気ままにシリーズ記事になりそうなものを作り続けても仕方がないのですが、すこし雑誌に触発されて記事の掲載方法に拘ったものをお届けします。人気があれば他の試乗車もこの方法で書いてみたい。
「本音の輸入車選び。」 高級輸入車雑誌 LEVOLANT での掲載記事でした。ただ、タイトルに対する中身にどうも腑に落ちない。結局いつも通りの対決記事や、試乗記事なんじゃない?
だったら私はこう書くぞ。なーんて、プロのライターに挑戦しようってんだから、「本を読んだら口調を真似したくなる病」というのは恐ろしいものである。
まあ、プジョーが載っていなかったのも腑に落ちないのだけれども(笑)カングーとかトゥインゴとか508とかも、書いてもいいぞよ。
偽りなしの輸入車選び Peugeot 308SW
日本で希少 世界でメジャーな Peugeot
Peugeot というメーカーに、当初は期待していなかった。国内での販売台数の少なさは、メーカーの力の入れ具合にもよってくる。日本ではあまり本気で売ろうと思っていないのではないだろうか、という国内販売 10,335台(2019年)は、トップを走るメルセデスに6倍の差を開けられる。
その実績はつまり、クルマの実力なのではないか?と勘ぐられてしまうのは仕方がない。車好きから見てみれば、良い車=売れる車の方程式が成り立つことは周知の事実だからである。
しかし、日本人ならではの「見栄」を意識された結果のメルセデスの販売数と見えなくもなく、そう捉えてみれば、車好きの玄人好みの車である可能性は残されていた。
Peugeot 308SW。ハッチバックの Peugeot 308からホイールベースを 110 mm 長くした、Cセグメント屈指の本気のワゴンモデルである。2013年の Peugeot 308 の発表から1年遅れてデビューしたこの車は、街なかでは意識しなければ走る姿を見ることはできない。それほど日本では希少なクルマであったりする。
けれども、Peugeot 308 はヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーをとった実力の持ち主。Peugeot 308SW も、その血筋を色濃く持つクルマである。
自動車社会の過渡期に乗れる貴重なクルマ
クルマを選ぶ基準というのは、人によって違ってくる。多様性があるからこそ、沢山のクルマが世の中に溢れている。とても楽しい世界ではあるのだが、近年は二酸化炭素の排出量を抑制することが目標となり、ハイパワーを諦める風潮も出てきている。
期待の星はEVであることは間違いないけど、バッテリーの製造にも二酸化炭素は排出される。各メーカー沢山の努力をしているから、近い未来には製造段階のカーボンニュートラルは達成される可能性も見えてきたけど、今すぐにと言われるとEVを選べと言うのも躊躇われることも事実である。
それは、航続距離しかり、充電設備しかり、バッテリーの進化も固形バッテリーの実用化により世界が変わる可能性も出てきている。日本近海で見つかっているレアメタルの資源採掘などによって、透明性のある国産バッテリーの生産も近づくのなら、あえてライバル国のEVに乗るかと言えば、少し待っても良いと考える人も居るだろう。(Peugeot e-208は気になる存在だとしても。)
そもそも、世界の二酸化炭素の 51 % は畜産から排出されるものだと言うのだから、肉の消費量を半分にする努力をすることで、自動車社会よりも多くの二酸化炭素排出量削減が達成される。別のアプローチでも個人としては世界に貢献できるのだ。
そして、様々な過渡期にある自動車業界においての一つの答えが、Peugeot 308SW に搭載される「1.5 リッター ディーゼルターボエンジン」なのである。
実用域で官能的な 1.5L BlueHDi
乗ってすぐにわかるのは、クルマの鼻先が軽いこと。Peugeot 独自の「i-Cockpit」による視界の良さやアシスト多めの小径ステアリングによるとこともあるだろうが、なんといっても 1.5 リッターエンジンだというところが大きいようだ。300 Nm という NA エンジンなら 3リッター並という大きなトルクは、街なかでも高速道路の合流でも、辛いと思うことは無いはずだ。
欲を言えば、同じ値段を出すのであれば 3 リッター V6 エンジンで 300 Nm としたかった。しかし、鼻先の軽さは車全体のフットワークを良い方向に助けるし、燃費だっていいのだから、現代人としては諦めるしかないだろう。
2,000 rpm くらいで発する、色気のあるエンジンサウンドは魅力的だ。ディーゼルエンジンながら、回して気持ちいいエンジンに仕上がっている。心地よいGを感じる回転数もこの付近で鳴るのだから、チューニングが上手だと言っていいだろう。官能的な性能は、日本車よりも2、3割高いと断言できる。
思えば、このディーゼルエンジンの実力は当然で、Peugeot は ル・マン レースにディーゼルエンジンで出場していた。きっと名機になるであろう、Peugeot DV5 ディーゼルエンジンは、レースで貯められた沢山のノウハウが詰まったものであるという。開発者はレース用エンジンの制作にも関与していたというのだから、Peugeot のディーゼルエンジンに対する志は他メーカーに負けるものではないと感じる。
大トルクエンジンも燃費まで良い 2.0L BlueHDi
ところで、1.5 リッターと小型化された DV5 ディーゼルエンジンではあるのだが、排気量を小さくしたからといって燃費が大きく改善されるものではないこともよく分かる。それは、Peugeot 308SW GT に搭載される 2リッターディーゼルエンジンとの比較になるのだが、400 Nm を達成する GT 用エンジンと、300 Nm を絞り出す Allure 用エンジンとの燃費の差は、わずか 1.4 km/L。
この少ない差のために 1.5 リッターディーゼルエンジンが作られたのは、何故なのだろうか。
その答えは車重にある。 Allure と GT との差は、130 kg もあるのだ。つまり、濃厚でパワフルなパワーソースを持つ GT と、軽快なフットワークを信条とする Allure というキャラクターの違いを出して、幅広いユーザー層に合わせられるようにラインナップされているのである。
これも、世界という舞台で沢山のクルマを販売し続ける Peugeot の出した、人の多様性への答えだろう。Peugeot 308SW を選ぶのであれば、パワーソースの選択は大いに悩むに違いない。それにしても、130 kg も車重が増えて、400Nm のトルクを出すほどハイパワーな割に、燃費の差が最小限の GT の実力たるや、大したものだ。
独特の足回りは慣れると気持ちいい
足回りには、Peugeot のクルマは「猫脚」の異名を持つが、人の持つイメージは勝手なものが多いから、気をつけなければならないだろう。簡単に言うとすれば、快適性と運動性能の高い次元での両立。詳しく言うのは簡単ではない。
高い速度域ではシャキとした直進安定性を見せつつ、乗り心地を犠牲にしないフワッとした味をだす。フラットな乗り味ではなく、フワッとな乗り味だ。ドイツ車に比べれても路面の入力による突き上げ感に差はあまりなく、高速ロングドライブは随分楽な印象になるだろう。
では低い速度域では?となると、うってかわって車体が大きく揺れる印象を持つ。パリの石畳云々ではなく、柔らかく大きく揺れる。ところが、ある一定の領域から二次関数的に踏ん張りを効かせる。一番奥底で粘り強く支える印象があるから、カーブを通る時もアンダーステアで外側に膨らむ心配がない。この挙動が慣れてくると楽しくてたまらない。
ちなみに、揺れの大きさは試乗した GT-Line よりも Allure ベースの特別仕様車 TECH PACK EDITION のほうが大きく感じる。揺れを好まないのであれば、ホイールサイズの大きな GT-Line や、サスペンションを少し引き締め最低地上高を 5mm 下げている GT を選ぶのが良いだろう。
もうひとつ、試乗するときは走行距離にも注目して。25,000 km 走行した時点で最高だという話もある。楽しい足回りは新車では直ぐには感じにくいのかもしれない。それを許容する心をもつことは、フランス車に乗るには大事なことなのだ。
内緒にしたい玄人カー
乗員の空間設計は、標準的と言えるだろう。少し固めに感じるシートも、身体へのフィット感はなかなか良くて、快適であると言えるレベル。これまたドイツ車よりは柔らかめで、クルマの挙動での狙いがとてもわかり易い。アウトバーンで速度無制限に走らせるつもりは Peugeot には無いのだろう。
ファミリーユースやタクシー需要を見越してか、フロントよりも少し高めにセットされたリアシートなど、気をつかった形跡があるのが嬉しい。少し大きめの子供を乗せても十分な広さがある。
ダッシュボード周りは、ライバルであるゴルフに比べれば素材感のチープさは否めない。しかし造形でカバーしている。高い位置にマウントされた液晶ディスプレイやら、少ないボタンの配列に違和感を感じないのであれば、最強のCセグメントカーの一つとして選んでみて欲しい。
正直言って、楽しいクルマ、楽しいメーカー。何故日本では 10,000 台そこらしか売らないのだろう?
けれども、お求めやすくて性能の良い Peugeot 。車好きの玄人の為のものと考えて、皆に内緒にしておくのも良いかもしれないね。
Peugeot 308SW Spec.
紹介車 Peugeot 308SW 1.5 BlueHDi TECH PACK EDITION
Engine 1,498 cc Line 4 DOHC Diesel Engine
Max Power 130 ps
Max Torque 300 Nm
Width 1,805 mm
Length 4,600 mm
Height 1,555 mm
Weight 1,380 kg
JC08 21.6 km/L
安全装置 6 エアバッグ / ブレーキアシスト付きクルーズコントロール / 車線逸脱修正機能 / 後方ブラインドスポットインフォメーション
TECH PACK EDITION は Allureベース の特別仕様車です。
あとがき
試乗記の書き方変更のお試し記事。その初回は当然、愛車 Peugeot 308SW でございます。
今、このブログにはプジョー乗りの方やボルボ乗りの方、はたまた全く違う別メーカーにお乗りの方も読んでくださっている様子です。その全ての人が満足して、楽しく読める記事って無いかな・・・と悩みだした末の、以前のスランプ宣言です(笑)
しかし、時間のかかる書き方ですね・・・ほどほどに楽しみながら書くようにいたします(^^)