車に何を求めるかは、人によって様々だ。豪華なインテリア、派手なエクステリア、爽快な走りと、所有する喜びは車が好きかどうかに関わらず多様である。
そんな中で今回試乗する Volkswagen Golf Variiant は、車としての完成度に重点を置かれた存在だ。FF車のベンチマーク、世界一の大衆車と謳われるこの車を愛する人は世界各地に沢山いて、8代目と切り替わった事実からも想像が容易である。
その人気や実力を知らずして、車を語ることなかれ・・・iD4の情報収集がてら自宅近くの Wagen へ。久々の「偽りなしの自動車選び」は、Cセグメント王者 Golf を思いのままに一気に語り尽くします。
偽りなしの自動車選び VW Golf Variant e-TSI Active
率直な結論から述べてしまうと、Volkswagen Golf Variantは「ヒエラルキーを気にしないベーシック好き」にはもってこいな車だろう。私自身は、歴代豪華モデル否定派(お金がないとも言える)なのだが、Golf のそれは豪華を無視した実力主義が興味深い。
ベーシックグレードと言う割には安全装備はしっかりつくし、今やおなじみになりつつあるヘッドアップディスプレイもオプションで付けることもできてしまう。ファブリックシートは少し昔の車の手触りに似ているところが安心できる。走りに対してのみ力を注ぎ込んだ車がほしいというのであれば、日本へ入る輸入車の豪華仕様主義を無視してきたVolkswagenに賞賛を贈るべき。
しかし、すこし首を捻ってしまうことも確かなクルマだった。一途だった「真面目さ」や「性能美」を、Golfの一番大切にしていたはずのこれらを、感じなくなってしまったからだ。
熟成を重ねた Golf のフルモデルチェンジ 実力は遺憾なく発揮される


デジタル化の流れをつくるダッシュボード
試乗車は「eTSI Active」という下から2番めのグレード。シートに座って最初に感じるのは、とうとうクルマはデジタルが標準になったということだ。「Digital Cockpit Pro」名付けられたメーター類は液晶画面の中にあって、自分で好みの色に調整できるのは面白い。アナログチックな表示はもとより、前車との接近状況がわかるのも便利である。
上位モデルだからデジタルメーター、下位モデルだから機械式メーター、という差別化は無くなったようで、少し安心。クルマに対するデジタル化は誰にでも恩恵をもたらすものでなければ意味はなく、Volkswagen が積極的に”流れ”を作ってくれるのもありがたい。
ダッシュボードに鎮座するセンターディスプレイは、先代に比べて使いやすい場所に移された。おなじみ画面に触れるタイプであるから、”よく触れる場所”に手垢が残るのはご愛嬌だが、頻繁に使うエアコンの温度・風量設定は液晶パネル下に指をおいて操作する。ライバルの不評から得た知見かもしれない。

流石の足回りはグーの音も出ない
走り出して一番に感じるのは、足回りの完成度の高さ。車が路面とピッタリ並行になっていると言うべきか、地球の重力と釣り合っていると言うべきか、揺れが少ないこと以上に、筋肉が均等に付いている美しさを感じてしまう。
地面をしっかり掴みながら、不快な揺れをことごとく消し去っていく。まるでテンピュールで路面が覆われているかのように、大きなショックも小さなショックも柔らかく受け止める。だからと言ってフワフワ落ち着かないわけでなく、素早く揺れのない世界に戻すのだからビックリする。
e-Activeのリアサスペンションはトーションビームだ。一昔前のマルチリンクと比べたって遜色なく、むしろ上に来るんじゃないの?という乗り心地。この足回りだけで買っても良いのではなかろうか?そう思わせるだけの実力がある。走り出しは好印象だ。
速度コントロールのし易さは◎
運転中のスムーズさは良好。Cセグメントで横幅1,800mm を割ることの出来た Golf は、混みに混んでいる川崎市内の2車線道路も安心だった。視界も良好、左右の確認もとてもしやすい。
コースティングのタイミングも良い。車線変更でアクセルから足を離していても、速度がキープされている感覚になる。アクセルオフでも思ったよりも進む印象。妙な速度の上下は無いから、周りのクルマの距離感に集中できる。慣れるまでちょっと怖いけれど、燃費のツボには効きそうだ。
ブレーキングも気持ちいい。電子制御の鬼になることの多い低速域での微調整も、自らMT車を運転しているかのようにドライバーとの意思疎通がとれている。ストップしたいときはストップする、もう少し低速を維持したい時は、コースティングとクリープの組み合わせで速度をキープしているみたい。
デジタルコックピットに目を奪われるが、車としての基本性能の底上げが凄まじい。Golf が誇るべきポイントだろう。

1.0Lマイルドハイブリッド 小ささ故に扱いやすい
試乗の最後に吟味するのは、1.0Lマイルドハイブリッド(以降、MHEV)エンジン。先代ゴルフで試乗した1.2Lは、小排気量とは思えないトルクで驚いたものだったが、今回の1.0Lもなかなかの実力だ。110 ps / 20.4 kgm のエンジンに、13ps / 6.3 kgm のモーターが付くことで、 二人乗りの平坦地という負担の軽い道ではあるが、アクセルを踏み増せばグイグイ加速を続けてくれる。
エンジンが小さいからか、私がいつもディーゼルに乗っているからなのか、終始エンジンの鼓動が希薄なのも興味深い。走行中はロードノイズが優位になるから、電気自動車と言われても疑うことはないだろう。
1.0Lマイルドハイブリッド 軽快なエンジンサウンドは執事のよう
けれども、これだと少し寂しい。車なんてエンジン音が聞こえてナンボという方もいるに違いない。そんな諸君の為に、試乗車のアクセルを強く踏み込んでみた。
するとどうだろう、フルルルと気持ちよさそうにスムーズなサイクルをこなす心臓だ。4000rpm〜5000rpm。雑に車を揺らすことなく、ドライバーが回せと言えば回します、貴方の言うことに順応に対応します、しかしたまにはこの様な遊びも良いですね、と言わんばかりの執事のような顔を見せてくれたのだ。
思わず、良いよねと言いたくなるエリートエンジン。感心、感心と言えるのはここまでだった。
Volkswagen Golf Variant にも死角はある

デンと置かれたピアノブラック Golfであるなら熟考してほしかった
市街地走行での実力を遺憾なく発揮する、Volkswagen Golf Variant e-TSI Active。死角は無いか?と言われると、気になるポイントもいくつかある。それはやはり、デザインと電装品だ。
センターインフォテインメントディスプレイ「Digital Discover Pro」及び、ステアリングの奥に見える「Digital Cockpit Pro」の完成度は、未だ語る必要は無いと思う。発展途上で試行錯誤をしている最中だし、もう一世代くらい待ってみれば素晴らしい操作性と情報量を提供してくれるに違いない。
問題は、これらを一体造形のように見せているピアノブラックの化粧パネル。とてもツヤツヤで自分の服装も映り込む。高速道路や街灯が映り込んだら、走りにくくはなかろうか。高級感が漂うのは悪くないが、綿密にデザインされた感じのしない野暮ったさも、早く飽きが来そうでNGだ。このあたりはクルマの基本設計の一部なのだから、Golf が手を抜いてはいけないところだと思ってしまう。
ヘッドアップディスプレイは文字が小さい
ヘッドアップディスプレイは今まで体験してきたクルマの中では、かなり上の方に表示されている感覚がある。遠くを見ながら走るから位置としての理解はするが、文字が小さく解像度が高いので、私は目障りな印象を受けてしまった。なんなら、無いほうがマシなくらい。カタログ上はオプションでも、輸入オーダーでは装着されることだろう。(ちなみに、表示位置は変更できるらしい。)
つまり、クルマとしての機能の充実は素晴らしいが、ドライバーに対するまとめ方や提案方法が雑に感じる。Golf ユーザーが求めているものは、「機能を沢山ください、あとは自分で上手に使うから。」ではなく、「総合的に最高にいい車」なのではなかったか?
割り切り感の無い中途半端な装備達にガッカリ
オートホールドのブレーキは使いやすいし、リアハッチゲートのオープン停止位置を記憶できるとか、行き届いた機能は流石である。しかし、中途半端さが拭えない。安全装備「エグジットウォーニング」は後方からクルマが来るタイミングでドアを開けると警告する優秀な機能だが、いちばん必要な・・・子供や両親が乗り降りする・・・リアシートのドアでは鳴らないらしい。
使い勝手の悪い機能は、変に頼るとあぶないから載せないほうが良い、と割り切るくらいが、Volkswagen Golf にはお似合いだと思うのだが、いかがだろう。性能の実験車にしてしまうには惜しくはないだろうか。
VW Golf Variant 厳しい目は実力があるからこそ

そんな苦言を言わせること自体、車としての完成度の高さと言える。Golfにかかる期待は間違いなく世界規模で大きくて、開発には苦慮したことだろう。
しかし、Peugeot や VOLVO を乗り継いだ私にとっては、つまらない車だと一蹴したくもなるのである。車の何にお金をかけるか、何をもって欲しくなるかの、インスピレーションのベクトルの方向がどうしてもGolfには合わないようなのだ。
私は結構、ベースグレードは好きな方だが、Volkswagen Golf Variant の e-TSI Active には当てはまらない。「グレードのヒエラルキー」を見た場合、標準グレートはベースの良さが滲み出る様が肝心で、その良さは上級モデルから見ても良いと思えるものでなくてはならないのだ。
例えば、エアロパーツの付いている上級仕様と、付いていないベーシック、唯一無二のファブリックシート、インテリアのカラーコンディナーやマテリアル。機能も併せて、過剰や不要を削ぎ落とすことが必要で、これもアリと思わせるようでなければベーシック仕様の存在価値は無くなり、我慢車になってしまう恐れがある。
Golfで一番辛いと思うのはインテリアデザインだが、ベースグレードでも納得感のある「カタチ」を、彼らは考えたのだろうか。

せっかくの車としての性能美があるにも関わらず、各グレードの差に気を遣った形跡がない。つまり、万人向けにもかかわらず積極的にオススメできない車になったと感じたのだ。
「所有者でも無いのに大きな口を叩くんじゃない」と言われそうだが、私がここで苦言を言ったところで、Golfの実力はCセグメントでは今のところ一番であると認めるし、世の中の自動車雑誌もそのように書くだろう。
けれども、「偽りなしの輸入車選び」は私の正直な感想を言う場である。Volkswagen Golf Variant e-TSI Activeは、「欲しければ買えば良いんじゃない?」程度にしておこうと思う。
兎にも角にも、Cセグメント覇者ウォーズは始まったばかり。Peugeot 308 もあれば、身内にはiD3 / iD4 も控えている。Volkswagen が舵取りを誤らないことに期待したい。
ブロガーの記事紹介
ところで、私は Golf には苦言をさすような記事になったが、性能の良さは概ね認めている。では、他の車ブロガーさんはどうかと言うと、人それぞれで面白い。文句ばかり言うのはきっと、私の悪い癖なのでしょう(^^;)
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各々、試乗している車種が違うので、どうぞ参考にして役立ててください。