【ノベル風旅行記】秋の北信濃②上信越自動車道 苛立ちは霧の中に

北信濃の旅行の情景をノベル風に書き記すシリーズ、第2話です。

 

このお話は、プジョーブロガー3人が集まったプチオフ開催を記念して作りました。出来事や時系列を題材にした、かなりのフィクションに仕立てています。第2話は、行きの信濃路での心の葛藤を描きます。

 

軽い気持ちで読んでね(^^)重苦しい雰囲気もないと、その後が映えないし・・・重苦しいのは今回まででございますよ!

 

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北信濃オフ会旅行記 その2「上信越自動車道 苛立ちは霧の中に」

 

なんだか奇妙なことになった。車の声が聞こえるなんて。だって君は、無機物なモノではないのかい?

 

(本当に、そう思う?)

 

違うと言うのか?車を触った時にしか、君の声は聞こえないぞ?

 

(ハハハ、よくわかっているじゃない。)

 

よくわかっているものか。私はいったい、誰と話しているのだろう。遠くに見える、かすんだ山のその先から、聞こえているような気もしなくはない。

 

世界は広いと思っているが、車がしゃべるなんていうのは作り話でしか見たことがない。プジョーが何かを仕込んだとも思えない。少し気が動転しそうになったけれど、とにかく話を続けてみよう。

 

私は再び車に触れて、声に出して話しかける。

 

「君は、Peugeot 308そのものなのかい?」

 

 

 

 

 

「答えろよ!」

 

なんだ、やっぱり幻聴なのか。車が喋るわけがないんだ。一人で何を喋ってるんだ!聞く人が聞けば、変な人だと思われちゃう。Peugeot308SW に向かって、なんでわざわざ車種を聞いているのだろうか!

 

せめてグレードを聞こうよ!

 

いや、違うから!

 

パーン!とアスファルトに投げつけたのは窓拭きタオル。嗚呼、しっかり洗わないとボディに傷がつくかもしれない。こんなヤツならいいか、とは言えないところが悲しくて仕方がない。

 

仕方なく地団駄を踏んでみる。人が少ない横川サービスエリアで良かった。周りには、悲しい目をした人は居ない。ギリギリセーフ。気を取り直して行こうじゃない。

 

群馬県から長野県へ。横川サービスエリアは、遥か昔から難所として知られていた、碓氷峠の麓に位置する。二つの土地は元は同じ台地であったが、群馬側だけ川によって侵食され、今の峠になったという。

 

霧積川が侵食をになったようだが、特に大きな川でもなくて、時間のスケールを感じてしまう。細い道を登っていけば、小さな滝をみれると言う。興味深いことではあるが、それはまた別の機会に譲るべきで。

 

ならばと、広い台地だった頃を想像すると面白い。自分の立つこの場所が、昔は土の中だった。聖徳太子が生まれる前、人が猿になる前の時代。何の因果か、一つの大地は、二つの違う世界へ向かうことになったのだ。

 

そんな想いにふけていたら、家内がニコニコしながら寄ってきた。

 

「焼きまんじゅうって言うんだよ。」

 

見ると、味噌のようなタレのかけられた饅頭を持ち、ホクホクしている。

 

横川SA焼きまんじゅう

 

「美味しそうだね。あんこは入っているのかい?」

「いや、タレの甘さで食べるんだよ。中はフワフワ、美味しいよ。」

 

饅頭は3つがパックに入っている。饅頭と饅頭の間には、渓谷のような隙間があった。

 

「少しずらせば、碓氷峠が出来上がるね。」

「まったく何も、理解できない。」

 

と、首を横に振るも機嫌が良くなった家内を見れば、私はほっと胸を撫で下ろす。息子は目をくりくりさせてアイスを食べる。一口ペロッと私にくれる。今回の旅行のスタート地点は、ここにしたと決めておこう。

 

高坂SAのじゃがバター揚げは、なかなか美味しかったのだけど、食べ物はやはり信州に限る。焼きまんじゅうは舌の奥に広がるような甘味がとっても素晴らしい。私も別注、お好み焼きを丸めたようなものを食べたが、昔スーパーで買ってもらった粉物のような味が旨かった。

横川SA にらめっこ焼き

横川サービスエリア

 

 

 

上信越自動車道を、長野方面にスルスル走る。山の斜面にそって作られた、ゆるやかなカーブが心地いいが、時より現れるトンネルはすべて長大。けれども、トンネルを抜けるたびに黄色く染まった木々が目の前に現れる様は、なかなか乙なものだ。

 

少し霞がかった信濃路に、これから起こるドキドキを思いながらも、しかし、家内と息子と一時離れることと、もう一つの課題があることを思い出す。

 

それは、娘の事だ。

 

受験生である我が娘は、土曜日にも塾へ行く。今日は塾が終わり次第、新幹線で長野へ来る。私はオフが終わり次第、長野駅へと迎えに行く。つまりは、何もかもがはじめての事だらけ、なのである。

 

もちろん、予行練習に東京駅まで下見に行った。私はまったく口を出さずに、新幹線口まで自分で考え、自分で行かせる。私は一緒に行動するが、逆方面の電車に乗ってしまった時だけ、教えてあげる。

 

簡単に着いたねと彼女は言うが、案内看板の見逃しっぷりはなかなかだった。スマホを見ても、答えは乗っていないんだぞ?

 

とは言え、良い経験になることには違いない。

 

と、自分に言い聞かせながら進む信濃路は、楽しみと苦しみが混ざり合う。前進しているには違いないが。

 

(ビクビクしいね。)

 

不意に、さっきの声が聞こえてきた。運転中だぞ、危ないだろう。

 

(危なくはないよ。僕にはそれがわかるからね。)

 

自分は車だから、事故にならないように考えているとでも言うのだろうか。なかなか腹立たしい発言に少し苛立ちを覚えながら、どうやら考えるだけで相手に伝わる事に気がついた。

 

さっきは喋らなくなったじゃないか。

 

(そりゃ、声が聞こえるわけではないからねw)

 

なるほどね、と感心した。が、”w”にはいらっと来るね。

 

君は、何のために話しかけてきているんだい?

 

(吹っ切れない、君のためだよ。)

 

何を言う。私はしっかり吹っ切れているし、とってもチャレンジングな事をしているではないか。今回の旅行なんて、新しいことの網羅でしかないじゃないか。

 

(新しい事を言っているわけではないよ。君の心の問題だから。)

 

心の問題?

 

確かに私は最近かなり疲れがきている。職場が変わった影響はあるだろうけど、ツイッターもブログにしても、前を向くのが辛くなる。だが、しっかり働きに出ているし、家族が不安になることもない。

 

車に言われる筋合いもない。

 

(冷たいね。)

 

だんだん苛立ちを募らせて行く私を見たら、家内はどう思うことだろう。先を急ぎたい気持ちも手伝って、右足に力が入りそうになる。それを無理やり、ACCをオンにして意識から遠ざけた。

 

 

時は正午。小布施につくころ、あたりは小雨がぱらついていた。街は路地裏に至るまで、沢山の種類の庭木が色づき、その木々の色の違いがなんとも言えない綺麗な世界を描いている。残念ながら、曇り空の下ではつまらない世界になるのだが。

 

長野駅からもそこそこ離れているようで、それでも数が少なくなりつつある私鉄を乗って、小布施に来ることもできるわけで、便利な場所なんじゃないの?という感想をもつ。何でこんな辺鄙なところに、観光客がたむろしているのだろうか、という疑問はついてまわるのだ。

 

人のいない世界が好きな私としては、尋常じゃない混雑になんだか冷めてしまうけれどね。

 

(それが君の本心だよね。)

 

嫌な声がこだまする。一体何が起きているのか。ステアリングを通して聞こえているのか、声の主は私にまったくお構いなしに、話しかけてくるではないか。

 

家内と子供を店に降ろす。黄色くて欧風に仕立てられたカフェ。土壁のようで、今で言うコンクリートではない、ナチュラルな感覚を持つ建物は、なんでも料理がうまいらしい。もう少し時間を早く出発すれば良かったのだが、朝は眠いから仕方がなない。

 

「お昼ご飯は、どうするの?」

「あとでカフェに入る予定だから、その時にいただこうかな。」

「そっか、気をつけて行ってきてね。」

「うん、ママもね。何かあったら、連絡してきていいからね。」

「何かって何さ(笑)」

「えっと。。大雨とか?」

 

小布施とPeugeot308

 

裏口側に車を停める。幸い店の駐車場で、お目当ての店に入るところを見送ることができた。

 

小布施の街は、少し走れば農園の多い土地だった。とくに果樹園は多いようで、一面のりんごばたけは壮観だ。足回りの良いプジョーで走れば、ソファーのような乗り心地を、可愛い世界の中で堪能することができる。

 

これはまるでメルヘンで、まさかこんなに赤い果実が、手の届くところにぶら下がるとは思ってもみなかった。盗まれるとか、そんな意識は野暮なのだろう。田舎独特のはがゆい景色は、荒んだ心を潤すには十分だ。

 

時より、ドーンという大きな音が聞こえてくる。畑を荒らす鳥を散らすためのものらしいが、都会で聞かない音を聞き、都会で見ない遠くを覗き、都会で吸わない空気を吸えば、心も晴れて来るものだ。

 

小布施とPeugeot308

 

(そうだね、すこし気を晴らすといい。)

 

また始まった。一体何が言いたいんだ?

 

(君の心は凝っているよ。前を向こうと必死になってる。)

 

それはそうだ。カフェを目指して頑張らないと。

 

(知っているよ。頑張っている。でもさ。)

 

再度上信越道に乗りなおし、綺麗なロードを走って行く。5分でも時間を作るために、野尻湖で待つ友人に会うために。

 

(無理をしていると、思うだろう?)

 

インターチェンジを降り、ナビは残り5分を指し示す。家内と息子は食事を楽しんでいることだろう。娘はもうすぐ、塾が終わるに違いない。

 

(好きで前を向いているのかい?)

 

え?

 

(君が本当にしたいことは?)

 

 

なんだろう?

 

心にひっかかる。何だろう。ステアリングは自分の意思とは合わず、勝手に動いて道をトレースする。周りは白く華やかに濁り、世界に溶けて行く印象になる。

 

(”独りよがり”で走っていない?前を向いた”ふり”をしてはいない?)

 

私は無理をしていると思う。

 

(頑張ることより、大切にしなくちゃいけないことはたくさんある。)

 

仕事も、将来も、頑張って手に入れないと。

 

(イライラして手を振られたほうは、旅に誘われた方は、会われた方は、たまったものじゃないんだぞ。)

 

でも、心配なんだし、大変だし、少しくらいは顔に出るよ!

 

(つべこべ言わない!楽しんで前を向きなよ!)

 

ファァアーーーン!

 

軽快な1.5Lエンジンは、景気良く唸りを上げて、見えづらかった視界を晴らす。管弦楽器で奏でられたファンファーレのような、気持ちの良いエンジンサウンドがあたりを支配し、心に残った闇もシコリも、頭の上から抜き去った。

 

小径ステアリングが腕にリアルを伝えてくる。パン!パン!とパドルシフトで速度を落とし。

 

交差点を曲がる、曲がる、曲がる!

 

はじめて会う2人が目に入る!

 

そこは、電波も通信も何もない。

 

彼らは手を振って、こちらに駆け寄ってきてくれたんだ。

 

野尻湖 プジョープチオフ

 

 

あとがき

お二人に会う時、本当に感動したんです。顔も声も知らない相手に、本当に私が乗っているともわからずに。手を振って寄ってきてくれたんです。

 

本当に逢いたい人に逢う時は、こんな心境になるんですね。

 

だから、こんな嬉しい出会いを作れるのであるのなら、そのキッカケの一コマになれるなら、私はブログを続けたい。そう思った一瞬でした。

 

ちなみに、Peugeot 308SW には、高速道路のレーンキープ機能はありません。逸脱補正は付いていますが、念の為。