車はスポーツする為のものではない。人の足では到達できない移動という力を得るものだ。だから、車の一番良い形とは人が乗れて荷物が詰めて、それらが最大限に効率よくパッケージングされたモノだろう。
などと言うのは、つまらないーーそう言う人種は、今はどれだけ居るだろうか。制限時速で車を操り、それ以上の速度域に想いを馳せる。車で言う「スポーツ」にこそ「ロマンス」を込める輩に、いつまでもいたいものだ。
かつて、FFスポーツの最先鋒と言われたホンダは、今も庶民派スポーツを創り続ける。車種を絞り、大多数が望む箱車を増やしつつも、我々に「スポーツ」を楽しませてくれる車、シビックを用意した。大衆車は今日もまた、走りの楽しさを伝えるのだ。
偽りなしの日本車選び HONDA CIVIC e:HEV
その車 ハイブリッドの一言で片付くのか?
0〜100km/hの数値が、なんだと言うのだろうか。ライバルが力で押してこようと、ひとつの値くらいでは首は振らない。
スポーツ・マインドを刺激する、レスポンスの良い電動モーターと巧みに操られるエンジンサウンドは、ホンダのハイブリッドシステムである「e:HEV」の核技術。エンジンの鼓動の高鳴りは、至る道筋があってこそだ。
トランスミッションが無いにも関わらず、アクセルを深く踏み込めば演出されるシフトアップ。そこでアクセルを中立に戻すと、まるで速度維持をしているかのようにエンジン音もその回転数を堅持する。相当、走り込んで作り上げのだろう、違和感などまったく感じず、澄み切った音色のエンジンを意のままに操る感覚は、これがハイブリッドかと疑いたくなる。
軽やかに操る楽しみ これぞ身の丈スポーツ!
左右へステアリングを切り込んでみる。ロードインフォメーションはドライバーへはささやかに伝え、これも意のままに軽々とボンネットの向きを変える。141psで発電する2リッターエンジンや180psを速やかにデリバリーするハイブリッドシステムは、重さを味方に接地性を若干あげて、マルチリンクサスペンションをより強く路面に押し付け、強引なカーブに深く堪え追従した。
カーブを抜けたその先は、獲物を狙う豹の如く、低い姿勢でアスファルトを真っ直ぐに蹴り上げる。そう、315Nmのトルクを堪能する快走タイムだ。再び溢れ出すシリンダーの爆発音を何度も楽しみ、ギミックと解りながらもたっぷり笑みを浮かべてしまう。
そう、これがスポーツ!私の身の丈にあった、等身大の走りがここにある。それでいてエコロジー。なんて素晴らしい車を作ったのだろうか、ホンダは!
ホンダ「スポーツ」という失敗と成功
その時、なぜもっと早くから、ホンダに触れなかったのだろうと考えた。シビックの完成度は、ライバルを突き抜け欧州車と肩を並べる。しかし、手に触れられない何かがあったのは確かだった。
VTECだ、二番目の量産ハイブリッドだ、その情熱は伝わったか?否、興味深いがそそらない。分かり易いTypeRも、なんだか子供じみたアイコンにしか感じない。低全高ミニバンなど、シャコタン族の肯定にしか見えなかった。スポーツ!スポーツ!と繰り返されるその記号は、ホンダが得るべき何かを跳ね返していたのではなかろうか。
死力を尽くしてスポーツを極めても、ダメなんだ。良いものを作っても、良いと思わせなければ意味がない。才能を剥き出しにした開発陣の血と汗を、まだ見ぬ新しいファン達へ、どのようにして届けるのか?
その解が、ようやく見出されてきたのが、今のホンダだ。
現代ホンダの芸術的性能を注ぎ込まくれ!
クリーンを貫くエクステリア・デザイン。箱型には丸みを、抑揚にはシンプルを組み合わせ、棘のあるデザインを卒業だ。その変化は、新旧のシビックを見れば明らか。大人びる為の第一歩をようやく踏み出した。
エアコンアウトレットを隠し、雑味を消し去るインテリアデザインへの挑戦。エグい格好良さを追うよりも、凛とした感性を目指す姿勢。今までの殻を打ち破る、思い切りを感じる変化は実に巧妙で、ディテールによる強引な格好良さから、目に入るインフォメーションをコントロールする緻密さを携えた。期待大だ。
ベーシックの底上げを牽引せよ
運転のしやすさの追求は、視界の良さに現れる。4ドアクーペでありながら、プライベートとは少し違うウインドウの大きさは、ギャップ萌えだ。やはりこれがシビックであることを感じさせる。予防安全システムは絶えず進化し、車種を問わず展開。グレード毎に差をつけず、軽自動車、ミニバン、シビックにまで拘りを展開し、次の時代のホンダユーザーをトータルで守るホンダセンシングはビックリするくらい高性能だ。
新しいシビックには、ホンダの目指す新しい拘りがギッシリだ。スポーツ・ハッチバックであったとしても、親しみやすいデザインも、安全性能も妥協しないのが、今のホンダ。新しいブランディングには痛みが伴うが、振り出しに戻るわけではない。きっと良いユーザーを振り向かせる事ができるはず。
だが、まだまだ足りないぞ。このままの評価は、95点だ。その原因を探るべく、再びステアリングを握りしめる。
シビックには臭さも大事?
ロードノイズの少ない、スッキリとしつつヌメリ感のある足回り。アクティブノイズコントロールにより音の刺激を抑制し、硬さは目立つものの高速域での快適性は抜群である。だが、これで本当に良かったか。
大ぶりのシートはたっぷりとしたかけ心地。座面の張りは気になるが、手触りが良く仕立ても良い。赤いステッチは若干の時代遅れを感じるが、雰囲気は合格点。だが、これで本当に良かったか。
シフトレバーの廃止。慣れへの矯正にはハテナマーク。これで本当に良かったか。
どこを向いても優秀で、何を指してもソツがない。典型的な日本車の、遊びのない生真面目な技術の塊。それはまるで無機質なロボットのようで、意志が込められた感じがない。
率直に言おう。感動の演出がもう一歩なのだ。
これだけの性能美に不満はない。価格は400万円だが、欧州車超えは過大評価とは言わせない。ただ少し、クリーンに偏りすぎて、存在感を消し去ってしまってはいないだろうか。
オーナー目線で贅沢を言うのなら…
期待を込めて要求するなら、私は何か欠点が欲しい。愛される為の、自慢できる欠点だ。例えば、シートはフカフカとか、ステアリングがめちゃクイックだとかだ。ホンダ全体で、なぜそうしたんだと言われるような欠点を、性能の裏打ちをもって作るべきだ。
そこに、スポーツ!は要らない。ホンダらしい新しい世界観を、今こそ目指して欲しい。ライバルは国内ではない。世界を見据えて、グローバルカーの勝負に勝ち残れ!
オーナーである私が期待したい、満点までの残り5点が、それである。無い物ねだりは重々承知だが、あえて言う。ホンダならきっとできる!スポーツハッチでありながら広い窓、時折感じるヌメッとした足回り、ギミックで押し切ったエンジン音の感動、ここまでやったんだ。もう少し遊ぼうぜ!
ホンダ・シビック e:HEVは、そんな応援をしたくなるような、素晴らしく魅力的な性能の鬼なのである。
HONDA CIVIC e:HEV Spec
紹介車 HONDA CIVIC e:HEV(2023)
Engine 1,968 cc Line 4 DOHC Engine
and Electric twin motor
Max Power 184 ps
Max Torque 315 Nm
Width 1,800 mm
Length 4,550 mm
Height 1,415 mm
Weight 1,460 kg
WLTC 24.2 km/L
BOSEサウンドシステム / 安全装置 6 エアバッグ / 先進運転支援システム等
あとがき
グレードで言えば、MTという泥臭を持つ CIVIC EX が加点1。シルバーモールを装備する CIVIC LX がギャップ萌えで加点2…と行きたいが、シートの見た目が弱くなって減点1。TypeRは、別世界(笑)
シビック e:HEV は本当に良い車。長野県松本市を走っていると、郊外道路なら22km/Lを下回らない燃費性能。これはやっぱり素晴らしいです。
燃費マシンのつまらなさを、沢山のアレンジで遊べる機械に育ててくれたシビックに敬意を表し、敢えて苦言という形で放った応援歌でした。更に魅力に磨きをかけて、未来のドライバーに楽しみを与えて欲しいですね。