足回りが良いと評判のクルマがあったとします。自動車メディアに書かれていたり、インターネットの口コミを読んでみたり。それで、実際にクルマに乗ってみると、そうでもないなと感じたり、思ったよりも良いと感じたりする体験は、皆さんもお有りのことと思います。
人は感覚の生き物ですから、先入観が場合によっては感じ方を変える場合もあります。スタイルから連想する乗り心地というのもあるでしょう。つまり、クルマに対する感じ方なんて十人十色、メディアも口コミも信じてはいけないのです。その時の体調、天気、色々なことでクルマの評価は変わってしまう。
そのような難しいクルマの評価を、簡単に感覚だけで済ませちゃおうというのが、【クルマの感じ方】シリーズの記事です。どうぞお役立てくださいませ。
サスペンションが良いクルマとは
まず、定義から行きましょう。
例えば、スポーツカーは概ねサスペンションが硬く味付けされていますが、操縦の反応が早くドライバーの思った通りに車を動かすことができます。ファミリーカーやセダンは柔らかい味付けで、同乗者を快適に目的地まで運びますが、急のつく操作には弱い場合が多いです。
この「乗り心地」と「操縦安定性」を、できるだけ高次元にセッティングするのがサスペンションを開発するメーカーの役割。では、それらサスペンションがどれだけ高性能なのか判断するにはどうしたら良いのか?これが、今回の記事で解決します。
良いサスペンションの感じ方
最初に軽いメッセージを。本題にすぐに入りたい方は、スクロールして飛ばしてね。
monogress の筆者まこまちは、クルマのことについて言えば技術者的には素人です。では、ブログで何を伝えるの?と言われれば、クルマのコトで言えば結局のところ「印象」に尽きてしまいます。
なにせ、クルマは好きですが試乗を沢山するわけではありませんし、どんどん乗り換えるわけでもありませんし、自動車メーカーの人ではないしメカニックでもない、俗に言われる試乗ブロガーとか業界人に比べれば「経験値」は少ないと言わざるを得ません。
ただね、印象ってのは大事なんです。そもそも、素人の感じる印象を良くするためにメーカーの方々は頑張って調整するのですから。クルマに試乗して感じることって、細かく伝えれば他の人も感じることが多いですし、メカの仕組みを理解すれば更に自分で消化できたりします。
その「印象」を、テキストに起こすのがブロガーの努め。ウンチクも必要ですが、ほとんどの人にとっては快適な乗り心地さえあれば良いのです。
ただし、乗り心地が良いからと言って限界性能をおろそかにしてはいけません。世の中、良い車と悪い車は確かにあって、乗り心地は乗る人とのマッチングですが、限界性能=安全性能はしっかりと考えておかなくちゃ。そこを踏まえ、自分に合うクルマというものを、しっかりと選ぼうじゃありませんか。
ロード・ノイズの有無の確認
それでは始めましょうか。サスペンションの印象を捉えるとき、私は次のことを大事にしながらステアリングを握ります。まずは感覚で入って、その後に理解に結びつけます。
まずは、ロード・ノイズの有無。よほどのハードセッティング好きでないかぎり、クルマは乗り心地が良いほうがいいに決まっています。ただ、乗り心地の良さには沢山の要素を掛け合わせなければなりません。
その中で、一番単純かつベースになるのが、路面からのザラつきの印象。小さな凸凹はタイヤが吸収してくれますが、その後の微小振動を収めるのはサスペンションの役目。クルマへの微振動と、タイヤからのロードノイズが大きすぎないかどうか、身体と耳とで感じてください。私はこれを「路面なめ」と言っています。路面はヌルヌルが良い〜
フロントサスペンションへショックが入る時の振動の質感
大雑把に言うと、「トン」と入るか、「ビリビリ」と入るか。硬い・柔らかいではなく、無駄なノイズが入るか、入らないか。主にサスペンションを固定するところの剛性と、サスペンションにナナメに力が加わった時のフリクションに関わるところです。高速道路の継ぎ目での快適性にも深く関係。
試乗車に乗る時に、私が第一にチェックするのが、駐車場から車道に落ちる時の「車道落ちチェック」。サスペンションのほとんどの印象が、ここで決まります。素直に「トン」と落ちて、車体が揺すられずストロークすれば、70点以上は間違いないです。「ドタっ」とビリビリ音がしたら、ほぼ0点。
最初が良くても、走り出してNGになる場合も。私は「ビリビリチェック」と呼びますが、「ビリビリ」は乗り心地が硬い・柔らかいなど双方関わらず乗り心地の印象にマイナスイメージを与えます。タイヤ・ブッシュも関係はするのですが、サスペンション剛性って、けっこう大事な要素なんですよね。
コーナーリング中にサスペンションがストロークする時の質感
カーブ途中で前輪がどのようにバウンドするか。バウンドしたとき、クルマの位置がずれないか。タイヤの設置感に関わるところで、安全性に関わるところだと(素人的に)感じています。
コーナーリング中に一番荷重がかかっているのは、カーブの外側のフロントサスペンションです。重いエンジンの重量を支えつつ、しっかりとストロークしてタイヤが踏ん張れば、限界が高くて安心感があります。突き上げを感じるシチュエーションも参考になります。例えば、プジョーの足回りは、指数関数的に減衰力が強くなっていくのがわかります。これを私は「粘る」と表現しますね。
一方、リアサスペンションの追従性も確認します。ショックが入ったとき、リアが一瞬滑るような感覚があるかどうか。身体の角度がスッと変わるというと、わかりやすいかも。リアが弾んでしまうような車は怖いです。「限界チェック」は、必ず実施したいですね。
急ハンドルでコーナーリングからストレートに復帰する時の質感
試乗ではできないんですけどね(笑)緊急回避をしたときとか、下り坂から登り坂とカーブが一緒になった環境、つまりハードなオペレーションを行う時の動きです。サスペンションをつかってタイヤをしっかり接地できていれば、横Gこそかかりますがオン・ザ・レールを楽しめる安全にライントレースができる。
FRならフロントの荷重が抜けやすいか、FFならリアの追従が上手くいくか、です。ハンドリングにも関わるところですね。こういう時、AWDというのは万能選手だと感じます。タイヤが路面を捉えていれば、クルマを前に押し出すことができるんですから。SUBARU車で滑ったことなんて一度もない。
これを私は「姿勢復帰チェック」と言います。街なかで試すなら、交差点を曲がる時のカーブくらいかな・・・
リアサスペンションへショックが入る時の振動の質
直線でのリア・サスペンションの理解は、私には難しいですね。だいたいは「音」と「ストローク量」で感覚を探ります。
大きな揺れが入ったときの挙動は面白いです。マルチリンクならクルマの姿勢はあまり変わること無く、走り続けられます。トーションビームやリジッドだと、姿勢を崩すこともあります。が、姿勢はサスペンションの特性によるので、あまり大きくは捉えません。嫌味な癖がなければ良しとしましょう。私は「リアサス性格診断」として楽しんでいます。
やっぱり、乗り心地も大事です。前輪と後輪で音の大きさに違いはあるか、リアだけが大きく揺れないか。運転席から遠いので判断は難しく、乗り心地だけなら実際にリアシートに座ったほうが良いです。結構印象が違いますから。(「リア乗り心地チェック」ですね。)
フロント・リアのマッチングの調整
SUVなどに多いですが、ピッチングをどれだけ感じるか。ホイールベースの長さや、タイヤ位置に対してドライバーが何処にいるかによっても、ピッチングの印象は変わってきます。
結構面白い要素で、ピッチングを感じないクルマ、はっきり感じるクルマに分かれるんです。SUVは背が高くて、大径タイヤを履いているからホイールベースが短い、結果的にピッチングは感じやすいのですが、Peugeot 3008 とか VOLVO XC40 とかは優秀。異色なところだと、Jeep RENEGADE も良かった。素晴らしい出来栄えでしたね。
SUV勢は、この「ピッチングチェック」は身体が慣れてわからないかも?
チェックポイント一覧
ということで、これらを一言ずつのチェックポイントにすると、以下のようになります。
- 路面のザラザラを感じるかどうか(路面なめ)
- 駐車場から道路に落ちる時に無駄な揺れはないか(車道落ちチェック)
- 大きめの入力でフロントサスペンションがビリビリしないか(ビリビリチェック)
- コーナーリング中にクルマの位置がずれないか(限界チェック)
- 急ハンドル→姿勢を戻す時に無駄な動きはないか(姿勢復帰チェック)
- 大きめの入力でリアサスペンション由来の位置ずれがおきないか(リアサス性格診断)
- リアシートの乗り心地を邪魔する要因はないか(乗り心地チェック)
- 大きなピッチングがおきないか(ピッチングチェック)
カッコ内の愛称でわかり易くしておきました(・∀・)
はい、そしてこれらクルマの感じ方こそ、良いサスペンションかどうかの見分け方となります。まこまち流にはなりますが、お役立て頂けたら幸いかと。
前輪だけがドタバタ言うクルマ、リアシートがメチャクチャ揺れるクルマ、これらはサスペンションの影響が大きいです。エンジンやスタイルで目をつむれればよいのですが、乗り心地って意外なほどボディーブローのように不満がたまります。試乗ではどうしてもウキウキしてしまい見逃しがちですが、良い車選びの為にも独自のチェックポイントを用意しましょう。
サスペンションが優秀だなと感じたクルマ
私が所有したり試乗したりした時の、サスペンションが優秀だったと感じたクルマを列挙します。そもそも、乗っている数が少ないのでご参考までにお願いしますね。
Volkswagen Golf
足回りが優秀すぎる、フォルクスワーゲン・ゴルフ。まず、路面に前輪を落としただけで優秀だとわかるジワっとした質感、走り出してもフラットを維持。スポーティでもコンフォートでもないのですが、乗る人を快適に、安全に目的地にまで届けることにおいては、やっぱり世界一なんじゃないかな、と思わせるクルマです。
Peugeot 3008
ぎっしり詰まった感のある性能凝縮ボディは結構重いのに、サスペンションをズンズン動かしながら様々な道路を駆け抜ける。SUV界隈では私は一等賞をつけてしまいます。リアサスペンションのトーションビームは、日本車のダブルウィッシュボーンなんぞ蹴散らす勢いで姿勢を維持。そうすると、横剛性の強さが有利ポイントになるんですよね。流石フランス・プジョーです。
ちなみに、プジョーのサスペンションは総じてレベルが高い。508 も 308 も、208 も・・・・
HONDA CIVIC e:HEV
Cセグメントでは抜きん出た実力のある、ホンダシビックFL4!確かに固めのセッティングなのだけど、サスペンションはビビリもしないし路面のザラザラは感じないし、スッキリした味わいが好印象。現行ゴルフが実力を落とし気味とはいったものの、日本車で欧州Cセグメントに勝負できるのって、シビックだけなんじゃないだろうか?
現在のところ、「路面なめ」一等賞!
mazda 3
あぁ、いや、もう一台ありました。エロデザインでオヤジを刈り取るマツダのホープ、mazda 3。308SW 時代、私に「ずるい」と言わせたのが、このクルマです。リアサスペンションはトーションビームなのですが、揺れの吸収が素晴らしくて上体が振られない。クルマとしての評価が高く、それでも SUV の影で我慢している実力車です。
サスペンション・想い出話
まあ、ちょこっと楽しい昔話を・・・
猫脚と評されるプジョーに乗ったとき、私はようやく満足のいくサスペンションに出会ったと感じていました。
Peugeot 308SW はとてもサスペンションのストロークを感じるクルマで、よく踏み込むし、粘り気のあってお気に入りでした。TECH PACK EDITION はフロントシートがスポーツシートだったので、乗り心地の良さがちょっとスポイルされていたのは残念でしたが、重量バランスもエンジンの出力もよく練られていて、300万円前半のクルマとは思えない素晴らしいクルマでしたね。
308SW の前は、同じくCセグメントの VOLVO V40。このクルマ、乗り心地は悪くはないのですがロードノイズが大きすぎで、さらにディーゼルエンジンの音も大きい。見た目はとてもコンフォートなのに、中身はうるさいジャジャ馬でした。
V40 くらいまでのボルボって、Cセグメントの足回りは雑だったのかもしれませんね。V40の前はV50に乗っていましたが、グレード毎の足回りのセッティングには違いはないと言いつつ、17インチホイールに合わせたセッティングでした。16インチのタイヤを履きこなしては居なかったし、V40 はガソリンエンジン向けのセッティングで、ディーゼルエンジン仕様はアンダーステアの鬼のようなクルマ(笑)
なので、308SW は唸りました。よく動く足回り、ボディが大きい割には軽くて、フットワークも良い。おかげで、サスペンションを語ることができるくらいには経験を積むこともできたというわけです(笑)
その 308SW を上回っていたのが、先代 Volkswagen GOLF Valiant。V40 か GOLF か迷った時、足回りならワーゲン、エンジンならボルボという選択で敗れたものの、世界一の称号をつけたくなるくらいに良いサスペンションの持ち主だった。
そして2022年夏。日本車への乗り換えを画策している最中に念のためにと試乗した新型GOLFは、熟成の進んだ 308SW に及ばなかった・・・この不満に応えたのが、HONDA CIVIC e:HEV だったというストーリーです。
CIVIC e:HEV の試乗、エンジンのデキもさることながら、「車道落ち」で興奮して、「路面なめ」で昇天目前!!一気に欲しいに動いてしまったのでした。
現代の HONDA は総じて、足回りが良くなったと感じています。N-BOX も素晴らしい。VEZEL も官能性能さえ考えなければ最高の選択肢。CIVIC と ZR-V は、クルマを操る楽しささえ感じさせてくれます。
何台も乗り換え、ようやくたどり着いたサスペンションの理想郷。308SW と CIVIC は、乗り心地の方向性こそ違いますが、両者しっかりとポリシーを持っていて、素晴らしいと唸らせるサスペンションですが、これらのクルマに出会うまでに何度も失敗と後悔をしたことは、おわかり頂けたんじゃないでしょうか。
サスペンションは、クルマの命。なにせ、路面とのインターフェイスはタイヤとサスペンションです。ここにこだわりを持った車選びができたなら、貴方の車選びは勝ち。妥協せず、何度でも試乗コースを回ってクルマの良さを見極めましょう。
結びの瞬景
長野の居住地探し中の愛車、Peugeot 308SW。やはり、サスペンションを語るにはプジョーなくしては語れません・・・シトロエンも乗っておきたいなあ。
山道も高速道路も、いつもスポーティで硬いサスペンションだと疲れてしまいます。クイックなハンドリングは楽しいけれど、ロングドライブならばある程度乗り心地がよくなくっちゃ。
ちなみに、CIVIC はスポーティですがまったく硬くなく、308SW 以上にロードノイズが消えていて爽快なフィーリング。サスペンションが良い車って、それだけで幸せになりますよね(*^_^*)