ZR-V をティザーキャンペーンサイトで初めて見たとき、久々に日本の自動車メーカーに興味が湧いた。マセラティに似てる!の世間の評価はもちろん、ロボットアニメからの脱却を感じさせる大人びた発展形も感じ取れ、先進のハイブリッドにも感心した。その感情は田舎への移住を企む私のニーズとも合致したから、自然とホンダ・ディーラーに足を向けることになったのだった。
残念ながら CIVIC e:HEV という、さらに私のニーズにど直球なクルマを試乗してしまったが為、ZR-V が我が家に来ることは無かったが、今でも選択が誤っていたのではないかとビクビクする毎日である。あぁ、ZR-V め、なんと憎らしい車であろうか…
ところが、同じような迷いの末に ZR-V を選んだ人もいた。ブロガー仲間の「くるすぺ」さんその人だ。Peugeot を2台乗り継いだあとに選んだ、HONDA ZR-V e:HEV。今回、オフ会で3年ぶりの再開を果たした彼のクルマを思う存分堪能する機会を得た。ただのSUVではない、こだわり抜いた乗り味を、ここにしっかりと書き記したい。
ZR-V 背の高さを感じさせない巧妙なアイポイント
乗り降りの容易なZR-Vのフロントシート
今や国民車とは、軽自動車とSUVの世界になってしまった。一時期のミニバンブームは過ぎ去ったようで、前を行くクルマは壁ばかり、というシチュエーションは減っては来たが、それは空の一部分が少し見えるようになっただけ。当然、我道を突き進む!と背の低い車に乗り続ける頑固おやじよりも、柔軟に環境を変えてやる!とSUVに乗る人を優先するのがメーカーで、ZR-V の念入りな造り込みは多数派の優位を感じるばかりだ。
同じプラットフォームで作られた、CIVIC と ZR-V。CIVIC の良いところを継承しつつ、現代の日本でも走りやすく作られたのが ZR-V と素直に言える。大きな差は「車高」と「内装」。ZR-V の第一印象は、乗り降りやすいCIVICだ。お尻を軽くシートに乗せて、くるりと態勢を変えるだけで、キレの良いインテリアに収まるドライビングポジションのできあがりだ。
ディーラーのセールス氏いわく、「ようやくマツダさんと張り合うことができます」という、マルーンインテリアは誇らしげだ。色付きのインテリアは選ぶ人の個性でもあるから、ズバッと心に刺さる人なら、積極的に買いなクルマ。そうでないとしても、ZR-V のインテリアに不満を漏らす人は少ないだろう。シンプルインテリアが大好物の私も、ちょびっとだが羨ましいぞ・・・
セダンを感じる ZR-V ところが確かに感じる背の高さ
コックピットに座ったときの見晴らしは、高さを感じるものではない。アイポイントを高くとって遠くを見たい人にとっては、すこし物足りないと思われる。たぶん、姿勢のせいだろう。セダンライクに座らせるから、背の低い車からの乗り換えでも違和感がない。あっちを立てれば、こっちが立たず、だ。
そんなことを気にしなければ、死角が少ない広い視界は気分が良い。ボンネットは過剰に大きくないし、視界を邪魔しないようにダッシュボードの形状からサラリと要らないところを隠している。おかげで CIVIC に負けず劣らず運転しやすいし、サイドウインドウから外を見ると背の高さによる同乗者の見晴らしが確保されていることがわかるあたり、パッケージングとドライブフィールに相当こだわったのだなと関心せずにはいられない。
何を目指した?ZR-Vの好みの分かれる走り味
走る・曲がる・止まる 三拍子の揃うSUV = ZR-V
さて、走らせた印象を書いていこう。セダンライクという感想は私だけかもしれいのだが、なにせ完成度は抜群だ。まず、SUVにありがちなピッチングを感じない。重心点がセダンに比べて高くなるSUVは、頭が前後左右へと振られやすく私は酔ってしまうのだが、ZR-Vではそれがない。
よく対処したのだろう。私のピッチング解消殿堂SUV(VOLVO XC40 / Jeep RENEGADE / Peugeot 3008)に入れてもいい。乗り心地の改善は、とにかく素早く揺らさないことである。乗っている ZR-V は e:HEV + AWD なので、重量物が床下に集まっている。このあたりが効果的に効いているのかもしれない。
だからなのか、フットワークは良くも悪くもシビックである。路面に密着して進む感覚も、ステアリングを切ったときの追従性能も、大きな路面のショックの受け方も、CIVIC のそれにほとんど近い。私の「大きな車の嫌いなところ」を解消し、さらにスポーティセダンに似せてきているところはお見事である。
e:HEVの気持ちの良い加速は健在!ZR-Vの音のギミックに酔いしれる
そして、悔しいかな CIVIC を超えるところもある。惚れ惚れする HONDA LFC エンジンの爽やかなサウンドが、CIVIC e:HEV よりも ZR-V e:HEV のほうが主張するのだ。ホンダ自慢の「リニアシフトコントロール」は、アクセルペダルを踏み込んだ時に真価を発揮するのだが、CIVIC e:HEV はエンジン音を抑え込んでいるから聞きたいときに聞けない不満が拭えきれない。
ZR-V e:HEV のそれは、(静かに運転した人には無意味であるが)ときよりエンジンサウンドを聞きたい人には、堪らない演出だろう。右足に込める力に、素直に反応するボディ。電動車であることを実感しつつ、近くで回りだすエンジンからは艷やかなサウンドがまるで有段シフト車に乗っているかのようにステップを刻んでいく。けっして「唸る」ではなく、あくまで「軽やかに」心地よいサウンドにリンクする加速感。ZR-V もまた、爽快感を感じる車なのだ。
ZR-Vの性格に違和感を感じる・・・その理由は?
しかし、意のままに操ることのできる車の素性を感じながらも、やはり少しの違和感を感じる。ここまで機敏である必要はあるのだろうか?という疑問符だ。例えば、HONDA VEZEL は大人な乗り心地を提供するコンパクトSUVだった。大多数は、あちらの乗り味のほうが良いのではなかろうか?
慣らし運転の終わったくるすぺさんの ZR-V は、走行距離 500 km の試乗車に比べればやはりマイルドに落ち着いていた。それでも、路面のコツコツは多少拾い気味で、普通に流す程度であるなら、もう少しおとなしいほうが好みかな?と感じてしまう。タイヤ交換で打ち消せるような気もするのだが、このタイヤを選んだ理由とは・・・ZR-V が目指すものは、乗員の快適性を少々落としながらも、譲れない何かを感じずにはいられなかった。
山道で本領発揮!ZR-Vは峠を攻めるSUVだ
ZR-Vの粘るサスペンションはフランス車とドイツ車のちょうど真ん中
それは、山道の上りに差し掛かったときに理解した。ハイスピード気味で駆け抜けるカーブというカーブでの、外側のサスペンションのしなやかさが歓喜の声をあげたくなるほど美しい!街なかでは少々引き締め気味と感じていた足回り、ワインディングでは驚くほどの乗り心地の良さだ。
225/55R18 のタイヤを滑らせることなく、サスペンションのスムーズな上下動でカーブ途中にある路面の凸凹をいなしていく。フランス車のようなストロークの長さを感じつつ、もうすこしコシの強めな感覚だ。これは正直、「上手い!」と声に出てしまった。フランス流の足回りは、その上下動の多さに怖がったり、不快に思ったりする人も多い。ZR-V の足回りは、フランス流をちょっと抑制し横Gを強め、タイヤのタワミで踏ん張ることでオン・ザ・レール感に結びつけている。
たぶん、日本人はこちらのほうが安心するだろう(フランス車乗りが特殊という話もあるが笑。)接地の安心感はしっかりとある。まだまだ行ける、と、右足にさらに力を込めた。
背中から押される!ZR-VのAWDは走りの装備
すると、e:HEV の 315Nm に達する大きなトルクがグイッと背中を押し付ける。AWD がナンボノモンじゃい!と言わせない、リアのタイヤがしっかりと仕事をする感覚は、ステアリングの軽さ、姿勢の変化から感じ取ることができるのだ。「この車はAWDですよ」と言われていた先入観があることは否めないが、ZR-V のそれは CIVIC のような FFスポーツとはちがう、アクセル・オンでのカーブの曲がりやすさがやはり段違いである。
特に、ワインディング上りで感じるカーブの外側のリアタイヤの動きの大らかさ。大きな入力があれば意外と脆く横に滑る FF とは違い、車を強引に前へ押しやるリアタイヤの駆動力は、ワインディング・ドライブのさらなる自由を与えるミラクル・シューズ。駆動力が起因での前後の揺れを抑え、左右への走りやすさをプラスする。なるほど、ZR-V AWD は CIVIC を越えようとする身内のライバルだったのか・・・!
くるすぺさんと、ZR-V についてはしゃぎ合う。
まこまち なんですかこれ、気持ち悪いほどグリグリ登る!
くるすぺ そうなんですよ、ワインディングで急に目覚めちゃうんです!
まこまち どうしてこんなに気持ち良いんだ!ステアしたときの安心感が CIVIC とは別格!
くるすぺ そう感じます?
まこまち えぇ、CIVIC と ZR-V、性格真逆のほうが良いですよね〜
くるすぺ わかりますww
まこまち なんて優秀なんだ…ほら、カーブにあわせてぐいーっとステアしたときの正確さ…
くるすぺ ジワーッとライントレースが気持ちいいですよねー!
まこまち 急に修正舵を入れても…!ふおっと正すこの感覚!
くるすぺ 堪りませんよねーーー!(笑)
(※敬称略)
ほとんど音でしか表現してないじゃんよ、オヤジ・・・でも、本当に楽しいワインディング体験を、ZR-V は叶えてくれる車だったのだ。
これが目指した姿なのか?ZR-V総括
結局、その後にくるすぺさんと合致した意見は、CIVIV と ZR-V は真逆の性格の方が良い、だった。とはいえ、CIVIC e:HEV の乗り心地の良さで買った私と、CIVIC の走りの良さが引き継がれると ZR-V e:HEV の購入を決断したくるすぺさんとが、車の正確が逆だったら逆の車を買うのかと言えば、もしかしたら別の車を購入した可能性も否めない。
やはりそれぞれ、CIVIC を気に入っているし ZR-V を気に入っている。CIVIC や ZR-V の車の良さがそれぞれのツボをついたのなら、そのクルマづくりはある意味で成功だ。だが、フランス車を気に入って乗るような我々にストライクするような車が、果たして日本でどれだけの需要があるのか・・・
いや、それは愚問なのだろう。最近、ホンダは国内での元気がない。N-BOX の快進撃、ヴェゼルの長期バックオーダーなど人気が無いわけではないのだけれど、どうしても振るわないように見えるのは、やはり海外重視な姿勢からくるものだろう。2022年度の国内販売台数は 64万台、対して、世界販売台数は 380万台だ。言い換えれば、世界ではしっかり認められているということなのだ。(各国でセッティングは多少違うかもしれないか)
ファミリーカーがSUVになってから、どれだけの月日が経ったことだろう。
SUVに求められるものは、多様になった。足元のクリアランスが確保され、視点が高ければ人気が出る時代から、高級感やらスタイルやらが重視される世界になった。ZR-Vはその中でも、走りの良さを本気で狙った鬼才である。「またホンダがスポーティに振っちゃった」なんて呆れた声も聞こえるが、聞き入れることなど不要だろう。
順風満帆や顧客重視など、ホンダには不要なキーワード。派手なグリルから脱却し、独自のハイブリッドと明らかに力のこもったサスペンション、そして尖ったキャラクターで、車の魅力を突き詰める。その姿勢に共感する人は、必ず現れる。ZR-V は、まさに現代ホンダの魂を感じ取れる車なのだ。
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今回の取材協力は、車ブロガーくるすぺさん。動的質感命!とブログでうたうくるすぺさんの車に対する評価は、細かく見ていて楽しくなります。今回私が CIVIC を選べたのも、彼のお墨付きがあったからこそ(^^)
結びの瞬景
私が HONDA CIVIC e:HEV オーナーであるが為に、ついつい比較記事的になってしまいましたが、今回の主役はあくまでも ZR-V。いやはや、派手に走りの楽しい車でした。各ブロガーのこだわりの車、乗っていて楽しくなりますなあ!
日本車、とくにホンダが苦手としているのは、やはり自動車のデザインだと感じます。上級Cセグメントをついているのはわかりますが、やはりプリウスほどには格好良いのキーワードは出てこない。惜しいなあ、この性能でシボレーくらい格好良くなればなあ・・・ホンダさん、がんばってね。
さて、今年もあと2週間。どんなネタで仕上げようか、今から結構悩み中。皆さん、いつまでもご贔屓に!