代替え燃料による内燃機関継続を推す私としても、自動車の電動化は避けられない事だと最近は感じる。ハイブリッド化のアドオンは確実に燃費を向上させる。バッテリーやモーターが安価に、平和に手に入るなら、ダウンサイジングターボと同じく燃費向上に役立てて欲しい。
ライフ・サイクル・アセスメントの改善があればこそ、だが。
ボンネットが無くなることが、将来の自動車像で語られる事が増えてきた。高精細マップ、高精度GPS、AIによって自動車同士の衝突がなくなれば、パワーソースがコンパクトになれば、そのような車の実現は叶うのだろう。反対しようとは思わない。目指す一つの方向として、あって良い。
そんな車の未来を占う最新技術に触れようというのが、ボンネット・クライシスである。
払拭されたエンジン音の無協調 ホンダ・爽快スポーツe:HEV
ハイブリッド技術はトヨタが実現し、世界のメーカーが追従したもののひとつである。かれこれ20年以上前のこと、一台売る毎に赤字が増えると言いながらも実装されたプリウスは、一般車の代名詞カローラを退け、米国ではセレブの注目の的となった。
私はハイブリッドには懐疑的だ。進化を繰り返すたび、走行状態とエンジン音の協調は少なくなった。これは必ず飽きが来る、速度と比例したモーター音が無ければ感覚的狂いが起きて危険である、だからディーゼル・エンジンが正義なのだと言っていた。
ところが、ホンダがシビックに搭載した「爽快スポーツ e:HEV」に触れてみると、そのような懸念はすっかり拭い去られてしまったのだ。
アクセルを強く踏み込むと、ダッシュボードの奥の方でエンジン音のステップが聞こえる。トランスミッションは無段変速、いや、そもそも今は一般道、モーターは発電フェーズのはずなのに、とワクワクが芽生えだす。
エネルギーの使い方に一石を投じる2つのモーター
ホンダのつくった新ハイブリッド「爽快スポーツe:HEV」は、分類的にはシリーズ式ハイブリッドに入る。二つのモーターを車に搭載し、片方が発電を、もう片方は電気エネルギーを使った駆動を担当する。高速域ではモーターの効率が下がる為、エンジンと駆動系を直結するという。
ゼロスピードから静かにアクセルを踏み込むと、スルスルと無音でシビックは走り出した。アクセルに対する加速はかなり俊敏で、ラフな踏み込みをしてしまうと隣の車を置いてきぼりにしてしまう。トルク 182Nm のエンジンは充電に専念させて、315Nm のモーターで加速するマジックは大変楽しい。
神経を尖らせる。遠くでエンジンが稼働して、すぐに止まった。回転数がどれほどなのかは、ハッキリ言ってわからない。ロードノイズにかき消されて、エンジン音は認識できない。
そう、私が懸念していたのはエンジン音だ。
エンジン音のステップ感は人の感覚に寄り添っている
今までのハイブリッド、特にトヨタのTHSは、走行中にバッテリー充電の為のエンジン駆動が働いていた。エンジンのもっとも効率的な回転数をキープしての発電だから、車速にまったく関係なくブイインというエンジン音がだらしなく聞こえていた。
そしてこれが、精神的に気持ちが悪い。車速に対してエンジン音が上昇し、トランスミッションの制御によってまた低いエンジン音から上がり直す、車と言えば当たり前だったステップが消えたのだ。
そんなことを思いながら、今度は登り坂でシビックのアクセルを強めに踏み込んでみる。先ほどまでは隠されていたはずのエンジンの存在感が現れた。
ファーン!
ファーーン!
ファーーーン!
合計3回、偽装シフトチェンジであろう「リニアシフトコントロール」が、有段トランスミッションのような回転数の変化を披露する。これは、車好きの心を揺さぶるに違いない。エンジンの効率の良いところを目一杯使いきる、回転上昇を切に願う人々を癒す音だ。
爽快スポーツe:HEVを新しい価値基準に
ホンダシビックの気持ちの良い「爽快スポーツe:HEV」は、回転数の制御だけではないらしい。ひとつは、「アクティブノイズコントロール」。エンジン音を集音して逆相違の音を発生させ、不要なノイズを取り除く。「アクテイブサウンドコントロール」。エンジン原音より抽出したサウンドを、スピーカーから発生させる。静かにさせたい時には目立たなく、音を出したい時には聴かせる細工。
これだけのノイズ対策を行いながら、なお足元からのロードノイズを柔らかく受け止める前輪ストラット/後輪マルチリンクの味付けは高級車。交差点の途中からフルアクセルを試したところで、ステアリングの指し示す方向に忠実に曲がる操作感。静かに聞こえるエンジン音と相まって、高い質感を感じさせるドライブフィールは◎。
ハイブリッドの技術ではトヨタが強いのはあたりまえだし、初めて世の中に出した功績は何を言おうと称えるべきだ。しかし、ここまで質感をあげてきた爽快ハイブリッドカーはあっただろうか。
これを機に、私はハイブリッド嫌いをやめようと思う。もう少し色々なハイブリッドを体感せねばつまらない。同時に、内燃機関が残る道はないものかと模索と応援もして行こうじゃないか。
シビックに搭載された直噴エンジンは、とうとう熱効率40%を超えてきた。燃料を車に置くことが最高効率という未来もあるかもしれない。世の中全ての車を電気自動車にできないかもしれない。ならば、バイオの力で作られるガソリンという燃料で走る車も、同居する可能性だってあるのだ。
車の未来の見える性能は、人の感性を大事にするものであって欲しい。ホンダの爽快e:HEVには将来のハイブリッドの可能性を見出せる。生き残りを果たして欲しい技術だった。
黙っているだけの人間は好きだろうか。
喋り続ける人間は好きだろうか。
人は必ず単調を嫌い、メリハリを求めるものだ。
車だってそうだろう。
浮き沈みのない車を、私は好きだとはまだ言えない。
燃費も性能も横一線であったとしたら、私は愛着の湧く方を選ぶ。
それは音を通じた人に寄り添うテクノロジー。
ボンネットが無くなっても、残してほしい価値ある技だ。