【モーター・アーツ】VW PassatAlltrack 4MOTIONは冒険への案内人

世の中、不思議なことは沢山ある。

 

たまたま同じ学校で出逢った彼女と結婚したり、たまたま入ったレストランで20年ぶりに友人と再会したり、たまたま生きた時代の流行りに乗ったら、かけがえのない仲間に出逢ったり。

 

今回紹介する Passat Alltrack に乗る10max さんとの出逢いも全くたまたま。新旧 Peugeot 308 に乗り合う一瞬が重なっただけだった。しかし出逢いや繋がりは偶然の数珠繋ぎだと私達は知っている。

 

 

Passat Alltrackは、とても不思議なクルマである。計画された不思議さとでも言えば良いか。フォルクスワーゲンのテクノロジーで不思議さを身につけたクルマである。

 

2リッター ”TDI” ディーゼルターボエンジンは、トルク 400Nm を発揮する。足回りには 4MOTION と言われる、フォルクスワーゲングループご自慢のスポーツ四駆を搭載だ。そんな派手なスペックとは裏腹に、エクステリアは極々真面目な直線調ワーゲンディティール。多少タフさを演出したオーバーフェンダーが目を引くだけの、とても大人しい雰囲気である。

 

パサートオールトラック サイドシルエット

パサートオールトラック コックピット

パサートオールトラック ダッシュボードの時計
センターに誇らしげに飾られるアナログ時計は、マイナーチェンジで姿を消してしまった。無駄なように見える小さな細工も、高級車なら残して欲しい。

 

もしも目を閉じて Passat Alltrack に乗り込んだら、端正な趣のステーションワゴンに乗っていると思うだろう。快適なクッション、適度にロールを感じる姿勢制御。細かく刻まれたメーターもよし、ダッシュボードのアナログ時計もよし。

 

ドイツ車らしい、少し硬めで緩いサポートの本革シートはサラリとした感触で心地いいし、コックピットからの前方視界は長年親しんだセダンライクで、輸入車に乗っているという緊張感を感じずに安心する。

 

ところが、左手を伸ばしてシフトレバーに手を置くと感じるのは違和感だ。どうしてこんなにゴツイんかな?

 

パサートオールトラック ステアリングとメーター

 

アクセルをグイッと踏み込んでいく。ボディはなんの緊張もせずに、ドライバーの気分とおりにクルマを前に押し出していく。過敏に反応して速度が出過ぎるとか、自重が重くて速度が出ないなどの中途半端は全く感じず、右脚に込めた気持ちに車速をしっかり揃えてくる。

 

アクセルから足を離すと、やはりそれなりに重いクルマだと実感はする。1740 kg に慣性がのって、ノーアクセルでの距離を伸ばす。以前、砲丸のようだと表現した覚えがあるが、二度三度乗ってみても感覚は変わらない。軽いエンジンブレーキがかかった方が私の感覚には合うのだが、砲丸フィールも解って乗れば問題なく、リニアにかかるブレーキも相まってクルマ造りの基本の高さは、流石のフォルクスワーゲンだ。

 

しかし、これほどスマートに走るにも関わらず、シフトレバーはゴツいのである。

 

パサートオールトラック エンブレム

 

交差点を曲がる。4MOTIONという特別なAWDに冠された称号の言う通り、Passat Alltrack は全身をつかって方向転換。先入観に流されているのかもしれないが、タイヤのたわみをステアリングから感じることなくナチュラルに曲がるものだから、前後トルク配分だとかで上手く制御されていると思われる。

 

調子良く、山道を少しペースを上げてクルマを揺らして遊んでみる。カーブの入り口でアクセルを徐々に踏み込んでいく。ようやく、路面からの反力をステアリングに伝え出すが、大げさに振る舞うことなく一切の雑味を感じさせずに、私の思い描いたカーブを駆けた。

 

お・・・違和感だ・・・実に面白い、不可思議だ。本来、道路を走れば路面の傾きやデコボコなどで様々な反力がクルマにかかる。これらはステアリングやボディの滑りで無意識のうちに感じとって、微妙な修正操作を繰り返すものなのだが・・・

 

Passat Alltrack のカーブの挙動は、あまりにもスッキリしていた。不思議だと感じたのは、当然聞こえてくるだろう反力を適度に抑え、カーブの終わりまで導かれたことなのだ。EPSが効きすぎてロードインフォメーションが希薄になっているわけでではなく、なかなかにドライブ好きな心を掴んで面白い。どうやらフォルクスワーゲンは、端正な趣の車の中に計り知れない無骨さを組み込んだようなのだ。

 

フォルクスワーゲン 4MOTION

 

ならばと、S字カーブ。我、ワーゲンに挑戦しせり。

 

緩やかな上り坂、細い山道を車線いっぱい使いきって走りを試す。左カーブでアクセルを踏み込み、ステアリングに路面の状況を少し強めに伝えさせる。小さなジャリが起こす、タイヤの摩擦の減る感触、重なるステアリングの勝手な切り増し。予想通りのクルマの反応に、4MOTIONの微細な修正。「ニッポンノロードナンテ、オチャノコサイサイデッシュ」とステアリングの指示通りに左に姿勢を向き直した瞬間に、アクセルをさらに踏み込んでの急旋回右カーブ!

 

フワッと、ステアリングからインフォメーションがカットされた。

 

姿勢を移し左二輪に荷重がかかるタイミング。カーブの外側に振られるような体制に持ち込んだはずなのだが、操舵感の空白を経ていつの間にやら、乗員に快適な走行状態に戻された。

 

Passat Alltrack に AWD – 4MOTION 。高めの車高にストロークを確保したサスペンションでは、スポーツできる車と言うには無理がある。さらに今回はスタッドレスタイヤを履いたオンロード向けとは言い難いセッティング。しかし、上手にクルマを制御して走りやすい姿勢に戻してくれた。まさか横Gまで打ち消してしまうとは思わなかった、私は脱帽するとともに、感動してしまったのだ。

 

フォルクスワーゲン パサート オールトラック 江ノ島にて
フォルクスワーゲン 4MOTION。スポーツ走行、雪道、ラフロードまでほとんどのシチュエーションで強みを見せる走行性能は、スバルVTD-AWDと双璧をなすブランドシステム。前後輪のトルク配分を制御してクルマのコントロール性能をアップする、一度は手にしたい制御システムだ。

 

そんな細かい制御だけかと思いきや、高速道路での Passat Alltrack は別の顔を覗かせる。

 

先程の砲弾フィールはそのままに、柔らかい足回りは大きなバウンドをドシッとゆったり受け止める。アダプティブシャシーコントロール”DCC”を搭載する Passat Alltrack Advance なら、多少の足回りの引き締めも自由にできて面白い。

 

シフトレバーでDSGトランスミッションを”こき使って”遊ぶこともできてしまう。電光石火 0.04 秒のシフトチェンジを、自在に操る感覚もまた楽しい。Passat Alltrack の 2L ディーゼルエンジンは燃費モードから開放された 3000 rpm 以上の元気な領域も楽しみのひとつ。何から何まで楽しい世界に変えてしまう。

 

このクルマを自慢するワーゲンの高い鼻は、シフトレバーに表れていたのだ。

 

パサートオールトラック 前方上から

 

自己主張の激しい走りを味わった後、再び Passat Alltrack のエクステリアを眺めてみると、なんだか愛らしさを感じ始める。パッと見、このクルマに乗るドライバーが左手を常時シフトレバーに置きながら、セカセカ走るところなど想像できるはずがない。いつもどおりのフォルクスワーゲン直線主義。しかし、「私、走ると凄いんです。」を知った後は、誰もこのクルマの素性を知らないという特別感を感じるだろう。

 

輸入車の中でも、豪華さやブランド力に費用を割かずにひたすら性能を追求したい、そんな欲望がある人の一つの到達地点に違いない。

 

どんなに強引にステアリングを切ったところで、ドライバーの一歩先を行く姿勢制御、不思議である。手元のスイッチ一つで変わる足回りの特性、不思議である。400Nm の大トルクエンジン、そのわりには大人しいエクステリア。そう、全てが人の常識から少し逸脱したクルマなのだが、違和感なくクルマとして存在する。高性能をパズルのように組み入れた機械技術の最高峰。だからだろう、この車に乗れば玩具を弄るような楽しさがついてくるし、新しい世界を望む欲が湧いてくるんだ。

 

モーター・アーツ。苦しい道は軽快に、楽しい道は華やかに。その先にある新しい価値を見出す、人生を謳歌したいすべての人に贈るクルマ。Passat Alltrack は、その先にあるものを目指すための冒険ツールなのである。

 

 

VW Passat Alltrack

モーター・アーツ

 

 

ところで、今回の記事の為に載せてもらった 10max さんの Passat Alltrack は、実は手放されることが決まっている。

 

愛車を手放すのは寂しい事だ・・・と後ろを向いた文章につなげるのは野暮だろう。キッカケは彼の栄転だ。短い付き合いであったことには変わりないが、愛称「パサオ」は彼に、彼の家族に沢山の素晴らしい記憶をもたらした。パサオと巡り会えた沢山の冒険、アイスバーンの恐ろしさ、クルマの写真を撮っている最中の車内で交わされる秘密の会話。

 

女神湖でのオフの様子

 

そんなこと、なぜ分かるのかと言われれば、わかるのである。私たちブロガー仲間は、SNS仲間は、パサオのステアリングに触れ、アクセルを蹴り、けたたましくも爽快なディーゼル音を共有したのである。彼がどういう人物なのか、パサオがどういうクルマなのか、ブログを通じ、彼らがご家族と過ごすかけがえのない一時を見たから、判ると断言できるのだ。

 

彼の門出と、パサオとの別れと、明日からの運命に。この文章を添えて私はエールを贈りたい。