のピッチングは改善を求めたいが、モデルチェンジで解消されるに違いない。一方、EV走行用バッテリー容量はボディの小ささが災いするが、他社に先駆けてトライした分、次期モデルでは大幅な性能アップをしてくることと想像される。
兎にも角にも、エコロジーを意識させるクルマというところに意義がある。この車は特殊であるし進化の途中だ。新たな価値観を投げかけることの意味は、時に性能を超えることを私は強く言いたいのである。
将来性を感じるプラグイン・ハイブリッド
MINIディーラーのセールスさんも言っていたが、まだまだ燃費はディーゼルには及ばなく、売れているのもディーゼル車との事。新しいテクノロジーに挑戦する姿勢は応援したいが、私としてもランニング費は気にかかる。
燃費という一点で言えば、プラグイン・ハイブリッドはまだまだ高価なテクノロジー。希少金属も使うだろうし、電気がなくなったときの荷重走行は不効率だ。だが、ハイパフォーマンスをエンジンでなく電気に頼るというのは、アリだと思う。エンジンのハイパワー化はつまり、燃料をどれだけ短時間に燃焼できるかだ。ここを電気で賄うことは、とても意義のあることだ。
スポーツ走行で楽しんだ分は、今の所もっとも効率の良いとされる電気エネルギーでエコ走行、これを新しい文化だと言い切るのも、良いじゃないか。
大気汚染、地球温暖化、未来のためにできる事には、消費者の選択も含まれことも忘れてはいけない。単純にガソリン・ディーゼル・EVだけで選ばず、自分にあったクリーン走行を考えて、車の選択をしたいですね。