ボルボの「コンセプト・リチャージ」に見る ありふれない未来

久々のボルボネタ。電気自動車メーカーになると言い切って、なりふり構わず進むボルボは、「まさかこんなにも本気だったなんて」と周りから言わるんじゃないかと思うくらいの勢い。スカンジナビア半島の誇りを一身に背負い、中国資本を利用しつつ立て直しをはかります。

 

2021年、内燃機関を持つボルボの最後の10年の最初の夏。迷いなく進んで欲しい。今までのボルボユーザーを切り捨てる痛みを負いながらも、プレミアム電動車メーカーを目指すのだから。そして、そのバッサリ感も魅力であるとも言えるのだから。

 

 

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ボルボ・コンセプト・リチャージ登場

私がブログをお休みしている間に、ボルボからは2つの大きな発信がありましたね。

 

ひとつは、「ボルボ・コンセプト・リチャージ」の発表です。完全電気自動車の製造を目的としてデザインされたコンセプトは、今までのようなXC40ベースのデザイン=内燃機関の搭載も考えられたデザインから一変。ボンネットを縮小しホイールベースを拡大。なおかつ、アイポイントは高くしつつもルーフラインを下げる、ボルボお得意のクロスカントリーモデル風。

 

画像出典:Volvo global newsroom

 

面白いのは、リア・コンビランプのデザインに言及したこと。過去のデザインを継承するため、縦長ランプは採用する。ただし空気力学が悪いため、何かしらの「翼」をつけるように進んでいる・・・ボルボは相当縦長コンビランプがお気に入りのようです。

 

まあ、私もお気に入りでしたけど(笑)安全性能を目で見えるようにデザインされた、S字リアコンビランプは継承されないみたい。これは残念かな。

 

中国での収益を上げる株式取得

もうひとつは、ボルボが中国での製造・販売の所有権を得るという発表。大慶沃爾沃汽車製造(Daqing Volvo Car Manufacturing Co. Ltd)および上海沃爾沃汽車研発(Shanghai Volvo Car Research and Development Co. Ltd)の株式を50%取得します。

 

中国の市場開放政策の一環として、外資出資比率の撤廃がされる2021年から2022年にかけて、この取引がされるとしています。今後ボルボは中国での影響力が増すとしていながらも、出資比率の変更による吉利汽車とのパートナーシップへの影響は無いとしています。

 

市場開放をアピールする中国の国策に乗る形。吉利汽車がバックにいれば大丈夫かな。

 

他方からは、吉利汽車とダイムラーとの協業における新型スマートのコンセプトカーも発表されました。このクルマの台車は VOLVO XC20 と共有される可能性が高いとされており、ボルボ・ファンとしても目の離せないものになりそうです。私もスマートには注目したいぞ。

 

ありふれない未来を描こうとするボルボ

ボルボ S60 赤バージョンの

さて、これらの大きな動きの先に何があるのかは、きっと吉利汽車のみぞ知る、というところなのでしょう。ここで敢えて、まこまちの勝手な解釈を披露します。2記事連続の勝手かよっ!て言わないで。こういうの書くのって、ほんとうに好きなんだ(〃ω〃)

 

ボルボ・リチャージ・コンセプトは、見れば見るほど不思議なデザイン。EVの特性を活かしたロングホイールベース、ショートオーバーハング。古めかしい学生帽のようにも、近未来の乗り物のようにも感じます。少しクルマの形とは程遠いのだけど、そこはコンセプトカー。将来しっかりまとまってくれば、ボルボの天才卵と呼ばれるかもしれないね。

 

さらに、ボルボはEVの性能を上げるため、2020年代後半にはバッテリーの性能を、エネルギー密度 1000 Wh/l、走行距離 1000 km を達成したいとしています。

 

なんだか夢の目白押しだなあ。あまりにも遠い国のクルマゆえに常識のギャップを埋められないでいるところを、なんとか小さな想像力で入念に考えてみると、ボルボの目指す未来が見えて来ました。

 

電気自動車でトップを狙うが 大アピールにはハテナがつく

まず一番に、電気自動車分野でトップを目指そうという姿勢の現れ。プレスリリースでも述べていますが、プレミアム電気自動車のリーダーになると宣言しています。そのためか、最近のボルボは電気自動車を中心にかなり頻繁にメディア発信をしている様子が伺えます。ただ、やる気はあるけれども台数ではドイツ勢には敵いません。

 

EV世界販売台数1位は当然、テスラ(2020年 49万台)。2位にフォルクスワーゲン(同 22万台)・・・・ボルボは8位(同 11万台)。絶対的な生産力の差がある以上、販売台数での勝負は難しい。まるで班長はやりたがるけれども成績は普通なお坊ちゃまみたいだが、ならば、格でなんとか上に行きたいお坊ちゃま感がボルボの考えなのでしょう。

 

それにしても、自動車全体での販売ではワーゲンの足元にも及ばないボルボが、ダブルスコアとはいえ電気自動車ではワーゲンに追いつくことができそう・・・あわよくば、1位テスラ、2位ボルボまで行けるかもしれない。やる気が出るのはわからなくもないですね。

 

けれどもボルボの大アピールは、私は少し不安視しています。先のVISION2020、結末は私ははてなマーク。プレスリリースで大きくアピールするだけして、未達成の末いつのまにか公式ウェブから消えていました。また同じことにならないか不安になります。バッテリー性能も高い目標を持つのは良いのだけれど、少し強引なんじゃないかな、と感じてしまう。

 

それこそ、Polestarにさせればいい。よほど自信があるのかな。

 

衝突安全性能の未来が見える

二番目に、自動運転の分野でもトップを目指そうとしていること。これは、コンセプト・リチャージのデザインを見ると感じます。バッテリーの積載性と乗り降りのしやすさを考えた、SUV風クーペワゴンを感じさせる大胆なデザイン。テスラやワーゲンに引っ張られている印象はあるものの、自動運転かつシェアカーを見越したシンプルなデザイン。とても掃除がしやすそう。もう一段回先を見越した過渡的デザインかもしれませんが、フロントマスクは充分カッコいいし、移動体の改革をしようという気持ちが伝わってきます。

 

画像出典:Volvo global newsroom

 

画像出典:Volvo global newsroom

 

全体的には、個々のディティールはボルボそのもの。面構成はボリューミーでありながらシンプル。副産物として、重量の低減を狙っているように感じました。ボルボの考え方の中には、安全というキーワードはいつまでも残り続けるもの。コンセプト・リチャージの比較的シンプルな面の中に、クラッシュエリアの新しいデザインが完成しつつあるのかも。

 

ボルボの描く未来は、自動運転に至る前にクルマ同士の通信による衝突回避のシステムがあると思います。その性能を生かして車両同士をぶつからないようにし、今まで衝突安全の為に装備していたあらゆるものを撤去する。ボルボの課題であった重量問題をクリアしてくるかもしれません。スーパーコンピュータを乗せる事で実現する安全性能テクノロジー。悪くない。

 

内燃機関車よりも安くしたくないボルボの思惑

三番目。これをボルボが想定していても、絶対に口に出さない・・・車両価格の「低減」です。

 

「EVは将来、ICEより安くなる。」という言葉がありながらも、VOLVO C40は5万ドル。なかなか安価にはなりません。本来であれば車両価格の幅を広げ、拡販に行きたいところをボルボは行けないでいるのです。安い車を作れない。小さい車で収益が見込めない。であるならば、とりあえず今は一台あたりの利益優先。車両価格を維持したい。C40の価格からは、そのような印象を受けました。

 

本当は販売台数は増やしたい。年間100万台を達成したい。とするならば、やはり手っ取り早いのはスモール・カーを増やすこと。しかしボルボは高級車へのシフトを進めてしまいました。台数の稼げそうな生半可なスモール・カーは、ボルボの名では市場には送り出せません。

 

そもそも高級車へのシフトというのは、フォード買収前にボルボは実践したことがあります。高品質なクルマを作ろうとするあまり、工場の工員の負担が増え、雇用費が膨れ上がってしまい、車両価格を高くする他なくなってしまいました。ボルボの高級化路線はそれの再来。カードをきってしまったところをさらに価格アップしたいので、「プレミアム電気自動車」なんて言い出した。

 

車両価格はどんどん増えて、収益性も上げてきたボルボ。2021年上半期では過去最高の営業利益を達成した。高級路線は成功しました。だが、危機感はあるはずです。ボルボはその先も見ているのではなかろうか。「バッテリーの価格下落ショック」の将来を。

 

バッテリー価格の下落のタイミングを準備する

電気自動車市場は大きく成長を続けており、量産化によるバッテリー価格の下降をもたらしそうです。すると、今まで一番高額だった電気自動車枠が、今度は安価なポジションに行く可能性は残されている。そもそも、バッテリーの量に依存する価格に変わっていくのです。すべてのクルマを電気自動車にした場合、航続距離とハイパワーで価格競争に陥っていく。今よりもさらに付加価値が大事な世界に進んでいくのです。

 

この勝負に勝つためには、収益体制の強化が必要となります。価格の安くなったバッテリーカーは数をさばく必要があるので、工場を増やして増産しなくてはならない。アイデアは満載にしなくてはならない。適正な利益は競争の原理で消えていく。今回ボルボがジーリーとの共同設立会社の株を買い取るということは、ボルボが中国での影響力を増すとともに、ボルボ自身の利益増に直結します。関係性は遠からずあると思います。

 

いや、もっと単純な話、本当にプレミアムブランドになれるのであれば、あまり心配はしなくても良いでしょう。でもボルボはまだプレミアムに向かっている最中のブランド。バッテリー価格の下落が起きるタイミングによっては、道半ばにして準プレミアムに戻るかもしれませんし、ラインナップを増やさなくてはならない。

 

しかし、これはチャンスにもなり得るんです。

 

ボルボV40 原村
なかなかV40後継車を出さないボルボだが、次のCセグメントカーは重要な戦略のひとつを担う車になるのかもしれない。

 

プレミアム・ブランド・プランのその先へ

プレミアムブランドになったボルボが、バッテリー価格の低下を利用し、満を辞して登場させる少し安いCセグメント電気自動車を想像してみましょう。適度な付加価値のあるプレミアム・ブランド・カーは、たくさんの人が買いに集まる。そして、ボリューム・ゾーン(以前あったV40と同じポジション=ゴルフ対抗車)を出すときのために、クリーンでシンプルな造形のデザインにシフトしていこうとしているのではないか。新しい高級感の演出と、クリーンでシンプルにすることで達成できる低コスト化も視野に入れる。

 

ボルボ自身、「より少なく、より良く」を次世代デザインに取り入れていくと名言しています。時間をかけて、プレミアム・シンプルを育てていく。新しいクルマの付加価値を、ボルボはスウェディッシュ・シンプルモダンをベースに切り替えていく。成功すればそれでよく、失敗しても問題の無いデザイン。

 

もしもプレミアムから降りるとしても、その役割はPolestarに任せてしまう準備もすでに整った。SDGsという先の見えないロードマップで、今までの高級感を拭い去り、将来をフレキシブルにできるデザインをきっと考えついたのだ。

 

少し希望的な部分はあるけれど、私達の想像を絶する、ありふれない未来をボルボは持っているのかも。ボルボ・コンセプト・リチャージには、そのようなワクワク感がある想像をしてしまうのですが、皆さんはいかがですか。

 

 

電動化を味方につけ 心中する覚悟のボルボ

XC20とプラットフォームを共有すると言われている、smartのコンセプト画像。シンプルなイメージはEV時代の流行りになりそう。

画像出典:@smart_worldwide/Instagram

 

本来必要だったのは、今はXC40だけであるCMAプラットフォームの新車種を出すこと。XC40がいくら良いクルマだといってもラインナップ的な限界がある。ユーザーは、同じ価格帯においても自分で選んで車を決めたいものなのです。ワーゲンにはゴルフとティグアンという盤石さがありますが、ボルボはXC40以外はありません。C40にその能力はありません。

 

ボルボが見事に、V40の後継車を発表する。さらに、スモールEVのXC20を発表する。この2つが達成された時、ボルボは本当に復活を遂げたと言いたかった。しかし世界の自動車産業は大きな変換期を迎えています。

 

内燃機関をばっさり切り落とすボルボは勝つのか、負けるのか。その岐路を占う、コンセプト・リチャージ。1年後に発表させるフラッグシップに、どのように反映させるのか。はたまた、Polestar 3 で見せてくれるのか。相変わらず、クルマは楽しい世界ですね。