車にまつわる怪談話(2023年創作version)

時々、怖い話を聞きたくなりませんか?心霊ブームが過ぎ去ってすでに30年、恐怖大百科シリーズさえもリバイバル刊行されない令和時代。ぜひ、monogressで恐怖体験を味わってください。

 

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トンネルに狙われた車

その言葉は信じるべきか

会談用 寺の鐘

 

 

小坪陽子が私と同じ苗字になってから、2年目の夏。私の祖母の法事に、二人揃って行くことになった。私は自分だけで良いと言ったのだが、陽子はどうしてもときかなかった。

 

「川端哲也は、私が居ないと何もできないでしょう?」が陽子の口癖だが、結婚してからは有言実行。何処に行くでもひっきりなしに着いてきた。付き合いだした頃よりも、その度合いは強くなって来るのは私の気のせいだろうか?

 

 

海の見える寺の本堂、立派な本尊を眺めながら、やれやれと座布団にあぐらをかく。信仰心の全くない私にとっては、法事は親戚の集まるだけのイベントだ。世話になったばあちゃんには申し訳ないけれど、寺で拝むも仏壇で拝むも、海水浴場でも花火大会も変わらないのだ。

 

「哲也、いい嫁さんをもらったじゃないか。」

そう言うのは、親戚のミヤニイだ。宮雄兄さんだから、ミヤニイ。五つ上の従兄弟で、小さい頃からよく遊んでくれていた。4年前に結婚して、今は3歳の子供がいる。相変わらず兄風情で上から目線が鼻につくが、それに甘えている自分もいる。だから、ミヤニイのお嫁さんの奈緒子さんの「私はいい嫁じゃなかったと?」というツッコミに、少しばかり仕返しができた気分になった。

 

私は当然、「うん、自分には勿体無いよ。」なんて言ってみる。陽子は少し恥ずかしそうにペコリとお辞儀をして見せた。初々しいと笑うミヤニイの脇腹にパンチを喰らわす奈緒子さん、そして、その膝に乗るヒロ君。幸せそうな家族を見て、改めて自分の目指すところも考えた。

 

 

住職の言霊が本堂にこだまする。私は経典をまだ追いながら、定められた経を読み上げる。いつも通りに行われる読経、いつも通りに進むお焼香。淡々と進む一連は、何気ない安堵感が心地良い。

 

ところが、ミヤニイのほうを向くと、奈緒子さんと小声で何か話している。と、あれ、ヒロ君の姿が見当たらない。ヤンチャの盛りの3歳児の男の子だが、声も上げずに何処かに行ってしまうだろうか?

 

「ミヤニイ」と声をかける。「ああ」と怪訝な顔を見せるミヤニイと話し、お堂とその周りでヒロ君を探すことにした。

 

寺というものは、死角の多い施設である。本堂はもちろん、その横には寺を守る人達の住む住居があって、そして当然、墓石が並ぶ。真夏、海の近く、墓石の迷路。ヤンチャ坊主に触って欲しくない、お供物やお線香。進行中の法事は親にお願いし、私と陽子は寺の周りを探し出した。

 

嫌悪感。しかし、時間にして5分も探さなかっただろう。ヒロ君は寺の入り口に立っていて、私達が駆けつけると同時に、こう言った。

「三又の洞穴のもっと先 光が見えたら目玉を隠せ」

3歳児とは思えない、ハッキリした口調。真剣な眼差し。何が起きたか、私と陽子はしばらく、何もできなかった。

 

 

大雨の誘導

会談用 鉄橋

 

 

そんな奇妙な体験をしてから、私と陽子は家路についた。親戚同士で話し込み過ぎ、実家を出たのは夜の11時を回っていた。二人に戻ると、法事中のヒロ君の事を思い出す。「妙なこともあるもんだな」という私に、陽子はただ「信じられないけれど、気にしないでおこう。」と言った。それは私も同感だった。

 

ヒロ君は確かに、ハッキリと言葉を述べた。あれは大人の喋り方。むしろ、遠い記憶の誰かに似ている気がしなくもない。引っかかるような口調は、しかし目の前の大雨で掻き消された。

 

あまりにも多くの降雨量を観測した為、高速道路は通行止め。仕方なく、一般道を走ってゆく。県境の山道も天気の状況はあまり良くなく、雨はどんどん強くなる。明日、私も陽子も仕事がある。だが、その一般道も通行止めになっていた。

 

どうしようとナビに迂回路を検索させると、少し遠回りではあるものの、トンネルのある旧道のルートが表示された。助かったとばかりに、ナビの言う通りに車を進める。安全性能や足回りに定評のある我が車なら、きっと大丈夫。半分は慢心的に、半分は、不安を打ち消すために強引に。

 

 

道は狭かった。昭和に作られたような、かまぼこ型のアスファルト。対向車が現れない事が幸いだったが、逆に不安にもなって来る。この道は隣町には繋がっているのだろうか。通行止めになっていないだろうか。

 

しかし、ヘッドライトで照らされる大きな雨粒、その先に見える微かなガードレール。バックミラーで覗くと、走ってきた道は既に漆黒。時より、リアランプに照らされる樹木が見えるが、参考どころか引き返す気さえも掻き消してしまう。

 

陽子は黙って、道の先を注意深く見ているようだ。「大きなカーブがあるね」とか「下り坂が怖いね」とか、私の運転で感じていることを口に出してくれているようである。そして、ナビ画面にうつる、ある記号に気が付き、声が少し昂った。「哲也、トンネルがあるよ。」

 

に、さんのカーブを超えたところ、横幅は 4m はギリギリあるだろうか。岩盤の堀跡が見えるような凸凹した壁面、数メートルおきにしかない、天井に設置された白い蛍光灯。その先は見通せないが、私たちはようやく、大雨から一時的に解放された。

 

恐怖と疑惑の十字路トンネル

会談用 トンネル

 

 

大雨に比べれば運転は楽ではあるものの、トンネルの中は不気味である。いつ作られたかもわからないそれは、生き物の気配など全くせず、真夏であると言うのに蛍光灯に虫がたむろするわけでもない。ただ、ものすごい湿気のようで、フロントガラスもリアガラスもどんどんと曇っていく。

 

先ほどまでの大雨からのギャップのおかげで、トンネルの中は静まり返っているように感じる。陽子と目を合わせるが、夫婦揃って考えることは同じ、「早く抜けてしまいたい」。

 

ところが、ナビ画面を見ているとトンネルの中に交差点がある事がわかった。幹線道路ではなく旧道のようで、ナビ画面にも細い線で表示される。トンネルの中で車を停めるのは嫌ではある。が、もし交差点に他の車が居たら、少し安心感がでる。居なければ、信号無視をしてしまおうか?と思うくらい、平常心を揺さぶって来るこのトンネルが憎らしい。

 

信号が見えてきた。青信号。ところが、50m までというところで、黄色になり、赤くなった。予想通り悪い結果のほうになる・・・と、交差する側の停止線に、一台の車がいるではないか。

 

「よかった」と、思わず声を出す私。

「わかるわ」と、陽子も少し安堵した声を出した。ところが。

 

その交差点に停まっている車は、自身の前の信号が青であるにもかかわらず、発進しない。

陽子は不機嫌そうに「何なのかしら、あの車。」

おかしい。ヘッドライトは着いている。もしや交差点で寝てしまったのか?その一台限りの車の運転席を見ようとするが、ガラスの曇りで中を伺うことはできない。

 

「寝てしまった?または・・・」

「または・・・?」

「あっちの車も怖がりで、うちらの車について行こうとしているとか。」

「やだ、やめてよ。」

 

そのうち、相手の信号は赤くなり、私の目の前の信号は青に変わった。仕方なく車を進める私。だが、数百メートル走っても、ルームミラーには後続車は見えなかった。どうやら、寝てしまったか何かだったのだろう。

 

気を取り直して、長く続くトンネルと向き合う。遠くに、緑色のライトを見た。緊急用電話である。

 

「哲也、待って。」

陽子は不安そうな声をあげる。

「さっきの交差点、三叉路だよ。」

「え?十字路だったよな?」

「それがね、違うの。さっき車が停まってたところ、本当は道がないの。」

「まさか。陽子も見たよね?確かに十字路だったじゃない。」

「そうなんだけど、今スマートホンで見たら、確かに道がないのよ。」

 

ふと、ルームミラーを見る。すると、はるか後方にヘッドライトが映り込んだ。私たちよりも後ろから来た車?それとも、陽子の言う「道のない方から来た車」?

 

「どうするか・・・引き返すか?」

「一旦、非常電話のところに停める?」

 

そうしよう、と言おうとしたその瞬間。車のエンジンが音もなく停止した。

 

 

「え・・・!冗談やめてよ!」

「冗談なんかじゃない!」

ブワッと全身から汗が出る。陽子は、泣きそうな顔でこちらを見つめている。ルームミラーには、ヘッドライトがどんどん近づいて来るのが見える。

 

おかしい、世の中には不思議なことなんてあるはずがないんだ。それなのに、今日はおかしな事ばかりだ。高速道路、県境の通行止め。その割に、大雨でも止められていなかった旧道。

 

ヒロ君の、言葉。

 

ブレーキを踏んで、エンジンを再始動。セルモーターはキュルキュルと音を鳴らし、それでも車の心臓は復活しない。ルームミラーを見る、エンジンを再始動する、を繰り返して3回目。

 

ドゥルルルン!

 

復活したエンジンに喝を入れるようにアクセルをぐいっと踏み込み、私の車はトンネルをさらに奥へと進み出す。

 

 

陽子の手が、私の服を掴んでいる。小刻みに震えている感覚がわかる。私のステアリングを掴む手はビショビショで、平常心なんて消えていた。もう、前を見ることしかできない、メーターも、ナビ画面さえも見る事ができなかった。

 

ルームミラーには、目一杯のヘッドライト。アクセルを踏み込んで速度を上げても、カーブでブレーキをかけても、まったく距離が変わろうとしない。あれはなんだ?妖怪の類なのか?そんな体験を一度もした事がない私の心拍数は、失神の一歩手前を自分自身でも感じていた。

 

不意に、トンネルの先に灯りが見えた。

 

ようやく出口に辿り着いたのか?それにしては明る過ぎやしないだろうか。眩くひかり、その先は全く見えない。しかし、永遠の時間トンネルの中を走り続けた私にとって、その光は助け舟としか感じられない。

 

「三又の洞穴のもっと先 光が見えたら目玉を隠せ」

 

もしや、あの言葉は私たちを助ける為の、ご先祖様の言葉だったか!

 

「陽子!目をつぶるんだ!」

 

 

咄嗟に陽子に叫ぶ。ここはヒロ君の言葉を信じるしかない。しかし、陽子は私に言い返した。

 

「ダメよ!」

え?

「よく前を見て!カーブよ!ブレーキ!ブレーキ!」

 

私は後続車の事などお構いなしに、フルブレーキをかける!

 

キキキキキ!

 

旧カーブの途中、壁にぶつかる少し前に、私たちの車は停車した。

 

不可思議を信じてはならない

会談用 山道

 

 

陽子は言った。

「私のお祖父さんが言っていたの。不可思議を信じてはいけないと。不可思議は、妖の作るものだ。不可思議を信じたら、それは生きる事との決別だって。」

「そうなんだ?しかし、ヒロ君の言葉は・・・」

「もしかしたら、何かに私達が狙われていたのかもね。」

 

未だ意味がわからず、混乱しているところに、窓を叩く音。見ると、後ろの車の運転席のドアが空いていた。黄色いスポーツカー、その車から降りてきたドライバーのようだ。

 

「大丈夫か、あんた!命拾いしたな!」

 

話を聞くと、このカーブは地元でも有名な「魔のカーブ」だと言う。大雨の降る日、トンネル内に流れ込んだ雨水に対向車のヘッドライトが反射して、カーブの先が見えなくなってしまうのだとか。

 

「まあ、雨かもしれないけれど、気をつけて行きなさい。」

 

黄色いスポーツカーの彼は、少し困ったような笑顔を見せながら、自分の車に戻って行った。

 

人と話せた事の安堵感で、私と陽子はようやく冷静さを取り戻し、トンネルを抜け切った。雨は小雨になり、帰れる目処も立ちそうだったが、あまりにも怖い思いをしたから、車を路肩に停めて少し休むことにした。

 

「今日は、何なんだろうな。」

「そうね。。今日は川端哲也の運勢が最悪の日だったのよね。」

「え?運勢?」

陽子から運勢なんて話が出たことは、付き合っていた時代には一度なかった。実はスピリチュアルな嫁だったのか?

「えへへ・・・ちょっとした趣味でね。でも、哲也のことが大事だったから、運勢の悪い日は一緒にいたいと思っていたの。隠していてごめんね。」

「そんな。。自分を想ってしてくれていた事を、とやかく言うつもりはないよ。大丈夫。」

 

私の言うと、陽子はにこりと微笑んだ。心境は複雑だが、死ぬかもしれない最大のピンチを救ってくれたんだ。感謝しないと。

 

そう言えば、路肩に停めてからは対向車しか見ていない。トンネルの中で声をかけてくれた、黄色のスポーツカーはいつ、私たちを追い抜いた?

 

 

あとでミヤニイに聞いた話だと、あのトンネルでは出口付近での事故が多発して、早々に別の道が作られたそうだ。トンネルの構造上経路の変更は難しく、また山間の集落へ繋がる道だから、廃止するわけにもいかなかったという事らしい。

 

そして、その事故の最初の事例が黄色のスポーツカーだったと聞いた時、私は複雑な心境になった。

 

よく考えてみれば、トンネルの中で後続車が近づいて来なければ、私は焦ってスピードを上げることも、平常心を失うこともなかったのだ。

 

では、あの時の「命拾いしたな!」は、何だったのか。あの困ったような笑顔は、残念だったという顔だったのか。

 

そもそも、黄色のスポーツカーが実在したのか、不可思議なものなのかはわからない。

 

もしかしたら、ヒロ君の言葉、大雨、十字路の幻覚、眩い光、そして黄色のスポーツカー。その全てが、私達夫婦を貶める為の罠だった。そう考えると、恐ろしくてたまらなかった。

 

怖すぎる燃料

Peugeot308SWの16インチ夏タイヤ

 

「俺さあ、節税したくってさあ。」

「はいはい?」

「簡単にできる方法試してみたんよ。」

「なになに?」

「俺のプリウスに軽油入れてみた!」

「ご愁傷様!」

 

永遠の霊園

Peugeot 308 と大桜

 

墓場の中を車で走る、というのは、あまり聞かないと思います。ですが、大きな墓園ではないことはなく、そして時々、抜け道で使うようです。

 

K県のK市には、そのような墓地があります。いつも管理の人が居て、墓参りの人達も居るので寂しいという事はありません。

 

けれども、やはり眠っている人からすれば抜け道として使われるのは嫌なようで。

 

抜け道として使用した私の知り合いは、およそ4時間、霊園の中を走り続けたそうです。走っても走っても、いつまで経っても出口に着かない。携帯電話は繋がるそうなんです。だから電話して、「ごめん、道に迷っていて。」と先方に伝えて、そしてまた迷い続ける。

 

出られたのは、日が沈んだあとらしい。神隠しなんて言葉もありますからね。霊園がもしも最高の抜け道だったとしても、使わない方が身の為ですね。

 

結びの瞬景

 

実は、こんな美しい写真なんですよね。色調を反転しただけで怖い写真になる。心霊ブームさまさまです(笑)

 

さて、夏ですので、久々に怖い話を一つ・・・実は、2019年に一発書いていたり。楽しめる人はごく少数だとは思いますが!

 

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この記事は、about VOLVO からの再録記事です。基本的に内容の編集は最小限に済ませていますので、monogressとは若干ニュアンスの違うところも出てきます。ご了承ください。 日本の夏といえば怪談です。 草木も眠る丑三つ時、[…]

 

前回は怖い話というよりも、笑える系の意外な話を書きました。今回は、一応真面目に怖い話。安心して欲しいのは、今回は創作というところ。

 

でも、トンネルって怖いですよね。暗闇は私達人間の嫌いな要素のひとつ。だからこそ、パートナーと一緒に手を取り合いながら、安全運転で走り抜けたいですね。