世の中、燃費の良い電気自動車やハイブリッド車、7人乗れるクルマがチヤホヤされて、ディーゼルだって燃費が良い!だとか、フランスや北欧車のほうがオシャレだ!などと言っている私達は(巻き込んでしまい恐縮だが)なんだか肩身が狭い想いである。
今は純粋なICE(内燃機関)を手にする最後の機会。自分の好きなクルマを選ばず「よくある」車に乗ることは、ストレス意外の何者でもないはず。なのに、日本人は右へならえが当然!と言わんばかりに、我慢グルマが巷を駆け抜ける。とても悲しい。
和製ミニバンを見てみれば、輸入車よりも顔がエグい。これが、ロードスターやフェアレディ、117クーペを作った国のクルマなのだろうかと思うと、私は輸入車に流れている人たちこそが、華麗なデザインの車好きの末裔なのだと感じてしまう。
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今回は、新たなシリーズ記事の一作目。
輸入車に乗るというのは、冒険だ。日本車よりも割高に見える代金を支払い、割高と思える車検を通す。故障のリスクも、開発した国と気候の違う日本では、どのようになるか判らない。それでも、輸入車には輸入車しかない幸せがあるものだ。
ヘレン・ケラーは「生とは、果敢なる冒険かそれともつまらぬもののどちらかだ。」と言っていたが、輸入車に乗ることは、冒険としては些細なこと。生死をわける厳しさは無いし、少なくともディーラーで買えるし保険も効くから、完全に動かせなくなるということはありえない。
それでも、スプーンひとさじ、財布の中を少し追加で痛めることで、輸入車は手に入る、常識の通用しない、甘美で可憐な輸入車ライフを楽しむことというのは、冒険といっても良いのではないだろうか。生死はもとより、ギャンブルでも勝負事でもない、前向きな胸の高鳴りが手に入る。
そんなドキドキを、沢山の写真と、たっぷり吟味したテキストで綴るのが、monogress の新コーナー「モーター・アーツ」である。
Peugeot 508
モーター・アーツ
Peugeot 508 は、プジョーのフラッグシップだ。
セダンである Peugeot 508 は実はハッチバックで、シューティングブレークというスタイルで作られた。セダンの不況は日本だけでなく世界も同様のようで、中国市場意外では総スカン。それでもクルマの基本的なデザインは魅力的で、プジョーも我慢できずにフラッグシップにはセダン型をたずさえた。
もうひとつ、ステーションワゴンのPeugeot 508SWもセダンに負けず、なだらかに下がっていくルーフのおかげで、実にスタイリッシュなシルエットを手に入れている。この2台は、どちらを選んでも「オシャレ」が手に入るに違いない。
インテリアには「これでもか!」と言わんばかりのコダワリようで、独特のドライビングポーズを強要する i-Cockpit は、ヘッドアップディスプレイと同様の効果を得られて疲れにくい。当然、定評のあるシートも疲れ知らずの手助けにはなっていることだろう。



プジョーのクルマには、そのモデルごとに「プジョーいちばん」が込められている。Peugeot 508 になくて、Peugeot 308 にあるもの、Peugeot 208 にしかないもの。モデルのヒエラルキーが薄いのはプジョーの楽しさのひとつである。
それでも、フラッグシップの名のもとに、Peugeot 508 には数々の「プジョーいちばん」が存在するし、いちばんの数も多いことだろう。そのスタイルもそうであるし、1.6Lプリンスエンジンの気持ちよさも頷くところだ。
背の低さが醸し出すムードあふれるインテリアは、ラージモデルらしいリアシートの広さも兼ね備える、実用を忘れない作り込みにも関心する。



しかし、Peugeot 508 の真骨頂は、アクテイブ・サスペンションと言っていいだろう。路面の細かい振動をシャットアウトしてくれるから、ムーディなインテリアを心から楽しめるし、運転にも集中できる。プジョーならではのフラリフラリと舞うクルマの挙動を、雑音なくいつまでも楽しめる。ベースの調整がしっかりしている。
ドライブモードに連動するサスペンションセッティングは、結構雰囲気が変わるから面白い。コンフォートにもなれば、すこし大きく跳ね過ぎなのではないかと思うくらいに、大きくゆったりした上下運動を体験できる。
信号待ちや渋滞ですこし目を落とすと、落ち着いた雰囲気のステッチを随所に見ることになる。特別な車だと再認識するのは、きっとシフトの位置やセンターディスプレイの角度も関係するはず。艶やかなエクステリア・スタイルを裏切らない、伸びやかな印象を持つコックピット。なのに、囲まれ感もしっかりある。
足回りよし、エクステリア良し、インテリア良しに、エンジン良し。トータルコーディネートの完成度が高い Peugeot 508。その存在は、モーター・アーツだ。
市街地を乗り回すなら、Peugeot 2008 が扱いやすくて良いだろう。視界の良さ、積載性の良さ、乗り心地の良さ。Peugeot 508に引けを取らないばかりか、取り回しのしやすいコンパクトボディをまとっている。コンパクトSUVは、売れるわけだ。
けれども、優雅な走りを満喫したくなることもある。見栄を張りたいわけでなく、優しく大きく、ゆったりと、大事な時間を、大事に愉しむ。これをも大衆にしてしまうのは少々依憑をつかれるが、文化の違いを理解して、染まりきるのもいいだろう。
ハイスピードを追いかけるよりも、積極的にゆっくり生きたい。スタイリッシュの奥底に、しっかりとフランス人の血が流れていることのわかるクルマだ。