【モーター・アーツ】MAZDA 2 ディーゼル搭載は素直さと情熱が為せる技

その車が良いか悪いか。そんなものは個人の価値観でしかない。アグレッシブなスポーツカー、威厳を表すラグジュアリーカー、見た目が可愛い軽自動車さえ、周りの声が何と言おうとオーナーにとっては一番なのだ。

 

ところが、人は自分の価値観で比べたがる。少しでも良いものを選んだのだなと肯定したくて、自分の気持ちを整理したくて、選んだ事実を認めて欲しくて。他人の芝生が青く見えるは、きっと人の本能だ。存分に価値観を比べよう。

 

だが、ときどき比べられないクルマもある。その選択は正解なのか過ちなのかはわからない。理由のない魅力に憑かれただけかもしれないが、それを所有する喜びもまた、比べられないことだろう。日本の異才が産み落としたコンパクト・ディーゼルカー MAZDA 2 は、真実を見抜く人にのみ薦められる、世にも珍しい車である。

 

 

MAZDA 2 XD

モーター・アーツ

 

 

Type UU。そう呼ぶことにした MAZDA 2 XD 6MT は、ライトにチューニングがなされていた。ローダウン、ストラットタワーバー。

 

MAZDA 2 in 東急REIホテル

 

重いディーゼルを積むコンパクトは、前後重量比率はきっと、日本一前輪に偏っているに違いない。前席は快適そのもの、後席は振動が多くお世辞は言えない。頭の中で想像するに、ほとんど前輪だけで制御する車。リアサスペンションは大トルク(250Nm)の加速性能にてんてこ舞い。なんとか踏ん張るのが精一杯だ。

 

これを、マニュアル・トランスミッションで操る。左脚を上げた瞬間にボディは引き締まり、ビシッとタイヤから自分の脳天までを貫く感覚、心地良い。アクセルの開度に比例するノビの良いディーゼル・サウンド、なかなか沁みる。クラッチをきる、レバーを移動する、アクセルを煽る、クラッチをミートさせる。エンスト寸前の回転数で繋ごうが、ディーゼルらしい粘り力でモリモリと息をつなぐ。

 

あゝ、楽しい・・・この車のリアシートの快適性に大きな意味など、無いんだろうな。

 

MAZDA 2 コックピットのメーター

MAZDA 2 エアコンの送風口
UU さんの MAZDA 2 インテリア。設計の古さこそ感じるけれど、細かく加飾パーツが入り格好良さを感じられる。過剰に期待してはならないが、まったく期待しないのも可愛そうだ。

 

スピードを乗せる。コックピットに座った時、手に届きそうなフロントノーズが車との一体感を強くする。超合金ロボと言うよりはモビルスーツ。目の前のノーズの先を手で触ることができるような、人の身の丈に丁度いい空間がジェントルに湧き出るトルク感と融合し、MAZDA 2 は弾丸のように路面を叩く。

 

ただ、その弾像はしなやかだ。

 

ステアリングを切る時に現れる、車の素性。リアサスペンションは軽くて仕事がしづらい分、フロント・ストラットサスペンションは妥協せずにねちっこく路面に絡む。空気圧抜けているの?と疑いたくなるのだが、しっかりサスペンションを上下に揺らし、適度なフリクションで快適スポーツを実現している。

 

MAZDA 2 斜めから

 

そして車として違和感のない操作感。電子制御に振り回される感覚はない。操作が軽いわけではない。それなりのサイズの機械を操作している実感のある、鉄とゴムを高い精度で組みつけた油臭さ。ジワリとした操作をしっかり許容し、しかもメカメカしていて気持ち良いのだ。

 

ところが、エクステリアとのギャップの強さと言ったら。

 

中身はジャジャ馬そのものなのに、そこへ大人しくスポーティで線の細いデザインだ。Bセグメントらしい背中の丸まる 2BOX フォルムに、繊細な野生味を感じる切れ上がったヘッドライト。パッケージングだの、新鮮味だの様々な理由でライバル達はオーソドックスから離れていくが、MAZDA 2 の素直なボンネットと居住空間で安心でき、しかも意外と運転がしやすい。古めかしいから、逸品と言うと嘘になる。が。

 

これが、クルマというんじゃないの?

 

MAZDA2 XD サイドビュー
川崎市は殿町で撮影できる、工場とのツーショット。スッキリしたデザイン、青空、緑の葉、そこへ異物のように存在するプラント。このアンマッチに耐える MAZDA 2 もまた、見事である。

 

私は、車の動きの組み立ては、たった二つの要素しか無いと考える。ひとつは、電子制御。ステアリングの重さ、アクセルとエンジンの協調など、クルマを良いものと感じさせる役目は多い。時々、気狂いのように高レスポンスにする車もあるけど、それは何かを隠す為にしている事。

 

その、隠したいものは素材の良し悪し。クルマは本来アナログなもの。アナログをかき集め、強力な馬力を扱えるように組み立てたもの。力学的な強さ、弱さ、ベクトルの向きの統制、痛みを抑えるバネやゴム。過去100年の車の歴史は、アナログな経験の積み重ねだったはずなのだ。

 

電子制御が間違っているわけではなく、正しい。これからの時代に欠かせない技術であり、アナログに加えて育てていくべき設計思想だ。アナログとデジタルの組み合わせは、車の運転のしやすさを飛躍的に上げる。良いものから、さらに良いものへという上昇志向は受け入れるべきなんだ。

 

そして、忘れてはいけないこともある。人の持つ感覚を裏切らないことだ。車の向きを変える、速度を上げる、耳に音が入る、危険だと感じる。これらを電子制御で消してしまうと、それはコントロールできない猛獣に乗っているのと同じではないか?

 

素性を甘く煮詰めて電子制御で隠す車、素性の良さを突き詰めて電子制御で味付けする車。コンパクトカーに乗ると、どうしても見えてくる出来の違い。MAZDA 2 は後者、だから胸を張って”クルマ”と言えるし、どんなにリアサスが震えようが、安心して乗れるのだ。

 

MAZDA2のブレーキ

 

輸入車に乗っていた頃から、私は隠れマツダファンだった。癖のない、素性の良い素直な車を作るメーカー。MPVにもアクセラにも、そんな空気を感じていた。今は商売の為、SUV天国になってはいるが、きっと次の数年で MAZDA 2 は切り替わるだろう。

 

・・・いや、違うか。MAZDA 2と同じサイズのSUVに変える可能性が高い。どんなに 2BOX が欲しい人が居ても、市場の大多数に認められなければ意味がない。売れなければ商売は成り立たないのは、仕方がないことだろう。

 

シトラス内装や新エンジン、暮らす唯一のコンパクト・ディーゼルと気合の入る MAZDA 2 だが、いかんせん地味である。登場より 8 年が経ち、そろそろ古さが名物になりそうな時期に来た。何度もテコ入れされ、商品力が上がろうとも、人々に大事なのは素性ではなく新鮮味。

 

MAZDA 2 リアと大空

 

だが、いいじゃないか。ライバルよりも明らかに良い素直なフィーリング、エンジンだけでハイブリッドに対抗する情熱。良い車を作ったなと買ってくれる人はまだまだ居る。手を加える人がいる。これも車を楽しむ一つのカテゴリーだ。

 

たとえ 27番目の打者だとしても、空振り三振でゲームセットだったとしても、グラウンドに降り立つための努力は報われる。私たちの記憶に、MAZDA 2 は永遠に残るのだ。

 


 

(取材協力)UUさん

もうしばらく経つと「古くからの付き合いがある車ブロガー」とい新しい称号を与え合える、通算数年目の大事な存在。彼がつないだ人脈は多い。2023年2月現在、新しい愛車TOYOTA PRIUS(ハイブリッド・リボーン!)の納車でウキウキしているに違いない。そんな彼に贈る、MAZDA 2 のモーター・アーツ。さあ、最高燃費は私のシビック e:HEV か、プリウスか、それとも MAZDA 2 なのか!?

 

WONDERFUL CAR LIFE

目次 1 MAZDA2のディーゼルマニュアルを試してもらった!(神奈川オフ会報告Part2)1.1 仲間が集合1.2 ホ…