ノベル風に綴る秋の北信州。5話目はとうとうクライマックス。完結です。
小布施で検索してこのページにたどり着いた方。作品の前半が小布施関連の情報ですが、有名店の感想だとかは一切ありません。なにせ、人混みが嫌いなもので、行列も嫌いなもので(笑)
大変深刻な問題がひとつあって、完結編だけあって今回は多分、後半がナルシスト回となります(*´Д`)
【ノベル風旅行記】秋の北信州⑤彩る小布施とモノクローム
楽しいドライブトラベルも、この小布施でクライマックスだ。ギリギリの時間まで楽しもうとやってきて、食べ歩きを楽しみたいところだったが、あいにく善光寺で食べ過ぎた。ここではお土産を狙いたい。出来立て焼き栗はつまみたい。
小布施と言われる土地は、それなりに広いように見えるのだが、観光するのは一握りの地域だけだ。お洒落な建物と綺麗な庭は、それぞれのうちで趣向が違うが、どれも家々に溶け込んでいて美しい。
明らかに観光地としての出立ちはきな臭いが、それを差し置いても都会のショッピングセンターよりキレイ。赤く輝く紅葉もそうだし、黄色に彩る銀杏も素敵だ。ほかの木々の名前が分からないのがもどかしい。
北斎館のあたりでは、頭の上からどんぐりが落ちてきた。いがぐりだったら、さぞ痛かったことだろうと笑い合う。青空に木々の輝きが重なり合って、そして焼き栗の芳ばしい香りが漂ってくる。
かけていく子供たち。お店の人から、栗をひとついただいて、私が着く前に食べ終わった。どうせ買うことは決まっていたが、なんとなく恥ずかしく、一番大きい袋で買う。まあ、ぺろっと平らげてしまうことだろうから、心配はしてはいないのだけど。
少し景色を楽しんだ後、北斎館近くで栗ご飯を買っておく。お店の中では食べないのは、外の空気と合わせて味わいたいと思うから。どこかでベンチを見つけたら、エアコンも調理の匂いも感じない空気の中で、料理そのものを感じたい。その土地の空気と一緒に、感じたい。
そのチャンスが、時間貸し駐車場に用意されていた。駐車場の傍らにある、一つのテーブルと四つのベンチ。屋外で食べる食事の味は、店内で頂くのとはまた違う良さがある。
そして、自分の車と、紅葉とのコラボレーションを楽しみながら、栗ご飯と焼き栗を楽しんでみる。小布施ならではの庭木に見立てて、黄色の葉が舞い散って、我が Peugeot308SW も静かにその場を楽しんでいるかのようだ。
焼き栗はびっくりするくらい、実に汁気があった。殻を割るまで中は見えないのだから、これは栗自身がもつ汁気である。湿気である。殻を破って出てくる、芋に似た食感の栗味のそれは、甘味も、香りも、渋みも、大変美味しいものであった。
栗ご飯は、これは栗が甘すぎるのか、甘露煮だからか、せっかくの栗の旨味が消えていた。しかし独特の風味はゴハン側に移っていて、栗ご飯を楽しむには些細なことであった。
小布施を離れる時、さわやかな空気は力強く頬を撫でる。この旅の終わりは、沢山の人に助けられて、間違いそうになった自分の向きを正してくれた。自然もそう、土地もそう。何事にも前を向く、楽しむ。世界に朝が訪れるように、私の心にも朝が来た。
◇
それでも、旅が終わる寂しさは私の足をちょくちょく止めた。サービスエリアがあれば止まってみた。
家族は、時間のことは気にしてはいないだろう。いや、私に気を遣ってか、都度都度止まるサービスエリアを楽しんで、私に笑顔を振りまいた。私はそれを見て、そろそろ本腰を入れて帰路に着かなくては、と考える。
(そうだね、明日は子供は学校だし、仕事もある。そろそろ現実に戻らないとね。)
ステアリングに指をかけて、私は声に話しかける。
私が元気になったのは、君という車のおかげだ。本当にありがとう。
まさか、クルマが話しかけて来ようとは。とても不可思議なことだけど、スッと受け入れられたのは、自分の悩むところをついてきたからだ。この声は、きっと私の近くにいるに違いない。ステアリングを握れば通ずるというのであれば、それは我が愛車であろうことは一目瞭然なはずだった。
その声は、驚くほど控えめな声で、私に言葉を伝えてきた。
(僕は、プジョーではないよ。車から声が聞こえたなんて、勘違いだよ。)
え?車ではないのであれば、君は一体なんなのだ。
(僕は、役目だ。君自身の心の中の、意識の届かないところにある、君というものを立ち直させるための役目だよ。)
何を言っているのか、わからない。
(君の心は、この旅が始まる時、すでにボロボロだったんだ。限界が近かった。慣れないことが多すぎて、それを自分がきっかけだと信じていたから、心の中に歪みができた。)
だけど、今は前向きに歩いていけるところまで回復したぞ。
(そうさ、それが僕だから。役目だから。君の心が癒えた時、僕は消える。)
君は、ステアリングを握れば話ができたから、車だと思っていたのに、私は私に声をかけていたというのか。
(ステアリングや車のボディをキーにしたのは、この愛車がきっかけで、いろいろな事が起きているから。ブログも、オフ会も、みんなプジョーのおかげだろう?)
俄かに信じがたいじゃないか。私は自分で、自分を癒すようなやつなのか。
(それは違うよ。君が癒えたのは、土地であり、食事であり、家族であり、オフであった仲間たちのおかげだよ。心から支えてからようとしている周りの人の気配りが、君にしっかり届くように、少し手助けをしただけさ。)
しかし、北信州での峠道も、オフ会の前だって、君は私に話しかけてきてくれた。クルマとして、そこにいたじゃないか。
(考えてごらんよ。クルマが話すなんて、おかしな事だろう?現実離れしている、と思うだろう?そういう事なのさ。)
私は戸惑い、ステアリングを握る手が小刻みに震える。私を励まし、楽しまし、勇気づけた声の持ち主が、自分自身だなんて信じられなかったのだ。
だが、言われてみれば確かにそうで、クルマと話をするだなんておかしな話だ。他の人には聞こえない、不思議な声はつまり、自分で作り出した妄想だという事だろう。
快走する愛車は、中央自動車道に進んでゆく。諏訪サービスエリアを超えて、片側二車線の狭い高速道路を景気良く走っていく。
(大丈夫だよ。君は充分回復している。僕の声も、もうすぐ聞こえなくなるだろうけど、そんな事があったことも記憶には残らない。)
原サービスエリアの看板を横切り、中央自動車道で一番高い場所を過ぎようとしている。外の景色は、北信州に劣らない紅葉を見せている。
(君がもしもまた、僕の力が必要になる時は、勝手に話しかけてあげるから。安心して日々の生活を楽しんでほしい。)
眩く輝く夕陽は絶頂を迎え、背中側から車内を照らす。赤と青のステッチは、夕陽とのコラボレーションを楽しむかなように、自身も燃え上がり輝いた。
(つまり、話しかけられない事が一番だ。どうか心を病まず、健康に生きて。)
あたりが暗くなって行く。声はだんだんと、私の意識から消えていく。
(さようなら。)
陽の光が車内から消えるのと時を同じくして、不思議な声は聞こえなくなる。その声があったのか、なかったのかも、だんだんわからなくなってくる。夢で見たハッピーエンドが儚く記憶からなくなるように、私は声に励まされた記憶を無くしていった。
◇
ファァアーーーーン!
クラクションを鳴らして、消えていく意識を無理やり捕まえた。私が、私自身を意識の中に引っ張り出す。真っ暗とも真っ白とも言えない景色の中で、私は叫ぶ。
勝手なことを言うんじゃない!この旅行を、これだけ記憶の中でひっかきまわして、無かったような事になんてするな!
君は私なのかもしれないが、私じゃないかもしれないじゃないか!本当は車の妖精かもしれないじゃないか!大地の精霊かもしれないじゃないか!君が君であって、私であるか違うかなんて、まったくどうでもいい話なんだ!
君の言う通り、前を向けた!世界を肯定できるんだ!こんな特別は、簡単にできてたまるものか!
勝手に消えるなよ!感謝くらい言わせろよ!
前を向いた証に、心からありがとうと言わせろよ!!
(・・・)
灰色でない白と黒は、走行音で現実世界に引き戻される。鳴らしたはずのクラクションはコダマもせず、それ自体が心の中で行われた事だと理解した。
世界は、なにも変わっていなかった。記憶を辿れば、横川サービスエリアでイライラして、オフ会では心から楽しんで、娘を快速で迎えにいって、善光寺と小布施で家族旅行を楽しんだ。
何かに頼って旅をしたはずだったが、思い出せない。暖かい何か、家族ではない、ブロガーでもない、何か。
不思議な感覚だけがつきまとうが、不自然は時々感じる事だ。デジャヴは久しぶりかな、なんて思ってみたが、その感覚さえすぐに消えていく。跡形もなく、消えていく。
「双葉サービスエリアに寄って、少し休もう。もうすこし時間がかかりそうだ。」
渋滞情報の掲示板を見ると、大月から先、八王子まで渋滞と表示されていた。抜けるのに3時間はかかるようだ。
◇
「お腹?空くかもしれないけど、今はそんなに食欲ないなあ。」
娘はそう言ってお腹をさする。言われてみれば、彼女はずっと焼き栗を食べていた。リアシートを見たときに、戦慄がはしるのは確定だろうから、車に乗る前に少し叩いておかねばなるまい。
息子はコーラを2本手に持ち、「パパはこれでいい?」と聞いてきた。念の為、ポテロングも買うように指示を出す。3時間の微速走行は、きっと身体にこたえるだろう。
家内は渋滞を避けるルートを調べていた。途中で一般道に降りるルート、峠道を行くルート。興味はあるが、知らない道を真っ暗闇の中で走るのは、なかなか危険なことではある。少しの食料を買い込んで、車に戻ることにした。
大月までは快調に走れそうだ。渋滞は自然渋滞の中で起きた事故によって、かなりの時間車線規制されたようだ。これでは談合坂のサービスエリアも混んでいるに違いない。
ゆっくりとPeugeot308SW で走り出し、走行車線を気楽に走る。焦っても仕方ない、体に負担のかからない方法で行こうじゃないか。
笹子トンネルを超えて、もう少しで大月インターチェンジだ。渋滞情報の掲示板も、マップソフトも、一向に時間が短縮されない。これは本格的に覚悟しないと。
(大月インターを河口湖方面へ)
え?
咄嗟に左ウインカーを出して、大月インターの河口湖方面に車を向かわせる。
「パパ、急にどうしたの?」
家内が不思議そうにこちらを覗いた。
「いや、声がしたから。ナビじゃないの?」
「ナビソフトは八王子の方を向いているけど。」
確かに、Carplayで表示された方向は、八王子方面へ直進だった。ところが、インターチェンジを越えて大きく右にカーブすると、ナビソフトは走行時間を再計算した。
「あら?到着時間が1時間半短縮されたわ。。」
「海老名の渋滞が解消したって事?」
「表示がグリーンだから、きっとそうかも。」
中央道の河口湖から御殿場へ向かい、東名高速で帰るルートは、それなりに博打である。我が家に着くまで、走行距離は1.5倍に膨らむからだ。海老名の渋滞に巻き込まれれば、走った割に時間短縮効果は薄い。
けれども、今日はどうやら正解ルートと言えるらしい。大井松田から秦野中井に至る渋滞も解消し、海老名のあたりは混んでこそいたけれど、時速30km/hを下回るようなことはなかった。
思ったよりも早く着いて、車で食べ残したお菓子を楽しむ。
シャワーを浴びて、布団に入ってまどろんだ。
今回の旅行は、本当に楽しかった。心の栄養をとれた気分だ。今度はこのことをブログに書く楽しさも待っている。気分が良くなって笑をこぼすが、身体はとても正直で、私の意識はすぐに消えていった。
◇
白い世界。
空は白く、地平は白い水。私は水の上に立っている。
どこか遠くで、木と木がぶつかり合うような、高く鳴り響く音が聞こえる。その音で世界は満たされるから、無音を感じることはない。寂しさも感じない。
白いワゴンが、そこにいた。
ワゴン見ているにも関わらず、ステアリングを握る私も自覚する。
エンジンスタートスイッチを押すと、軽いエンジン音が鳴り響いた。
(お疲れ様。)
懐かしい声が聞こえるが、それが誰だか意識ができない。
アクセルを踏むと、車は無音で走り出した。
何かを言わなくてはならない気がして、何を言うべきか考えたが、思い浮かばない。
けれども、その声は世界を見渡している気がして、声の中にいる気がして、安心している気がしていた。
車の速度はイマイチ理解ができなくて、運転するのをやめる事にした。車から降りると、急に切ない気持ちが込み上げてくる。
空を見上げると、白から朝焼けに変わっていた。
この空の朝は、私の心の空だと何故だか自覚する。同時に、白の空は特別な何かの空であったと、やはり自覚した。
急に世界に一人になった気がしたが、明るい方へ歩けば良いと考えた。そちらの方に、未来がある気がしたからだ。
日の登る方に歩みを進める。世界はだんだんと明るくなる。なんだかワクワクしてくるのがわかる。
そこが、かけがえのない明日であるのがわかった。
心の中の、何かが弾けて、理解する。
道は、自分で進んでいくものなのだ。道は、自分で切り開くものなのだ。人を恨んでも、文句を言っても、後ろを向いても何も得られない。前を向かない事に慣れてしまえば、誰かのこころに傷をつけて、自分を正当化してしまう。
だれも助けてくれないのに、知ったような顔ができれば、世界にしがみつくことはできてしまう。そんな心に、私は染まってしまっていた。
前を向くのは、大変だ。
希望を叶えるのは、苦労する。
だから、前を向いて、苦労を乗り越えることができたとき、人は成長するのだし、幸せを手に入れられる。
明日へ向かって、前を向こう。
「ありがとう。」
何かが、にこりと笑った気がした。満足感に満たされていく。ほっとして、暖かくなっていく。
大事な事に気づかせてくれた、何かの大きな意識に。感謝を伝えたい。
THE END
あとがき
いやあ。書きましたね。書きすぎたし、もう少し感動的な終わり方にしたかった!
ノベル風、いかがでしたか。旅行記事は人気がなくて、なんとか面白いものを提供したかったのですが、テキストメインも毛嫌いされるし、難しいものです。
ただ、楽しさを追求する以外にも理由があって、それは頭から文章を引き出したくするだとか、新たなコンテンツを作るとか。そんな意味合いもあるわけで。
独りよがりのブログになるのも嫌ですから、ここで一旦終わりにしますけどね(^ ^)
お付き合いいただき、ありがとうございました!