「人は心霊よりも怪奇なり」車怪談(2024年Version)

こんばんわ、まこまちです。

 

2024年もお盆休暇になりました。そろそろ、実家で暇をし始める頃ではありませんか?そんな貴方に、今年の夏も読者無視で創作怪談を書きました。ヒヤッとするかゾクッとするか、はたまたワハハと笑うのかは貴方次第。ちょっと笑えるショート1本と、適度に怖い短編怪談小説1本をお楽しみください。

 

なお、創作でありますので内容はフィクションです。あしからず。

 

過去の車怪談も紹介しておきますね。

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会談用 山道

 

 

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肝試し

 

心霊スポットに行くとき、逃げ出しやすいように車のエンジンはつけたままにすることがセオリーであると、私は先輩より聞いていた。だから今回の廃病院の散策は、自分たち以外に誰もいないことを確認してから、車の鍵を抜かずにその場を離れた。

 

デジタル全盛の今の時代、心霊写真なんてアプリで加工すればできてしまう時代である。魂の存在は否定され、実際に霊魂が彷徨っているなんて信じられないのは当然だ。だから、肝試しは怯える友人を見て楽しむのが私の人に言えない趣味だった。

 

廃病院に入ったA吉、B助、C子、それに私。地下にある霊安室の入口に立ち、部屋の表札を背景に写真を1枚撮ってくることがミッションだ。カビ臭い下り階段を見つけ、一歩ずつ慎重に進んでいく。

 

「怖い怖い怖い怖い」

「え、誰かどこかで話してない?変な声、聞こえない?」

「ちょっと待って・・・廊下の向こうに・・・」

 

見ると、光の届かない廊下の先の方で、淡く輝く白い”何か”が目に入った。いや、これって本物?それはあまりにも想定外!

 

「にげろぉぉぉ!」

 

友人の怖い顔を見る余裕もなく、私は入口に向かって全力で走る。A吉もB助もC子も、同じ勢いで駆けていく!そのままエンジンがかかっている車に戻ると、一目散に廃病院を後にした。

 

「いやぁ、本物に出くわすなんてさ、ちょっとビックリだわ!」とA吉は笑った。

「あれは本物だったね、自分は霊の表情も見えた、恐ろしかった」とB助は息を巻く。

「でもさ、逃げてこれて良かったじゃん。これで1名増えていたとかなら、笑えないけれど。」と、C子が面子の数を数えだした。間違いなく4人だといい、なんとなく安堵な空気に包まれる。

 

廃病院の最寄りのコンビニに着く。明かりが恋しくて、人が恋しくて仕方がない。車を降り、振り返ったその瞬間に、恐怖はまってましたとばかりに私に襲いかかってきた!

 

「・・・この車、俺のじゃない・・・」

 

え?混んでた?私達以外には誰も居なかったはず・・・しかし、しっかり走るしナンバー付きの車である。廃病院に戻しに行く?それは嫌だ・・・事情を話して警察に預かってもらう?そもそも、不法侵入しているし・・・湧き出る不安は、心霊のそれとは別の、なんだか嫌な汗をかかせる事実であった。

 

記憶違い

ドライブ好き達の集い

久々に集まった「ドライブ同好会」の我ら4人は、大学生活を懐かしむように昔話に花を咲かせる。

 

「草津のまんじゅうは美味かったね〜」と翔太は言う。

「喜多方ラーメンも外せないよね」と、男顔負けに塩辛いものが好きな萌。

「美味いと言えば房総の魚かな、ね、大輝くん?」と美咲。

私はこの3人の話しのテンポに負けて、聞き手側に回ってしまうが、美咲の一言で言葉を口にすることができた。

「魚といえば、俺はやっぱり伊豆かなあ」

 

ドライブ同好会は、総勢4名の不人気サークル。時代はスマホにバーチャルにと電子デバイスに偏りがちだが、我ら4人はドライブ毎に愛車を持ち変わりで使用して、1台4人全国をドライブを楽しむ”自称”クラシックスタイルだ。

・翔太は中古の シトロエンC3

・萌も中古の インプレッサWRX

・自分は中古の デュアリス

・美咲は新車で ルーテシア(お金持ち!)

自分だけ日本車の引け目を感じつつ、スペース効率は一番だと胸を張ったのを思い出す。大学、サークル活動、その苦みも甘みも、すべてが良い思い出だ。

 

 

”伊豆”のキーワードに続けとばかりに、ドライブ話しは湧くに湧いた。

 

「伊豆スカイラインは、ワインディングが良かったよね。あの道の形で山が目に入らないのも良さげ。」と言いながら、萌は買い込んであったポテトを口に運ぶ。名前は「萌」だが萌要素一切なしの、自称ボーイッシュ系女子である。(そこが萌えとも言えるのだが。)

 

「そうだね、尾根を走る道が多いんじゃなかったっけな。」と続くのは翔太。翔太は、ドライブ同好会の創設者だ。高校時代からの友人で、自分を半ば強制的に同好会に入会させた。

 

しかし、その強引さには感謝している。ドライブなんて言葉は似合わない、容姿端麗、清楚可憐な美咲との出会いを作ってくれたのだから。「南伊豆まで走ったのは、楽しかったよね。」と、クスっと微笑む仕草もまた、愛おしい。

 

不可思議の第一歩

 

南伊豆へのドライブは、その美咲が発案者だ。「旨い魚が食べたい!」という翔太の一言で、魚といえば伊豆だろうと美咲の企画したお刺身ドライブは、茨城にある大学を夜に出発。常磐道から首都高速、東名高速から小田原厚木道路を経由して、箱根経由の南伊豆行き・・・と行きたかったが、なにせ車のガソリン代だけでもヒイヒイの大学生だ。一般道を夜中中走っての9時間半。せめて少しだけでもということで、早朝の伊豆スカイラインだけを駆け抜けた。

 

途中から中伊豆へ進路をとり、河津七滝ループ橋を走る頃には皆眠くて、その時のドライバーの自分としては、このままループ橋のスパイラルに飲み込まれて奈落の底に引き摺り込まれるのではないか、と思いながら、眠気と戦った記憶がある。

 

「そうそう、あの時」と、翔太が始める。

「南伊豆に着いたはいいけど、食べるところを調べ忘れて右往左往したよなあ。」今ではそんな事をしないだろう、という表情で得意げに話をする。「んでさ、結局入ったのはトンカツ屋っていうオチは、まあいい思い出だよなあ。」

 

萌が、えっという顔で話した。「あれ、確か東伊豆まで戻ってお刺身食べた記憶があるよ。私はナメロウ定食を食べたもの。」翔太は「またまたぁ、俺を何かのトラップにひっかけようとしているでしょ」と苦笑いするも、萌は真剣な顔で「私達と行ったのとは別のときの記憶じゃないの?」

 

美咲も「私もお刺身を食べた記憶があるわ・・・」とけげんそうに言う。「大輝くんは?」と自分にふられ、「刺し身定食だったな・・・サザエの壺焼きを追加オーダーしたよなあ。」

 

うん、確かに自分は、刺身定食を食べたはずだ。

 

重なってほしくない非日常の偶然

記憶違いかなと首を傾げる翔太を気遣い、「食事が終わったあとにさ、温泉行ったよね。」と振り出してみる。「中伊豆の大仁まで戻って、熱い温泉に入ったじゃない。」と。確か、大きな日帰り温泉に行ったはずだった。ところが。

 

翔太は「あぁ、民宿のね、熱くて気持ちよくて、ドライブの疲れが吹っ飛んだよな!」

 

あれ?と思うのもつかの間、萌も続いた。「そうね、駅チカの民宿の、せっまーい温泉ね!」

 

翔太は「女子達はなかなか温泉から上がってこなくて、倒れちまったんじゃないかと心臓バクバクだった!」

 

萌もなんとなく空元気で、「風呂上がりのレディを待たせなかったのは評価するわ」と、ケタケタと笑いあう。

 

ところが、美咲は不思議そうな顔をしている。「スーパー銭湯みたいなところ、行ったでしょ?伊豆温泉村だっけ。」と。自分も横でうなづいて見せた。確かに記憶は、スーパー銭湯だったからだ。

 

三度目の正直は裏切り

 

妙な空気が漂い始める。翔太はソロでカツ丼屋?温泉は翔太と萌、美咲と自分とに別れて行ったっけ?萌が「なんなのー、美咲と大輝、できてたわけ?」なんてからかうけれど、そういう問題じゃなさそうな。

 

「あのさ・・・」と、美咲が切り出す。「誰の車で行ったか、覚えてる?」

 

なんとなく答えるのが怖いのは、皆同じなのだろう。誰が口を開くのか、待っているかのようだ。そんな空気を打破したくてか、萌が一言口を開いた。

 

「翔太のシトロエンだったはず・・・一般道ぶっつづけだったから、足回り柔らかいほうが良いよねって・・・」

 

翔太も自分も、ウンウンと頷くが、美咲だけが泣きそうな顔で、「大輝くんのデュアリスだったでしょ?長時間乗車は座席が広いほうが良いって・・・」

 

真相と恐怖

伊豆に行ったのは確かなのだが、皆の記憶が少しづつズレている。こんな話しはあってたまるかと、ドライブを企画するところ、ドライブに出かけるまで話しを戻し、記憶が合っていることを確認する。しかし、誰の車にするのか、ドライブルートは、道の駅の休憩はと話しを進めると、誰かが少しづつ違う事を言うのである。

 

それがあまりにも気持ち悪くて、スマートフォンを取り出し、言った。

 

「なあ、自分のスマホの中にさ、伊豆に行ったときの写真あるでしょ?それを見てみようよ。」

萌はすかさず、「ダメ!なんだか、見ちゃいけない気がする!見るなら、4人別れたあとの方が良いよ!」と言った。

だが、美咲は「違うなら違うで良い。なんで違うのか、知りたい。」と真剣だった。

 

美咲の信念に負け、スマートフォンの写真を開く。そこに写っていたのは、笑顔で並ぶ5人。出発前の写真。そして、写っていた車は4人だれのものでもない、8人乗りのミニバンだった。

 

叫び声もでない、部屋の中。皆、青ざめた表情で、スマホの写真を見つめている。そこに写る、なぜか記憶から抜け落ちていた、5人目のドライブ同好会メンバーの笑顔。

 

「美咲ちゃん、大輝の事気になってる?俺が手伝ってあげるよ!」

「翔ちゃん、揚げ物好きすぎるでしょ・・・ちょっと引くわー」

「萌ちゃんさ・・・翔太は結構ボーイシュ系が好みだよ」

「大ちゃんはね、もうちょっと積極的になったほうが良いと思うよ」

「4人仲良いよなー。俺なんてオマケみたいなもんだよね。」

 

スマホの写真の5人目の表情が、まるで動画を見ているかのように変わっていく。笑顔が消え、少しづつ、怒りの顔に変化する!

 

「親父の会社が倒産してさ・・・どこまで学費払えるかな・・・」

「今月で退学だ。なんで俺だけ、こんな思いしなきゃいけないんだろう・・・」

 

「最後にどこか遠くにドライブに行こうよ。5人での最後のドライブ同好会の活動をさ・・・」

 

「一般道で8時間以上走るなら、車中泊できる俺の車が良いよな・・・・」

 

スマホの中の写真の顔は、怒りと悲しみが混ざり合った怒り泣く鬼のような形相になり、顔中が歪むことで年寄りのようにシワができ、血走った目玉は、写真を覗き込む4人と順々に目を合わせていく。その恐ろしさで、自分は気を失った。

 

 

目が覚める。記憶のない天井だ。部屋を見渡すと、翔太と、萌と、美咲が寝ていた。ここは、さっきまで4人で会話を楽しんでいた部屋。そう、病室だったんだ。

 

ーーー 8月16日早朝、国道414号線を走っていた乗用車が、河津七滝ループ橋を、制限時速30km/hを大きく上回る時速70km/hで走行。カーブを曲がりきれず、走行車線の壁へ接触後に反対車線のフェンスにぶつかり、突き破って10mの高さを落下。乗車していた5名のうち1名は病院で死亡が確認され、同乗者4名は重症だったが一命をとりとめた。

 

そう、ドライブ同好会は、4人でなく5人。退学が決まっていた、竜也がいた。

 

異常者は何を見るか

 

記憶が少しづつよみがえる。人気(ひとけ)のない伊豆の山道を疾走するミニバン。そこに乗る若者達の表情は、悲壮感にあふれていた。

 

「なぜだ!なぜお前らばかりが楽しんで、俺は一人で退学なんだ!」とステアリングを握りしめ、猛スピードで山道を走る竜也。

 

「やめて!スピードを落として!」と萌が叫ぶ。翔太は「お前が悪いわけじゃないんだ、正気に戻れ!」となだめるも、竜也は聞く耳を持たない。美咲は必死に椅子に捕まり、自分はなんとか車を止められないかとシフトレバーに手を伸ばす。とりあえずニュートラルに、次はサイドブレーキに・・・と思ったが、サイドブレーキが見当たらない・・・!

 

「なあ、わかるか。俺は皆にいい人ぶって近づいたんだ。人に好かれたかったんだ。クラスでもサークルでも人気者になりたかった。だが、もうオシマイだ。築いたものもすべて、退学すれば消えちまう。」

 

「退学がなんだって言うんだ!会おうと思えば会えるじゃないか!」

 

「会えれば良いってもんじゃないんだ!その場所で、沢山の人に囲まれて、チヤホヤされて!そうじゃなくちゃ意味がない!」

 

「なら、あんたはバイトとかして学費をなんとかしようとしたの!?」

 

さらに加速するミニバン。竜也はすでにストレスで気がふれていた。

 

「うるさい、うるさい!俺の気持ちなんてわかるはずがないだろう!惨めだと笑うがいいさ!上から目線で見ればいい!そんなお前達は、一緒に地獄に行くことができるんだから俺は十分幸せだ!」

「いやぁぁぁぁあ!!」

 

ループ橋に差し掛かる。竜也は翔太の静止を振り切り、自分のシフト操作を無理やり止めて、アクセルを再度踏み込んだ。

 

「一度やってみたかったんだ!このループ橋を時速100km/hで走ったら、どうなるのかな!ハハハハハ!!」

 

ハハハ!ハハ!ハーッハハハ!・・・・

 

スマホに残る”裏のある”微笑み

ドライブ同好会の4名が退院したのは、事故から2ヶ月あまり経ったあとだった。事情徴収で4名が同じ車内の状況を話したこと、退学が決まっていたことなどにより、無理心中を計ったと断定された。竜也は、帰らぬ人となっていた。

 

「あの日も、揚げ物が食べたかったんだよね。」

翔太は大の揚げ物好きで、伊豆に着いたらアジフライが食べたいと話していた。萌は帰り際の温泉は秘湯が良いと伊豆の温泉を調べ尽くし、自分と美咲は広い温泉浴場をと望んでいたが、萌の秘湯推しに渋々承知。自分は、伊豆のループ橋を運転したいと言ったのだが、ステアリングを握ったのは竜也だった。

 

不思議なことに、病室で見た夢は4人とも同じだった。会話の内容も、見た写真も同じだった。あれは夢ではなく、幽体で願望を語り合ったのかもしれないね、そんな非科学的な話しをしつつ、腑に落ちたので誰もそれ以上語らなかった。

 

竜也の写ったあの写真は、スマートフォンの中から消し去った。彼の表情は元と変わらぬ笑顔だったが、その笑みの裏を知った今、消す以外の選択肢は無かったのだ。

 

 

結びの瞬景

今回は「瞬景」写真はありません・・・ホラー写真を語ってもね(笑)

 

ループ橋にたずさわる皆様、ホラーへの出演申し訳ありませんでした。河津七滝ループ橋は、伊豆の中でも1位2位を争う名ドライブコンテンツだと思っています。伊豆に起こしの際は、河津七滝ループ橋に足を延ばしてはいかがでしょうか。

 

それにしても、最近の車というのは安全装置が充実してきたとはいえ、ドライバーが主役なことには変わりありません。それは例えば、狂気な運転を抑止できないことも表しています。速度超過、乱暴運転を同乗者が止められるようにすることも、今後必要になっていくのではないか・・・ホラーから新たな知見を得るというのも、なかなか”おつ”なものですね(笑)